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ミズキとの関係に悩む夜
ふと目が覚めたのは暗闇の中。
おそらく夜明けはまだ来ない。
私に引っついたままの体温はやや高くて、これが筋肉量の差か。なんてどうでもいいことを脳が勝手に思考する。胸元にある少し硬い髪に指を通せば、お気に入りのシャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
水でも飲んでこようか。そう思って少しだけ身動いでみるけれど、腰に回されている腕は案外重く、足もがっちりホールドされているためそう簡単にはいかない。こういうところで、一緒に寝ているのが男性なのだということをはっきりと思い知らされてしまう。
「ん〜……」
「あ、起きた? ちょっと放してほしいんだけど」
「あぁ……? どこいくんだよ……」
「水飲みに行くだけ」
寝惚けて拘束が緩んだ隙に素早くベッドから抜け出す。私が居なくなったスペースを彼の手が彷徨っていて、少しだけ罪悪感が生まれた。
こういうときはいつも、彼に対して愛おしさに似た感情が顔を出す。これには自分でもどう対処したらいいのかわからない。別に、付き合っているわけでもないのに。
少量の水で喉を潤したあと、なんとなくベッドには戻らず途中のソファに身を預ける。温もりのないそこは冷たくて、やっぱりベッドに戻ろうかとすぐにまた立ち上がった。
ぽっかりと空いたスペースに身体を戻すと、お湯に浸かったときのような幸福感が私を満たした。そして、変わらずそこにあった熱が再び私に絡みつく。
彼と同じベッドで眠るのは初めてではない。何度もこうしてその温もりを感じてきた。けれど、男女の仲になったことは一度もなかった。ただ抱き合って眠りに就き、朝が来たらおはようと挨拶する。他愛のない会話をして、適当にご飯を食べたらそれぞれの生活を始める。
それはきっと明日も同じ。それぞれの職場に行って、夜になったら帰ってくる。でも、彼がうちに来るかどうかはその時にならないとわからない。びっくりするほど気まぐれなのだ。
「何なんだろうね、これ」
名状しがたい感情が常にある。この曖昧な気持ちは、恋や友情に当てはめられるものなのか。どちらにも当てはまりそうで、どちらとも言い切れない感じ。
私は彼の本当の名を知らない。特別知りたいとも思わない。どこに住んでいて、お店にいない間は何をしているのかも。
ただ、私と出会う前のことは少しだけ気になっている。今日みたいな夜はどうしてたんだろう。今と同じように、どこかで女の人と過ごしていたんだろうか。そんなこと、本人には絶対に聞かないけれど。
彼にとって私は都合の良い存在なのだろう。お腹が空いたらうちで食べ、肌寒い夜は私の体温で暖を取る。いや、暖を取っているのは私のほうか。
ああ、また少し眠たくなってきた。
彼の熱をもらったせいだ。
一度でも人肌の心地好さを知ってしまったら、ひとりで眠るベッドがひどく冷たいものに感じる。冷え性の私にとっては小さな湯たんぽでも十分幸せだったのに、彼のせいでそれだけでは満足できなくなってしまった。誰もいないベッドでは物足りなくて、「つめてー足だな」と擦り寄ってくれる人がいない夜は寂しいと、そう思うようになってしまった。
でも、それでいいんだ。私のことなんて気にしなくていい。ほんの少しでも、彼が心地好いと思ってくれているのであれば。保っている均衡を崩すとしたら、それはきっと彼のほうからだから。
もう一度、少し硬い髪に指を通す。私好みの華やかな香りが彼からするなんて、ちょっと笑っちゃうよね。
「どこにも……いくなよ……」
「!」
突然発せられた掠れ声に、胸の奥がきゅっと縮こまった気がした。ただの寝言なのに、何を動揺しているんだろう。
「行かないよ。……おやすみ」
今は眠ろう。何も考えず、ただ与えられる熱を抱きしめて。もしこの関係が変わるようなことがあれば、そのときにまた考えればいい。
朝になったら、いつもみたいに笑顔で言うんだ。
