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異なる鎖に愛を縛る
「ちょ、いま痕付けたでしょ!?」
「ああ、悪い。ついな」
「ついじゃない……!」
肩に感じたわずかな痛みに身を捩れば、静かだった水面が不規則に揺らめく。
ちょっとしたお遊びの勝負で私が負けたが故の今回のバスタイム。変なことはしないとの条件付きで一緒に入ることを了承したにも関わらず、結局はこの有り様だ。一応、後ろから回された彼の両手が自由に動かないよう、私が上から掴んではいるのだけど。
「何もしないって言ったじゃん」
「キスくらい良いだろ」
「良くない。しかも痕まで付けるなんて」
「そりゃあ、なぁ? 付けたくもなるだろ」
好きな女の肌が目の前にあるんだからな。
聞いてて恥ずかしくなるような台詞を彼は平然と言ってのける。本気でそう思っているのか、煽るためにわざと言っているのか。おそらく両方なんだろうけど、割合は後者のほうが絶対に多い。
「お前も付けていいぞ。ほら」
「えっ」
追撃を警戒して少し身を離していたら、彼はぐっと顎を上げて逞しい首筋を私に曝け出した。
水滴が喉仏を伝い、厚い胸板へと流れ落ちる。その様子が妙に扇情的で、私は奪われそうになる理性を放すまいと慌てて彼から目を逸らした。
「付けないよ……」
「へぇ。いいのか? 他の女に、俺には恋人がいないと思われても」
「それは……お店的にはそのほうがいいんじゃないの」
「おーおー、俺の可愛いお姫様が拗ねちまった」
浴室に響く楽しそうな笑い声。それを無視し、私は再び彼に背を向ける。
彼の意地悪は今に始まったことではないし、何もしないというのを完全に信じていたわけでもない。だからせめてもの抵抗というか、護身のために手を押さえていたわけだし。
私がへそを曲げているのはそこじゃない。たとえ本人に他意がなくても、彼の口から出た「他の女」という言葉が、私の心に小さな棘を刺しているのだ。
「なぁ……許せって」
耳に直接低い声が注がれ、再び肩にピリッとした痛みが走る。
「また付けたの?」
「自分のものには印を付けとかないとな。……で、お前はどうするんだ? お前が手放さない限りは、俺もお前のものなんだが」
「……ずるい」
私が一方的に掴んでいた手が恋人の繋ぎ方へと変わる。そのまま抱きしめられてしまえば、小さな棘なんて最初からなかったかのように消えていく。
ああ、なんて単純な女。こんな私を面白いと言って手中に収めておくなんて、この男もまあまあおかしな思考回路をしている。
「キスマーク付ける気になったか?」
「なってません」
お店に迷惑が掛かるようなことはしたくないし、わざわざ外の人間に向けて「この人は私のです」なんてアピールもしたくない。
でも、だからこそ。彼と二人でいるこの時だけは、繋いだ手を絶対に放してはあげない。
「ちょ、いま痕付けたでしょ!?」
「ああ、悪い。ついな」
「ついじゃない……!」
肩に感じたわずかな痛みに身を捩れば、静かだった水面が不規則に揺らめく。
ちょっとしたお遊びの勝負で私が負けたが故の今回のバスタイム。変なことはしないとの条件付きで一緒に入ることを了承したにも関わらず、結局はこの有り様だ。一応、後ろから回された彼の両手が自由に動かないよう、私が上から掴んではいるのだけど。
「何もしないって言ったじゃん」
「キスくらい良いだろ」
「良くない。しかも痕まで付けるなんて」
「そりゃあ、なぁ? 付けたくもなるだろ」
好きな女の肌が目の前にあるんだからな。
聞いてて恥ずかしくなるような台詞を彼は平然と言ってのける。本気でそう思っているのか、煽るためにわざと言っているのか。おそらく両方なんだろうけど、割合は後者のほうが絶対に多い。
「お前も付けていいぞ。ほら」
「えっ」
追撃を警戒して少し身を離していたら、彼はぐっと顎を上げて逞しい首筋を私に曝け出した。
水滴が喉仏を伝い、厚い胸板へと流れ落ちる。その様子が妙に扇情的で、私は奪われそうになる理性を放すまいと慌てて彼から目を逸らした。
「付けないよ……」
「へぇ。いいのか? 他の女に、俺には恋人がいないと思われても」
「それは……お店的にはそのほうがいいんじゃないの」
「おーおー、俺の可愛いお姫様が拗ねちまった」
浴室に響く楽しそうな笑い声。それを無視し、私は再び彼に背を向ける。
彼の意地悪は今に始まったことではないし、何もしないというのを完全に信じていたわけでもない。だからせめてもの抵抗というか、護身のために手を押さえていたわけだし。
私がへそを曲げているのはそこじゃない。たとえ本人に他意がなくても、彼の口から出た「他の女」という言葉が、私の心に小さな棘を刺しているのだ。
「なぁ……許せって」
耳に直接低い声が注がれ、再び肩にピリッとした痛みが走る。
「また付けたの?」
「自分のものには印を付けとかないとな。……で、お前はどうするんだ? お前が手放さない限りは、俺もお前のものなんだが」
「……ずるい」
私が一方的に掴んでいた手が恋人の繋ぎ方へと変わる。そのまま抱きしめられてしまえば、小さな棘なんて最初からなかったかのように消えていく。
ああ、なんて単純な女。こんな私を面白いと言って手中に収めておくなんて、この男もまあまあおかしな思考回路をしている。
「キスマーク付ける気になったか?」
「なってません」
お店に迷惑が掛かるようなことはしたくないし、わざわざ外の人間に向けて「この人は私のです」なんてアピールもしたくない。
でも、だからこそ。彼と二人でいるこの時だけは、繋いだ手を絶対に放してはあげない。
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