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花園の思慕
「夜桜をご所望とあらば、やはり相応しきは彼の地。参りましょう、ワタクシの一押しへ」
得意げに目を細めた柘榴さんと外に出れば、春の香りを纏った風がしっとりと頬を撫でた。
昼間、スターレスに着いてすぐ、お店の前で柘榴さんと会った。
もうすっかり春ですね。ここに来るまでに何度か桜を見かけましたけど、柘榴さんはもうお花見しましたか? 私はまだできていなくて。今夜、夜桜でも見に行こうと思うんです。
不思議とすらすら言葉が出てきて、気がついたら二人で桜を見に行く約束をしていた。
どうしてこんなにもスムーズに誘えたのか、わからなかった。いつもなら、柘榴さんの独特なペースに呑まれて、驚いたり、戸惑ったり――それと同じくらい、ドキドキもして……。でも、どうして、なんて疑問に思うのは些末なことだと気づいた。
「一緒に行きませんか?」
そう言った私に向けられた彼の微笑みが、あまりにも綺麗で、美しかったから。
***
昼間よりひんやりとした風を受けながら歩いていくと、背の高い建物に挟まれる朱い鳥居が見えてきた。
「……神社、ですか?」
「えぇえぇ。見事に咲いておりますよ。春を語るに欠かせない、人々を惹きつける魅惑の花が」
彼の言うとおり、桜は見事に満開だった。
夜の街中で灯籠に照らされたその花は、昼間のうららかな印象とは違い、妖艶で幻想的な雰囲気を醸し出している。ともすれば、この世のものではない何かが、ふいとその姿を現しそうな――。
「こちらは、幾度となくアナタとの邂逅を果たしたる地にて」
それだけ言って、柘榴さんが境内に足を踏み入れる。つられるようにその背中を追いかけ、私も彼と一緒に鳥居をくぐった。
参道を彩る桜のトンネルを通って、ひときわ存在感のある一本に辿り着く。
柘榴さんは、その桜のそばでゆるやかに足を止めた。
「……あれから六年、経つのですね」
丁寧に花を見上げ、思いを馳せるようにそっと呟く。
――あれから六年。彼は今、『花ほどく』公演のことを思い出しているのだろうか。
そういえば、あの時もここでお花見をしたっけ。
玻璃さんの発案でCの皆さんをお花見に誘い、全員の説得に成功したとき、二人で喜んだのを覚えている。
当日はモクレンさんが突然いなくなって、その後も夜な夜な急いでどこかに行ってしまうから、みんなで一緒に探しに行ったり。
神社で見つけて安心したと思ったら、いつの間にかカスミさんがドーナツを持っていて……驚いたけど、面白かったなぁ。
楽しかった記憶が自然と思い出されて、胸の奥が懐かしさにくすぐられる。
あの時も飄々と振る舞っていた、花を見つめるその横顔。今の私と同じようにあの日々を想っていてくれたら、すごく嬉しい。
「長いようで短く、短いようで長い。年月の流れとは、実に儚く、揺るぎなき、不思議なもの」
はらはらと舞い落ちてくる花びらが、まるで柘榴さんをすり抜けるように地面に向かっていく。
何枚も、何枚も。降り注いでは、落ちていく。
「虚ろな身であるワタクシが過去を懐かしむとは、なんとも滑稽ではありますがね」
こちらに視線を向けて笑う彼に、なんだか私のほうが泣きたくなってしまった。
思わず、消えてしまわぬようにと触れた彼の手。春の夜に似合わしい、穏やかで優しい温度を持っている。
「あの頃のワタクシは、ワタクシであり、ワタクシではない」
「柘榴さん……?」
「器は異なれど、内に宿した記憶は不変」
柘榴さんの髪が風に揺れる。そんなことにさえ見惚れてしまう私の手をそっと持ち上げると、彼はわずかに目を伏せ、静かに指先へと唇を寄せた。
「あっ、あの……的外れなことを言ってしまうかもしれませんが……スターレスに来てからの柘榴さんには、すごくたくさんの思い出があると思います」
