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特別な日の魔法
淡い紫色で彩った爪を目の前にかざす。控えめに置いたラメやストーン。光を反射して輝くそれらの凹凸を、そっと指の腹でなぞる。
先程までの楽しかった時間を、また、初めから繰り返すように。
今日は大好きな推しの誕生日だった。数週間前から何を着ていこうかと悩み、普段は着ないようなお洒落な服をお店で探した。メイクやへアセットにも時間をかけた。慣れないネイルはだいぶ苦戦したけれど、何とか納得できるものに仕上がった。用意したプレゼントも綺麗にラッピングして、喜んでくれたらいいな、なんて緊張と期待に満ちた胸を躍らせた。
「どーも。来てくれたんすねー」
エントランスで目が合った彼は、相も変わらず気だるげに私を迎えてくれた。自分の誕生日だというのにいつもと同じテンション。にへ、と笑う顔には少しだけ照れを滲ませていて、いとも簡単に私の心に矢を突き刺した。
「お誕生日おめでとう! これ、プレゼントなんだけど……」
「はぇ、マジすか。いーんすか、俺なんかに」
私が差し出した紙袋をおずおずと受け取って、あんたさんも物好きすね……なんて恥ずかしそうに頬を掻く。その仕草もまた私の心を掴むことを、彼は知る由もないのだろう。
「そんじゃ、席に案内しやすね。あー……足元暗いんで、よかったら手、どーぞ」
ヒールを履いている私を気遣ってか、遠慮がちにそう差し伸べられる。すごく骨張っているというわけではないけれど、男らしさを感じさせる綺麗な手。そこに自分の指を重ねれば、軽く握られた彼色のネイルが嬉しそうにきらきらと微笑んだ。
席に着いてからも、注文やサーブは大牙くんが担当してくれた。他にも彼目当てのお客さんが多く来ていて、何度も目の前を行ったり来たり。そのたびにこちらを気にかけてくれる彼に、私はまた胸をときめかせた。
公演終了後、密かに今日の主役であった彼は他のお客さんの見送りをしていた。プレゼントは来た時に渡せたし、手も握ってもらえた。もう、その姿を見られただけで十分としておかなくちゃ。
ありがとう。それから、改めてお誕生日おめでとう。そう心の中で呟きながら彼に向かって手を合わせていると、そんな私に気づいた彼がきょろきょろと周りを窺ってからこちらに近寄ってきた。
「……さっきチラッと貰ったやつ覗いたんすけど。パーカーすよね、あれ。ありがたく着させていただきやす」
拝んでいたことはスルーしてくれたのか、それとも運良く見られていなかったのか。どちらにしろほっと胸を撫でおろす。
最後に話せたのも幸運だったのに、私がお店を出る瞬間まで彼は中に引っ込もうとしなかった。仕事だからと言ってしまえばそこまでだけど、私にとっては涙が出るほど嬉しいものだった。
今日、会いに行けて本当によかった。彼の誕生日なのに、私のほうがプレゼントをもらってしまったような心地。やはり推しは偉大である。
爪に灯った煌めきを一撫でしたあと、鞄に入れっぱなしだったスマホを取り出して画像欄を開く。最新の枠には、どうしても後悔したくなくて別れ際にお願いしたツーショット。彼のぎこちない笑顔に、再びきゅうっと胸が締めつけられた。
「……お疲れさま」
今日のために伸ばしていた爪は、丁寧に色を落としてから短く整えていく。
もうすぐ彼の誕生日が終わる。今日だけの特別な輝きが、まるで魔法が解けるように、過ぎ去る時間の中へと消えていく。
「おめでとう、大牙くん。……大好き」
スマホのバッテリー残量を示す数値は一桁。電源が落ちるまで、この画面だけは魔法をかけたままにしておこう。
***
(おまけ)
「よっ、マイブラザー」
「うげ、なんだよアニキ」
「さっきのかわい子ちゃん、いつも隅の席でこっそりお前のこと応援してる子でしょ。いやー、今日はすっごいオシャレしてていつにも増して可愛かったなァ。誰のためだろうね?」
「さぁ、誰でしょーね」
「またまたァ。プレゼント貰ってたでしょ。お兄ちゃんにも見せてよ」
「ふざけんな。ぜってーヤダ」
「は〜。お前、まだ反抗期終わってない感じ?」
「反抗期じゃねーし。つーか絶対に見んなよ? 触んなよ? 開けんなよ!?」
「はいはい。……ま〜、耳まで赤くしちゃって。我が弟ながらカワイーとこあんじゃん」
「アニキの野郎、絶対に面白がってんな。なるべくあの人に近づかせねーようにしねーと……。つーかマジで女神が降臨したかと思った。二次元? 俺いつの間にSSR引いたんだ? いやそもそも本当に俺? 俺で合ってるのか? 他のパリピキャストじゃなくて? いやでもプレゼント貰ったしな。あのパーカーまじで好みだしセンス良すぎ。マジで神。いや女神。一生着るしかない。生きててよかった。誕生日最高」
