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どうかその花に寄り添わせて
「迎えに来てくださってありがとうございます、ミズキさん」
「別に。たまたまこっちに用があっただけだっての。オラ、ぼさっとしてんな。行くぞ」
「はい」
駅を出てすぐ、特徴的な髪を見つけて駆け寄れば、彼は無愛想ながらも先導するように私の前を歩き出した。スターレスに通い始めた頃と比べたら、少しは気を許してくれているのかな、なんて。半ば引っ張られるようにして連れていかれていたのが懐かしい。
初めて会ったとき、彼はまだ未成年だった。言動が子供っぽく、元気があるのはいいものの、荒っぽくて少し近寄り難い。それが彼の第一印象。今でもそんなに変わらない気はするけれど、だいぶ気軽に話せる間柄にはなったと思う。そんな細やかな変化が、私にはとても嬉しく感じる。
ミズキさん、今日はシフト入ってるのかな。
楽しみだなぁ。
「ねぇ、お姉さんひとり?」
「えっ」
彼の背中を視界に捉えていたはずが、気づけば目の前に若い男性が数人。黒いマスク、金髪にサングラス、アクセサリーをジャラジャラ着けた人。スターレスにもそういう人はいるし、そこだけを見れば取り立てて怯えることはないのかもしれない。けれど、雰囲気でわかる。明らかにちょっと危なそうな人たちだ。
「ひ、ひとりじゃないです……」
「え〜? お友達も一緒? どこどこ〜?」
「ここだ!! バーカ!!」
「!?」
聞き慣れた声とともに、私の前に立ちはだかっていた男性の身体がぐらりと傾く。男性は仲間にぶつかりながら地面に倒れ込み、代わりに後ろから蹴りを喰らわせたであろうミズキさんが現れた。
「ああ? んだよこのガキ……!」
「るっせー。やんなら相手になってやんぜ」
男性たちの目が一斉にミズキさんに集中し、対する彼は楽しそうに相手を見据えている。すぐにでも手を出してしまいそうな――すでに足は出してしまったけれど――姿を見て、瞬間的に脳が警鐘を鳴らす。
こんなところで喧嘩なんて……!
気がつけば、私の手はしっかりと彼の腕を掴んでいた。
「逃げましょう!」
「はっ!? なんでだよ!! ちょ、おいバカ、引っ張んじゃねー!!」
力任せに地面を蹴り、何度も人混みをすり抜けて走り続ける。どうしてこんなに必死になっているのか自分でもわからないけれど、とにかく今はそうしたいと思ったのだ。
やがて息も絶え絶えになり、やっとのことで人気のない公園に辿り着く。先程の男性たちが追ってこないことを確認して、私はようやくベンチに腰を下ろした。
「てめー! なんで逃げんだよ! あんなヤツらブッ飛ばしちまえばいいだろ!」
「ミズキさんが……怪我したら、嫌だから……」
「だからケガなんかしねーって前から言ってんだろーが!」
「っ、わからないでしょ!?」
肩で息をする私とは違い、ミズキさんはこれくらいの運動量は平気だとでも言うようにいつもの調子で声を荒らげた。けれど、私が大声を出したことに驚いたのか、その後の怒声は返ってこない。
「ミズキさんが強いのはわかってます。助けてくれたのもわかってます。でも……しなくていい喧嘩は、できるだけしてほしくないです……」
視線は足元に落ち、語尾も尻窄みになる。今になって、彼の反応が少し怖い。怒っているだろうか。それとも、呆れてしまった……?
黙ったまま佇んでいる彼が気になり、私は恐る恐る顔を上げる。
「……ミズキさん」
「っ、なんだよ……」
そこにあった表情は、怒っているような、悔しそうな、それでいて淋しさを少しだけ混ぜたような、何とも言えない複雑なものだった。
「さっきは助けてくれてありがとうございました。もう、帰りましょう?」
「……帰るって、どこに」
「お店。スターレスです」
私はベンチから立ち上がり、ぶらんと垂れ下がっている彼の手をそっと握る。嵌められている指輪がごつごつしていて、虚勢を張っているようにも感じるそれ。なんだか、急に胸の奥がぎゅっと締めつけられたように苦しくなる。
「んだよ。なに見てんだ」
「いえ……」
誰かを殴るくらいなら、こうして私と手を繋いでいてほしい。そう願ってしまうのは、さすがにワガママだろうか。
「つーかお前、もう余計なことすんなよな」 「……それは約束できません」
振り解かれると思った手は、意外にもそのまま繋がれている。揃うことのなかった歩調が、こんなにも近くで重なろうとしている。私がそれをどんなに嬉しく思っているか、きっと彼は知らないだろう。
「お店に着くまで、このままでもいいですか?」
「……勝手にしろよ」
「はい……!」
改めてお許しをもらえたのが嬉しくて、繋いだ手に少しだけ力を込める。
そっぽを向いたまま歩いている彼を見上げると、その耳が徐々に赤く色づいていく。素直なのか、そうじゃないのか。どちらにせよ、今こうして隣を歩いてくれていることが、私にとっては何よりも喜ばしい。
足取りだけでなく、心までもが軽やかに躍る春。公園を縁取る若い緑が、やわらかな光風を受けてそよぐ。
彼はこれからどんな大人になっていくのだろう。できることなら、その様子を近くで見ていたい。それが、今の私の一番の願いだ。