「はて、『思い出』ですか」
「はい。私も、柘榴さんと過ごしたいろいろな日々を、楽しくて幸せな思い出としてたくさん覚えています」
早鐘を打つ心臓に急かされて、ぽこぽこと言葉が溢れ出る。
「今日の、今のこの瞬間だって、私は絶対に忘れません」
「……なんと、小鳥からのこの上なき愛の言の葉。このがらんどうに満ち渡るは、やはりアナタの真心にほかならず」
私の手を自分の頬に導き、柘榴さんがふ、と表情を和らげる。先ほど私の指先に触れた唇が、今度は嬉しそうに弧を描いた。
「……そうですね。夜に咲き乱れし花を思い、アナタと共にこの身がこの地にあることこそ、何よりの証」
その時、ザァァッと強い風が吹いた。桜の枝が上下に揺れ、淡色の吹雪が巻き起こる。
私が乱れた髪を整えていると、何事もなかったかのような顔で柘榴さんが言う。
「ところで名前様、アナタはこの地に訪れた目的を覚えておいでで?」
「え? ……あっ」
彼に問われて、ここに来た目的を思い出す。
そうだ、桜を見に来たんだった。
それなのに、私がずっと見ていたのは――――
「どうやら、アナタの心を惑わすものは桜にあらず」
気恥ずかしさから彷徨わせていた視線を彼に戻せば、いつもの悪戯な笑みが私を捉えた。彼の片腕が私の腰にまわされ、そのままそっと抱き寄せられる。
――結びましょうか。アナタとワタクシの心も、身体も、思い出も。この、神聖なる花影の下で。
彼の肩越しに散っていた花びらも、今は視界に入らない。本当に、この世で二人きりになってしまったような、不思議で幸福な感覚がこの身を包んでいく。
「さりとて、またあの踊りお化けが出るやもしれず。邪魔が入らぬうちに、ワタクシだけの花を愛でるといたしましょう」
桜一輪ほどの距離で、彼の唇が愉快そうに告げる。
「どうかこのままワタクシに惑わされて。ワタクシも、アナタという魅惑の花に心身すべてを捧げますゆえ」
「夜桜をご所望とあらば、やはり相応しきは彼の地。参りましょう、ワタクシの一押しへ」
得意げに目を細めた柘榴さんと外に出れば、春の香りを纏った風がしっとりと頬を撫でた。
昼間、スターレスに着いてすぐ、お店の前で柘榴さんと会った。
もうすっかり春ですね。ここに来るまでに何度か桜を見かけましたけど、柘榴さんはもうお花見しましたか? 私はまだできていなくて。今夜、夜桜でも見に行こうと思うんです。
不思議とすらすら言葉が出てきて、気がついたら二人で桜を見に行く約束をしていた。
どうしてこんなにもスムーズに誘えたのか、わからなかった。いつもなら、柘榴さんの独特なペースに呑まれて、驚いたり、戸惑ったり――それと同じくらい、ドキドキもして……。でも、どうして、なんて疑問に思うのは些末なことだと気づいた。
「一緒に行きませんか?」
そう言った私に向けられた彼の微笑みが、あまりにも綺麗で、美しかったから。
***
昼間よりひんやりとした風を受けながら歩いていくと、背の高い建物に挟まれる朱い鳥居が見えてきた。
「……神社、ですか?」
「えぇえぇ。見事に咲いておりますよ。春を語るに欠かせない、人々を惹きつける魅惑の花が」
彼の言うとおり、桜は見事に満開だった。
夜の街中で灯籠に照らされたその花は、昼間のうららかな印象とは違い、妖艶で幻想的な雰囲気を醸し出している。ともすれば、この世のものではない何かが、ふいとその姿を現しそうな――。
「こちらは、幾度となくアナタとの邂逅を果たしたる地にて」
それだけ言って、柘榴さんが境内に足を踏み入れる。つられるようにその背中を追いかけ、私も彼と一緒に鳥居をくぐった。
参道を彩る桜のトンネルを通って、ひときわ存在感のある一本に辿り着く。
柘榴さんは、その桜のそばでゆるやかに足を止めた。
「……あれから六年、経つのですね」
丁寧に花を見上げ、思いを馳せるようにそっと呟く。