淡い紫色で彩った爪を目の前にかざす。控えめに置いたラメやストーン。光を反射して輝くそれらの凹凸を、そっと指の腹でなぞる。
先程までの楽しかった時間を、また、初めから繰り返すように。
今日は大好きな推しの誕生日だった。数週間前から何を着ていこうかと悩み、普段は着ないようなお洒落な服をお店で探した。メイクやへアセットにも時間をかけた。慣れないネイルはだいぶ苦戦したけれど、何とか納得できるものに仕上がった。用意したプレゼントも綺麗にラッピングして、喜んでくれたらいいな、なんて緊張と期待に満ちた胸を躍らせた。
「どーも。来てくれたんすねー」
エントランスで目が合った彼は、相も変わらず気だるげに私を迎えてくれた。自分の誕生日だというのにいつもと同じテンション。にへ、と笑う顔には少しだけ照れを滲ませていて、いとも簡単に私の心に矢を突き刺した。
「お誕生日おめでとう! これ、プレゼントなんだけど……」
「はぇ、マジすか。いーんすか、俺なんかに」
私が差し出した紙袋をおずおずと受け取って、あんたさんも物好きすね……なんて恥ずかしそうに頬を掻く。その仕草もまた私の心を掴むことを、彼は知る由もないのだろう。
「そんじゃ、席に案内しやすね。あー……足元暗いんで、よかったら手、どーぞ」
ヒールを履いている私を気遣ってか、遠慮がちにそう差し伸べられる。すごく骨張っているというわけではないけれど、男らしさを感じさせる綺麗な手。そこに自分の指を重ねれば、軽く握られた彼色のネイルが嬉しそうにきらきらと微笑んだ。
席に着いてからも、注文やサーブは大牙くんが担当してくれた。他にも彼目当てのお客さんが多く来ていて、何度も目の前を行ったり来たり。そのたびにこちらを気にかけてくれる彼に、私はまた胸をときめかせた。
公演終了後、密かに今日の主役であった彼は他のお客さんの見送りをしていた。プレゼントは来た時に渡せたし、手も握ってもらえた。もう、その姿を見られただけで十分としておかなくちゃ。
ありがとう。それから、改めてお誕生日おめでとう。そう心の中で呟きながら彼に向かって手を合わせていると、そんな私に気づいた彼がきょろきょろと周りを窺ってからこちらに近寄ってきた。
「……さっきチラッと貰ったやつ覗いたんすけど。パーカーすよね、あれ。ありがたく着させていただきやす」
拝んでいたことはスルーしてくれたのか、それとも運良く見られていなかったのか。どちらにしろほっと胸を撫でおろす。
最後に話せたのも幸運だったのに、私がお店を出る瞬間まで彼は中に引っ込もうとしなかった。仕事だからと言ってしまえばそこまでだけど、私にとっては涙が出るほど嬉しいものだった。
今日、会いに行けて本当によかった。彼の誕生日なのに、私のほうがプレゼントをもらってしまったような心地。やはり推しは偉大である。
爪に灯った煌めきを一撫でしたあと、鞄に入れっぱなしだったスマホを取り出して画像欄を開く。最新の枠には、どうしても後悔したくなくて別れ際にお願いしたツーショット。彼のぎこちない笑顔に、再びきゅうっと胸が締めつけられた。
「……お疲れさま」
今日のために伸ばしていた爪は、丁寧に色を落としてから短く整えていく。
もうすぐ彼の誕生日が終わる。今日だけの特別な輝きが、まるで魔法が解けるように、過ぎ去る時間の中へと消えていく。
「おめでとう、大牙くん。……大好き」
スマホのバッテリー残量を示す数値は一桁。電源が落ちるまで、この画面だけは魔法をかけたままにしておこう。
***
(おまけ)
「よっ、マイブラザー」
「うげ、なんだよアニキ」
「さっきのかわい子ちゃん、いつも隅の席でこっそりお前のこと応援してる子でしょ。いやー、今日はすっごいオシャレしてていつにも増して可愛かったなァ。誰のためだろうね?」
「さぁ、誰でしょーね」
「またまたァ。プレゼント貰ってたでしょ。お兄ちゃんにも見せてよ」
「ふざけんな。ぜってーヤダ」
「は〜。お前、まだ反抗期終わってない感じ?」
「反抗期じゃねーし。つーか絶対に見んなよ? 触んなよ? 開けんなよ!?」
「はいはい。……ま〜、耳まで赤くしちゃって。我が弟ながらカワイーとこあんじゃん」
「アニキの野郎、絶対に面白がってんな。なるべくあの人に近づかせねーようにしねーと……。つーかマジで女神が降臨したかと思った。二次元? 俺いつの間にSSR引いたんだ? いやそもそも本当に俺? 俺で合ってるのか? 他のパリピキャストじゃなくて? いやでもプレゼント貰ったしな。あのパーカーまじで好みだしセンス良すぎ。マジで神。いや女神。一生着るしかない。生きててよかった。誕生日最高」
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