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夜雨に隠し音
今夜は雨が降ると予報されていた。それなのに、いま現在私の手にはそれを凌ぐものは何もない。なぜかって。それは――
「コンビニに寄って、出てきたら傘がなくなってたんです」
一緒にスターレスを出たリコさんにその理由を説明すれば、彼はあからさまに整った顔を歪めて見せた。
「それ、盗まれてるよね?」
「……間違えて持っていっちゃったのかも」
「小鳥ちゃん、相変わらずお人好しすぎ。ていうか、傘がないのわかった時点でコンビニで買わなかったの?」
「いえ、買おうと思ってまた中に入ったんですけど……レジの列が長かったり、公演の時間が迫ってたりで……。あと、その時はまだ降ってなかったので」
「買わずに出たってこと?」
「はい……」
一連の流れを聞いて、リコさんは自分の傘を開きながら小さく息をこぼす。
呆れられるのは仕方ない。自分でもアホだなって思うもの。だから余計に、送ってくれるという彼の厚意に申し訳なさを感じてしまう。やっぱり、遠慮しておいたほうがいいかもしれない。
「リコさん、私やっぱり」
「ま、オレにとっては好都合だけど? こうしてアンタと相合い傘できるし。ね?」
「っ、」
耳元に甘い声が落とされて、言いかけた台詞が喉の奥に引っ込んでしまう。これは、多分言わせてくれないやつだ。
機嫌の良さそうな笑顔に促され、そのまま水浸しの道路へ足を踏み出す。
彼の傘は私が普段使っているものよりは多少大きいものの、二人で差すにはやはり直径が足りないらしい。ぴったりとお互いがくっついている……というか、肩を抱かれて密着しているにも関わらず、彼の傘を持つほうの腕や肩には容赦なく雨粒が打ちつけている。
「あの、もっとそっちに傾けてください。リコさんが濡れちゃってます」
「ダーメ。女の子のほうが身体冷やしちゃいけないでしょ?」
「でも……」
「そんなに心配してくれるならさぁ、このままオレの部屋まで来て、オレのこと温めてくれる?」
顔を覗き込むようにして、リコさんは優しげに、それでいて誘惑的な眼差しで私を見つめる。
今までにも何度かこんな雰囲気になったことはあるけれど、いつまで経っても慣れることはないし、それを遮ってくれる第三者も今はいない。もしこれが冗談でなかったら、私は……。
「……無言は肯定と見なすけど?」
「あっ、いえ、ひ、否定で!」
「プッ、何それ。ほんとアンタって面白いよねェ」
ドクドクと脈打つ心臓の音が、絶え間ない雨の喧騒に呑まれていく。駅まではもうしばらく歩かなくてはならないのに、これではどこにも逃げ場なんてない。
「帰ったらちゃんとあったまってよね」
「あ、はい。ありがとうございます。リコさんも、風邪引かないようにしてくださいね」
「うん。でも、もし風邪引いたら小鳥ちゃんが看病しに来てくれるんだよね?」
「えっ? あ、それは……はい。私のせいなので」
「だから〜、お人好しすぎなんだってば。冗談真に受けないでよ。……まぁ、そこが小鳥ちゃんの可愛いところでもあるんだけど」
あ、これは冗談じゃないから。
そう言って、リコさんは私をさらに自分のほうへと抱き寄せる。
……駄目だ。早く離れないと。
雨音では誤魔化せない、全身をめぐる甘い心音。その隠しきれない高鳴りが、触れた場所から彼へと伝わってしまう前に――。
今夜は雨が降ると予報されていた。それなのに、いま現在私の手にはそれを凌ぐものは何もない。なぜかって。それは――
「コンビニに寄って、出てきたら傘がなくなってたんです」
一緒にスターレスを出たリコさんにその理由を説明すれば、彼はあからさまに整った顔を歪めて見せた。
「それ、盗まれてるよね?」
「……間違えて持っていっちゃったのかも」
「小鳥ちゃん、相変わらずお人好しすぎ。ていうか、傘がないのわかった時点でコンビニで買わなかったの?」
「いえ、買おうと思ってまた中に入ったんですけど……レジの列が長かったり、公演の時間が迫ってたりで……。あと、その時はまだ降ってなかったので」
「買わずに出たってこと?」
「はい……」
一連の流れを聞いて、リコさんは自分の傘を開きながら小さく息をこぼす。
呆れられるのは仕方ない。自分でもアホだなって思うもの。だから余計に、送ってくれるという彼の厚意に申し訳なさを感じてしまう。やっぱり、遠慮しておいたほうがいいかもしれない。
「リコさん、私やっぱり」
「ま、オレにとっては好都合だけど? こうしてアンタと相合い傘できるし。ね?」
「っ、」
耳元に甘い声が落とされて、言いかけた台詞が喉の奥に引っ込んでしまう。これは、多分言わせてくれないやつだ。
機嫌の良さそうな笑顔に促され、そのまま水浸しの道路へ足を踏み出す。
彼の傘は私が普段使っているものよりは多少大きいものの、二人で差すにはやはり直径が足りないらしい。ぴったりとお互いがくっついている……というか、肩を抱かれて密着しているにも関わらず、彼の傘を持つほうの腕や肩には容赦なく雨粒が打ちつけている。
「あの、もっとそっちに傾けてください。リコさんが濡れちゃってます」
「ダーメ。女の子のほうが身体冷やしちゃいけないでしょ?」
「でも……」
「そんなに心配してくれるならさぁ、このままオレの部屋まで来て、オレのこと温めてくれる?」
顔を覗き込むようにして、リコさんは優しげに、それでいて誘惑的な眼差しで私を見つめる。
今までにも何度かこんな雰囲気になったことはあるけれど、いつまで経っても慣れることはないし、それを遮ってくれる第三者も今はいない。もしこれが冗談でなかったら、私は……。
「……無言は肯定と見なすけど?」
「あっ、いえ、ひ、否定で!」
「プッ、何それ。ほんとアンタって面白いよねェ」
ドクドクと脈打つ心臓の音が、絶え間ない雨の喧騒に呑まれていく。駅まではもうしばらく歩かなくてはならないのに、これではどこにも逃げ場なんてない。
「帰ったらちゃんとあったまってよね」
「あ、はい。ありがとうございます。リコさんも、風邪引かないようにしてくださいね」
「うん。でも、もし風邪引いたら小鳥ちゃんが看病しに来てくれるんだよね?」
「えっ? あ、それは……はい。私のせいなので」
「だから〜、お人好しすぎなんだってば。冗談真に受けないでよ。……まぁ、そこが小鳥ちゃんの可愛いところでもあるんだけど」
あ、これは冗談じゃないから。
そう言って、リコさんは私をさらに自分のほうへと抱き寄せる。
……駄目だ。早く離れないと。
雨音では誤魔化せない、全身をめぐる甘い心音。その隠しきれない高鳴りが、触れた場所から彼へと伝わってしまう前に――。
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