「おはよう、ミズキ」
ふと目が覚めたのは暗闇の中。
おそらく夜明けはまだ来ない。
私に引っついたままの体温はやや高くて、これが筋肉量の差か。なんてどうでもいいことを脳が勝手に思考する。胸元にある少し硬い髪に指を通せば、お気に入りのシャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
水でも飲んでこようか。そう思って少しだけ身動いでみるけれど、腰に回されている腕は案外重く、足もがっちりホールドされているためそう簡単にはいかない。こういうところで、一緒に寝ているのが男性なのだということをはっきりと思い知らされてしまう。
「ん〜……」
「あ、起きた? ちょっと放してほしいんだけど」
「あぁ……? どこいくんだよ……」
「水飲みに行くだけ」
寝惚けて拘束が緩んだ隙に素早くベッドから抜け出す。私が居なくなったスペースを彼の手が彷徨っていて、少しだけ罪悪感が生まれた。
こういうときはいつも、彼に対して愛おしさに似た感情が顔を出す。これには自分でもどう対処したらいいのかわからない。別に、付き合っているわけでもないのに。
少量の水で喉を潤したあと、なんとなくベッドには戻らず途中のソファに身を預ける。温もりのないそこは冷たくて、やっぱりベッドに戻ろうかとすぐにまた立ち上がった。
ぽっかりと空いたスペースに身体を戻すと、お湯に浸かったときのような幸福感が私を満たした。そして、変わらずそこにあった熱が再び私に絡みつく。
彼と同じベッドで眠るのは初めてではない。何度もこうしてその温もりを感じてきた。けれど、男女の仲になったことは一度もなかった。ただ抱き合って眠りに就き、朝が来たらおはようと挨拶する。他愛のない会話をして、適当にご飯を食べたらそれぞれの生活を始める。
それはきっと明日も同じ。それぞれの職場に行って、夜になったら帰ってくる。でも、彼がうちに来るかどうかはその時にならないとわからない。びっくりするほど気まぐれなのだ。
「何なんだろうね、これ」
名状しがたい感情が常にある。この曖昧な気持ちは、恋や友情に当てはめられるものなのか。どちらにも当てはまりそうで、どちらとも言い切れない感じ。
私は彼の本当の名を知らない。特別知りたいとも思わない。どこに住んでいて、お店にいない間は何をしているのかも。
ただ、私と出会う前のことは少しだけ気になっている。今日みたいな夜はどうしてたんだろう。今と同じように、どこかで女の人と過ごしていたんだろうか。そんなこと、本人には絶対に聞かないけれど。
彼にとって私は都合の良い存在なのだろう。お腹が空いたらうちで食べ、肌寒い夜は私の体温で暖を取る。いや、暖を取っているのは私のほうか。
ああ、また少し眠たくなってきた。
彼の熱をもらったせいだ。
一度でも人肌の心地好さを知ってしまったら、ひとりで眠るベッドがひどく冷たいものに感じる。冷え性の私にとっては小さな湯たんぽでも十分幸せだったのに、彼のせいでそれだけでは満足できなくなってしまった。誰もいないベッドでは物足りなくて、「つめてー足だな」と擦り寄ってくれる人がいない夜は寂しいと、そう思うようになってしまった。
でも、それでいいんだ。私のことなんて気にしなくていい。ほんの少しでも、彼が心地好いと思ってくれているのであれば。保っている均衡を崩すとしたら、それはきっと彼のほうからだから。
もう一度、少し硬い髪に指を通す。私好みの華やかな香りが彼からするなんて、ちょっと笑っちゃうよね。
「どこにも……いくなよ……」
「!」
突然発せられた掠れ声に、胸の奥がきゅっと縮こまった気がした。ただの寝言なのに、何を動揺しているんだろう。
「行かないよ。……おやすみ」
今は眠ろう。何も考えず、ただ与えられる熱を抱きしめて。もしこの関係が変わるようなことがあれば、そのときにまた考えればいい。
朝になったら、いつもみたいに笑顔で言うんだ。
「おはよう、ミズキ」
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