赤い列車に揺られて
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赤い列車に揺られて、タタン、タタン。
向かった先は──三崎口。
【まもなく~、終~点、三崎口、三崎口~に、停まります。】
独特のテンポで案内する車掌の声、これに母さんの声が重なる。
「…ル。カケル。
もうすぐ降りるよ。起きなさい。
ほら、メグミも。早く」
肩を寄せ合って眠っていた僕たち兄妹を揺さぶって目が開いたのを確認すると、母さんは網棚から荷物を下ろした。
僕と妹は眠気まなこで自分のリュックを背負うと、母さんと一緒に扉の脇へ移動した。
プシューッと扉が開くと、潮の香りがふわっと鼻をくすぐった。
あんまり昔の事なので、改札を抜けたらすぐ目の前に目的地があったと記憶していた僕だったが、実際はそこから更にバスに乗ったらしい。
僕たちは水族館にやって来た。
平日だったから、人はまばらだった。
「メグミ。カケル。こっちにおいで。ペンギンがいるよ」
母さんは妹の手を引いて、僕には手招きして呼ぶだけ、さっさと先に行ってしまった。
「ほら、かわいいねぇ」
母さんの声掛けに、妹は静かに頷くだけ。
妹は心の病気だった。
長いこと学校に行けてなかった。
母さんは時々こうして妹を連れ出していたけど、一向に効果がない…
今回の遠出に僕も連れたのは何故だろう。
学校を休まされ、嘘がばれないかとヒヤヒヤだというのに。
「さあ、あそこの広場でお弁当を食べよう」
朝早くに母さんがこしらえたお弁当を、それぞれのリュックから出した。
「わあっ、おにいちゃん、見て」
珍しく妹が嬉しそうな声を上げた。
妹が好きなキャラクターを型どったおにぎりが入っていたのだ。
僕のお弁当箱の方にも、昔好きだった戦隊モノのキャラのおにぎりが入っていた。
母さん、こんな器用なこと出来たの? というのと、キャラがもう僕の中では古過ぎて、思わず苦笑い。
そんな両極端の反応の僕と妹を見て、母さんはやさしい眼差しで微笑んでいた…
僕の数少ない、幼く懐かしい日の記憶。
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