悠の詩〈第3章〉
6/66
「お~、やってるやってる」
照井さんがカレーを乗せたお盆を片手にスタジオに入ってきたのは、14時を回ろうという頃。
まだ30分くらいしか経ってないのに、俺と樹深は汗だくだった。
こんな整っている環境で楽器を演らせて貰って、コタ先生が付きっきりで教えてくれる。
言う通り贅沢なのだけど、その分いつもより体力が持ってかれるのは気のせいじゃないと思う。
「うおー! カレー!」
俺の腹だって限界をとっくに過ぎてんだ、これくらい叫んだってバチは当たらないだろ。
照井さんは目を丸くしながらも緩く笑って、「休憩にしたら?」とコタ先生に言う。
「あぁそうだな…あ、その前に、お前達、照井に聴かせてみろ。
さっきの調子でな、なかなか上手かったぞ」
先生の言葉にえー!? と俺達は叫んだけど、「お~、聴かせて聴かせて」と照井さんはカウンターテーブルにお盆を置いて、興味津々に俺達を眺めるから、断れるはずもなかった。
一度顔の汗をタオルで拭き取ってふうっと大きく息を吐いて、樹深を見ると、手の汗をタオルで拭き取って同じくふうっと大きく息を吐いてら(笑)
そして肩越しに、「いつでもどーぞ」声にはしなかったけれど、そう言いたげな視線を俺に寄越した。
緊張はするけどやるっきゃねぇ、スティックを4回鳴らして俺達は演奏を始めた。
努力は裏切らない…野球で既に確信済みだったけど、今回の事で更に信憑が増した。
俺も樹深も、自分がどんどん上手くなっていくのを感じて高揚してたんだ。
「お~、素晴らしい素晴らしい。息ぴったりだねぇ。
やり始めて1週間もしてないんだって? 大したもんだなぁ。
あの頃の土浦よりいけてると思う(笑)」
拍手を送りながら、途中思い出し笑いを噛み殺して感想を言った照井さん、
「ばっか、俺はもう少し上手かったって」
「はいはい。ほらカレー冷めちゃうから、早く食べて」
コタ先生の抗議を軽くあしらって、ハイチェアーを三つカウンターに並べた。
…