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嫉妬する彼
真珠
「あのさ……さっきの男の人、誰?」
彼との待ち合わせ場所に到着する直前、偶然高校時代のクラスメイトに出会した。早めに出てきていたから時間は大丈夫だろうと思って少し立ち話をしていたのだけど、どうやら要らぬ心配をかけてしまったらしい。
「高校の時のクラスメイトだけど……もしかして妬いてくれたの?」
「えっ、あ、クラスメイト? なんだ、そっか。おれ、てっきり……」
かあっと頬を染めて目を逸らす彼に申し訳ないと思いつつ、妬いてくれたことが嬉しくて自然と頬が緩んでいく。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。おれのほうこそ、ごめん」
お互いに手を取り合い、じゃあ行こっか。とデートに繰り出す。
誰? と訊かれたときの鋭さを湛えた瞳にぞくりとしたのは、誰にも言えない私だけの秘密だ。
***
ミズキ
取引先の人と食事をするだけなのに、ヤキモチ焼きで可愛い私の恋人はすぐにご機嫌を斜めにする。
「そんなモン、行かなくていーだろ」
「そういうわけにもいかないの」
玄関までついてきてなお私を引き止めようとするその姿は、まるで飼い主を見送るワンちゃんのよう。あまりの愛おしさに、思わず彼の頬に唇を寄せる。
「……なんで口にしねーんだよ」
「それは帰ってきてからね」
じゃあね、と玄関のドアを開ける。振り向けば、彼は赤らめた頬をぷくりと膨らませていた。
「みやげ買ってこいよ」
「わかってる」
今度こそ玄関を出て、彼が喜ぶのはやっぱりお肉かな、なんて早速お土産のことを考える。
帰ったらいっぱい甘やかそう。
きっと、照れて嫌がるだろうけど。
***
玻璃
「お待たせいたしました。こちらフルーツトマトと生ハムの冷製パスタです。それと、これは俺からのサービスです」
注文した料理と一緒に並べられた、芳しい香りが立ち上る紅いホットティー。サービス?と首を傾げれば、彼はクイッと自分の眼鏡を押し上げた。
「先程、リンドウにエスコートしてもらってましたよね」
「あ、うん。玻璃くん忙しそうだったから」
「すみません、せっかく来ていただいたのに」
いつものように口調は淡々としていたものの、レンズの奥では鮮やかなネオンイエローが静かに伏せられている。ホットティーのサービスと、エスコートの件。それらと何か関係があるのだろうか。
「正直に言います。嫉妬、したんです」
「嫉妬?」
「ええ。あなたは俺が迎えたかった。たとえどんなに忙しくとも。けれどもあなたを待たせるわけにはいきませんし、お客様がいらっしゃったとなれば他のキャストが動くのも当然。つまり、俺があなたをエスコートできなかったのは、俺が未熟だったという証拠です」
「そんなこと……」
「ですので、そのホットティーはあなたをエスコートできなかったお詫びと、自分の未熟さに気づかせてくださったお礼、ということで受け取っていただければ」
無駄のない説明がなされている間、じわじわと何とも言えない気恥ずかしさが湧き上がった。そんなふうに思ってくれていたんだという嬉しさと、彼にそう思わせてしまったという申し訳なさ。ふたつの感情が混ざり合って、なかなか返す言葉が見つからない。
「長々とすみませんでした。次は俺に完璧なエスコートをさせてください」
綺麗な一礼をして厨房に戻っていく彼。
去り際に見せた笑顔は晴れやかだった。
相変わらず自信に満ち溢れていて、自己完結しては私を置いて行ってしまう狡い人。そんな彼を、私は心底好きだと思ってしまうのだ。
真珠
「あのさ……さっきの男の人、誰?」
彼との待ち合わせ場所に到着する直前、偶然高校時代のクラスメイトに出会した。早めに出てきていたから時間は大丈夫だろうと思って少し立ち話をしていたのだけど、どうやら要らぬ心配をかけてしまったらしい。
「高校の時のクラスメイトだけど……もしかして妬いてくれたの?」
「えっ、あ、クラスメイト? なんだ、そっか。おれ、てっきり……」
かあっと頬を染めて目を逸らす彼に申し訳ないと思いつつ、妬いてくれたことが嬉しくて自然と頬が緩んでいく。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。おれのほうこそ、ごめん」
お互いに手を取り合い、じゃあ行こっか。とデートに繰り出す。
誰? と訊かれたときの鋭さを湛えた瞳にぞくりとしたのは、誰にも言えない私だけの秘密だ。
***
ミズキ
取引先の人と食事をするだけなのに、ヤキモチ焼きで可愛い私の恋人はすぐにご機嫌を斜めにする。
「そんなモン、行かなくていーだろ」
「そういうわけにもいかないの」
玄関までついてきてなお私を引き止めようとするその姿は、まるで飼い主を見送るワンちゃんのよう。あまりの愛おしさに、思わず彼の頬に唇を寄せる。
「……なんで口にしねーんだよ」
「それは帰ってきてからね」
じゃあね、と玄関のドアを開ける。振り向けば、彼は赤らめた頬をぷくりと膨らませていた。
「みやげ買ってこいよ」
「わかってる」
今度こそ玄関を出て、彼が喜ぶのはやっぱりお肉かな、なんて早速お土産のことを考える。
帰ったらいっぱい甘やかそう。
きっと、照れて嫌がるだろうけど。
***
玻璃
「お待たせいたしました。こちらフルーツトマトと生ハムの冷製パスタです。それと、これは俺からのサービスです」
注文した料理と一緒に並べられた、芳しい香りが立ち上る紅いホットティー。サービス?と首を傾げれば、彼はクイッと自分の眼鏡を押し上げた。
「先程、リンドウにエスコートしてもらってましたよね」
「あ、うん。玻璃くん忙しそうだったから」
「すみません、せっかく来ていただいたのに」
いつものように口調は淡々としていたものの、レンズの奥では鮮やかなネオンイエローが静かに伏せられている。ホットティーのサービスと、エスコートの件。それらと何か関係があるのだろうか。
「正直に言います。嫉妬、したんです」
「嫉妬?」
「ええ。あなたは俺が迎えたかった。たとえどんなに忙しくとも。けれどもあなたを待たせるわけにはいきませんし、お客様がいらっしゃったとなれば他のキャストが動くのも当然。つまり、俺があなたをエスコートできなかったのは、俺が未熟だったという証拠です」
「そんなこと……」
「ですので、そのホットティーはあなたをエスコートできなかったお詫びと、自分の未熟さに気づかせてくださったお礼、ということで受け取っていただければ」
無駄のない説明がなされている間、じわじわと何とも言えない気恥ずかしさが湧き上がった。そんなふうに思ってくれていたんだという嬉しさと、彼にそう思わせてしまったという申し訳なさ。ふたつの感情が混ざり合って、なかなか返す言葉が見つからない。
「長々とすみませんでした。次は俺に完璧なエスコートをさせてください」
綺麗な一礼をして厨房に戻っていく彼。
去り際に見せた笑顔は晴れやかだった。
相変わらず自信に満ち溢れていて、自己完結しては私を置いて行ってしまう狡い人。そんな彼を、私は心底好きだと思ってしまうのだ。
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