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バニラクリームの唇
「トリックオアトリート!」
「お前……ここでかよ。俺が菓子を持ち歩いてるとでも思ってんのか?」
一人で買い物をしてきた帰り道、彼も用事が終わったというのでちょうどいい所で待ち合わせた。合流した途端にお決まりのセリフを投げかけた私に、彼の呆れたような視線がぬるく刺さる。
「思ってない。だからさっきこれ買った!」
その視線を特に気に留めることもなく、私は買い物袋から取り出したリップクリームをさっと目の前に掲げる。
ドラッグストアでたまたま目についた、とってもあまーい香りがするそれ。普段はそんなに香りが強くないものを使っているけれど、今日は特別。
パッケージから出したばかりの真新しいそれを、腕を伸ばして高い位置にある彼の唇に容赦なく塗りたくる。
「んだこれ、甘ったりぃ……」
親指で唇を拭いながら、彼は不機嫌そうに眉をひそめる。その様子が可笑しくて、私は小さく笑いをこぼしたまま再び甘いバニラを彼に塗る。
あー、これ、今は楽しいけど後でとんでもない目に遭わされるやつかなぁ。リップに蓋を被せながら、呑気にそんなことを考える。
「おとなしくやられてくれたのは、あとで正当な理由をつけて仕返しをするためですか?」
「あ? わかってんじゃねぇか」
外じゃできねぇ仕返ししてやるから、覚悟しとけ。どきりとする台詞と一緒に、甘さをまとった親指が私の唇に押しあてられる。にやりと口角を上げた、あの意地悪な笑顔が心を鷲掴んだ。
その顔はずるいんだって。
好きすぎて、きゅんきゅんして、仕返しされるのが楽しみになってしまう。
「俺にイタズラされるのがそんなに嬉しいかよ」
「うん。あ、でもちゃんとお菓子も買ったよ。ホットミルク用意して一緒に食べよ」
「仕方ねぇからまとめて食ってやる」
「言い方」
「うるせぇ」
ポケットに手を入れている彼の腕に自分の右手をかける。少しだけ彼の歩幅が狭くなり、それだけでまた好きの気持ちがあふれてくる。
「さっきのリップあげようか」
「いらねぇ」
「ですよねぇ」
「つーかそれ、使い切れんのかよ」
「……がんばる」
日が暮れかけた街に、だんだん黒く妖しい影が忍び寄る。ハロウィンに託けた戯れの夜は、まだまだ始まったばかり。
「トリックオアトリート!」
「お前……ここでかよ。俺が菓子を持ち歩いてるとでも思ってんのか?」
一人で買い物をしてきた帰り道、彼も用事が終わったというのでちょうどいい所で待ち合わせた。合流した途端にお決まりのセリフを投げかけた私に、彼の呆れたような視線がぬるく刺さる。
「思ってない。だからさっきこれ買った!」
その視線を特に気に留めることもなく、私は買い物袋から取り出したリップクリームをさっと目の前に掲げる。
ドラッグストアでたまたま目についた、とってもあまーい香りがするそれ。普段はそんなに香りが強くないものを使っているけれど、今日は特別。
パッケージから出したばかりの真新しいそれを、腕を伸ばして高い位置にある彼の唇に容赦なく塗りたくる。
「んだこれ、甘ったりぃ……」
親指で唇を拭いながら、彼は不機嫌そうに眉をひそめる。その様子が可笑しくて、私は小さく笑いをこぼしたまま再び甘いバニラを彼に塗る。
あー、これ、今は楽しいけど後でとんでもない目に遭わされるやつかなぁ。リップに蓋を被せながら、呑気にそんなことを考える。
「おとなしくやられてくれたのは、あとで正当な理由をつけて仕返しをするためですか?」
「あ? わかってんじゃねぇか」
外じゃできねぇ仕返ししてやるから、覚悟しとけ。どきりとする台詞と一緒に、甘さをまとった親指が私の唇に押しあてられる。にやりと口角を上げた、あの意地悪な笑顔が心を鷲掴んだ。
その顔はずるいんだって。
好きすぎて、きゅんきゅんして、仕返しされるのが楽しみになってしまう。
「俺にイタズラされるのがそんなに嬉しいかよ」
「うん。あ、でもちゃんとお菓子も買ったよ。ホットミルク用意して一緒に食べよ」
「仕方ねぇからまとめて食ってやる」
「言い方」
「うるせぇ」
ポケットに手を入れている彼の腕に自分の右手をかける。少しだけ彼の歩幅が狭くなり、それだけでまた好きの気持ちがあふれてくる。
「さっきのリップあげようか」
「いらねぇ」
「ですよねぇ」
「つーかそれ、使い切れんのかよ」
「……がんばる」
日が暮れかけた街に、だんだん黒く妖しい影が忍び寄る。ハロウィンに託けた戯れの夜は、まだまだ始まったばかり。
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