――あれから六年。彼は今、『花ほどく』公演のことを思い出しているのだろうか。
そういえば、あの時もここでお花見をしたっけ。
玻璃さんの発案でCの皆さんをお花見に誘い、全員の説得に成功したとき、二人で喜んだのを覚えている。
当日はモクレンさんが突然いなくなって、その後も夜な夜な急いでどこかに行ってしまうから、みんなで一緒に探しに行ったり。
神社で見つけて安心したと思ったら、いつの間にかカスミさんがドーナツを持っていて……驚いたけど、面白かったなぁ。
楽しかった記憶が自然と思い出されて、胸の奥が懐かしさにくすぐられる。
あの時も飄々と振る舞っていた、花を見つめるその横顔。今の私と同じようにあの日々を想っていてくれたら、すごく嬉しい。
「長いようで短く、短いようで長い。年月の流れとは、実に儚く、揺るぎなき、不思議なもの」
はらはらと舞い落ちてくる花びらが、まるで柘榴さんをすり抜けるように地面に向かっていく。
何枚も、何枚も。降り注いでは、落ちていく。
「虚ろな身であるワタクシが過去を懐かしむとは、なんとも滑稽ではありますがね」
こちらに視線を向けて笑う彼に、なんだか私のほうが泣きたくなってしまった。
思わず、消えてしまわぬようにと触れた彼の手。春の夜に似合わしい、穏やかで優しい温度を持っている。
「あの頃のワタクシは、ワタクシであり、ワタクシではない」
「柘榴さん……?」
「器は異なれど、内に宿した記憶は不変」
柘榴さんの髪が風に揺れる。そんなことにさえ見惚れてしまう私の手をそっと持ち上げると、彼はわずかに目を伏せ、静かに指先へと唇を寄せた。
「あっ、あの……的外れなことを言ってしまうかもしれませんが……スターレスに来てからの柘榴さんには、すごくたくさんの思い出があると思います」
「はて、『思い出』ですか」
「はい。私も、柘榴さんと過ごしたいろいろな日々を、楽しくて幸せな思い出としてたくさん覚えています」
早鐘を打つ心臓に急かされて、ぽこぽこと言葉が溢れ出る。
「今日の、今のこの瞬間だって、私は絶対に忘れません」
「……なんと、小鳥からのこの上なき愛の言の葉。このがらんどうに満ち渡るは、やはりアナタの真心にほかならず」
私の手を自分の頬に導き、柘榴さんがふ、と表情を和らげる。先ほど私の指先に触れた唇が、今度は嬉しそうに弧を描いた。
「……そうですね。夜に咲き乱れし花を思い、アナタと共にこの身がこの地にあることこそ、何よりの証」
その時、ザァァッと強い風が吹いた。桜の枝が上下に揺れ、淡色の吹雪が巻き起こる。
私が乱れた髪を整えていると、何事もなかったかのような顔で柘榴さんが言う。
「ところで名前様、アナタはこの地に訪れた目的を覚えておいでで?」
「え? ……あっ」
彼に問われて、ここに来た目的を思い出す。
そうだ、桜を見に来たんだった。
それなのに、私がずっと見ていたのは――――
「どうやら、アナタの心を惑わすものは桜にあらず」
気恥ずかしさから彷徨わせていた視線を彼に戻せば、いつもの悪戯な笑みが私を捉えた。彼の片腕が私の腰にまわされ、そのままそっと抱き寄せられる。
――結びましょうか。アナタとワタクシの心も、身体も、思い出も。この、神聖なる花影の下で。
彼の肩越しに散っていた花びらも、今は視界に入らない。本当に、この世で二人きりになってしまったような、不思議で幸福な感覚がこの身を包んでいく。
「さりとて、またあの踊りお化けが出るやもしれず。邪魔が入らぬうちに、ワタクシだけの花を愛でるといたしましょう」
桜一輪ほどの距離で、彼の唇が愉快そうに告げる。
「どうかこのままワタクシに惑わされて。ワタクシも、アナタという魅惑の花に心身すべてを捧げますゆえ」
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