「迎えに来てくださってありがとうございます、ミズキさん」
「別に。たまたまこっちに用があっただけだっての。オラ、ぼさっとしてんな。行くぞ」
「はい」
駅を出てすぐ、特徴的な髪を見つけて駆け寄れば、彼は無愛想ながらも先導するように私の前を歩き出した。スターレスに通い始めた頃と比べたら、少しは気を許してくれているのかな、なんて。半ば引っ張られるようにして連れていかれていたのが懐かしい。
初めて会ったとき、彼はまだ未成年だった。言動が子供っぽく、元気があるのはいいものの、荒っぽくて少し近寄り難い。それが彼の第一印象。今でもそんなに変わらない気はするけれど、だいぶ気軽に話せる間柄にはなったと思う。そんな細やかな変化が、私にはとても嬉しく感じる。
ミズキさん、今日はシフト入ってるのかな。
楽しみだなぁ。
「ねぇ、お姉さんひとり?」
「えっ」
彼の背中を視界に捉えていたはずが、気づけば目の前に若い男性が数人。黒いマスク、金髪にサングラス、アクセサリーをジャラジャラ着けた人。スターレスにもそういう人はいるし、そこだけを見れば取り立てて怯えることはないのかもしれない。けれど、雰囲気でわかる。明らかにちょっと危なそうな人たちだ。
「ひ、ひとりじゃないです……」
「え〜? お友達も一緒? どこどこ〜?」
「ここだ!! バーカ!!」
「!?」
聞き慣れた声とともに、私の前に立ちはだかっていた男性の身体がぐらりと傾く。男性は仲間にぶつかりながら地面に倒れ込み、代わりに後ろから蹴りを喰らわせたであろうミズキさんが現れた。
「ああ? んだよこのガキ……!」
「るっせー。やんなら相手になってやんぜ」
男性たちの目が一斉にミズキさんに集中し、対する彼は楽しそうに相手を見据えている。すぐにでも手を出してしまいそうな――すでに足は出してしまったけれど――姿を見て、瞬間的に脳が警鐘を鳴らす。
こんなところで喧嘩なんて……!
気がつけば、私の手はしっかりと彼の腕を掴んでいた。
「逃げましょう!」
「はっ!? なんでだよ!! ちょ、おいバカ、引っ張んじゃねー!!」
力任せに地面を蹴り、何度も人混みをすり抜けて走り続ける。どうしてこんなに必死になっているのか自分でもわからないけれど、とにかく今はそうしたいと思ったのだ。
やがて息も絶え絶えになり、やっとのことで人気のない公園に辿り着く。先程の男性たちが追ってこないことを確認して、私はようやくベンチに腰を下ろした。
「てめー! なんで逃げんだよ! あんなヤツらブッ飛ばしちまえばいいだろ!」
「ミズキさんが……怪我したら、嫌だから……」
「だからケガなんかしねーって前から言ってんだろーが!」
「っ、わからないでしょ!?」
肩で息をする私とは違い、ミズキさんはこれくらいの運動量は平気だとでも言うようにいつもの調子で声を荒らげた。けれど、私が大声を出したことに驚いたのか、その後の怒声は返ってこない。
「ミズキさんが強いのはわかってます。助けてくれたのもわかってます。でも……しなくていい喧嘩は、できるだけしてほしくないです……」
視線は足元に落ち、語尾も尻窄みになる。今になって、彼の反応が少し怖い。怒っているだろうか。それとも、呆れてしまった……?
黙ったまま佇んでいる彼が気になり、私は恐る恐る顔を上げる。
「……ミズキさん」
「っ、なんだよ……」
そこにあった表情は、怒っているような、悔しそうな、それでいて淋しさを少しだけ混ぜたような、何とも言えない複雑なものだった。
「さっきは助けてくれてありがとうございました。もう、帰りましょう?」
「……帰るって、どこに」
「お店。スターレスです」
私はベンチから立ち上がり、ぶらんと垂れ下がっている彼の手をそっと握る。嵌められている指輪がごつごつしていて、虚勢を張っているようにも感じるそれ。なんだか、急に胸の奥がぎゅっと締めつけられたように苦しくなる。
「んだよ。なに見てんだ」
「いえ……」
誰かを殴るくらいなら、こうして私と手を繋いでいてほしい。そう願ってしまうのは、さすがにワガママだろうか。
「つーかお前、もう余計なことすんなよな」 「……それは約束できません」
振り解かれると思った手は、意外にもそのまま繋がれている。揃うことのなかった歩調が、こんなにも近くで重なろうとしている。私がそれをどんなに嬉しく思っているか、きっと彼は知らないだろう。
「お店に着くまで、このままでもいいですか?」
「……勝手にしろよ」
「はい……!」
改めてお許しをもらえたのが嬉しくて、繋いだ手に少しだけ力を込める。
そっぽを向いたまま歩いている彼を見上げると、その耳が徐々に赤く色づいていく。素直なのか、そうじゃないのか。どちらにせよ、今こうして隣を歩いてくれていることが、私にとっては何よりも喜ばしい。
足取りだけでなく、心までもが軽やかに躍る春。公園を縁取る若い緑が、やわらかな光風を受けてそよぐ。
彼はこれからどんな大人になっていくのだろう。できることなら、その様子を近くで見ていたい。それが、今の私の一番の願いだ。
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