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W推しの女の子と物騒な約束をする大牙の話
「何してんすか、こんな時間に」
「え、あ、大牙くん?」
仕事が終わったのは今から約二時間前。帰路にあるコンビニで缶酎ハイ一本とチョコレート菓子を二つ買い、私はそのまま近くにある公園に足を向けた。
誰もいない夜の公園はひどく寂しげで、所々にある街灯がぼんやりとその足元を照らすだけ。そんな中、女が一人でブランコに腰掛けていたら、それを見た人間はさぞ怪訝に思うだろう。
「びっくりした〜」
「びっくりしたのはこっちっすわ。とうとう見えるようになっちまったのかと思いやした」
そんな女に臆せず声をかけてきた彼──大牙くんは、ショーレストランで働いている、私が贔屓にしているチームの末っ子的存在。フラスタを贈ったり、接客のときにもよくお喋りをしてくれるから、それなりに馴れた間柄だ。
この時間だと彼も仕事の帰りだろうか。手首に私と同じコンビニの袋がぶら下がっている。
「いま帰り?」
「そーすね」
「家この辺なの?」
「え、あー、まぁ」
「あ、客にそんなこと教えられないよね。ごめん」
そこ座る? と隣のブランコを指差せば、大牙くんは無言で片足を上げてその板に跨がった。すぐに帰っちゃうかと思ったのに、意外だ。
「で、何してたんすか」
「んー…………特に何も」
「こんな遅くに女子が一人でいて何もってこたーないでしょ」
明らかに変な間があったし、と指摘されて苦笑する。まぁ、普通に考えておかしいよね。自分でも何がしたいのかわからないし。ただなんとなく、静かな場所でぼーっとしたかっただけなのかも。
現在スターレスでは大牙くんが所属するチームWと、もう一つのチームPによるブライダル公演が行われている。もちろん両方観に行ったし、明日の千秋楽も拝みに行く予定だ。平日はほぼ残業だけど、明日は何としてでも定時で上がりたい。
「今やってる公演さ、ブライダルって感じはあんまりしないけど、すごく格好良いよね」
「はぁ、そりゃどーも」
「タイトルがキスか弾丸って、極端すぎて最初はちょっと笑っちゃった」
「確かにそうすなー。まぁ、あの店らしいっちゃらしいすけど」
物語の流れを思い出しながらそれを演じる本人とこうして話ができるなんて、残業ばかりの日々もなかなか捨てたもんじゃないと思えてくる。スターレスに通う以外楽しいこともなくて、なんなら早く死んじゃいたいとか思ってたのに。……あ、そうだ。
「あのさ、ちょっと面倒臭いこと言っていい?」
「え、何すか。面倒なのはできれば勘弁してほしいすけど」
「……大牙くん、私のこと殺してくれない?」
「は?」
彼の目が、何言ってんだコイツと言わんばかりに見開かれる。実際、そう思っているに違いない。
「……酔ってるんすか?」
「酔ってないよ。まだ飲んでないもん」
ほら、と買い物袋の中を見せ、缶の口が開いていないことを証明する。買ったはいいけど飲む気にはなれなくて、お菓子だけちょっとずつ摘まんでいたのだ。
「店の人間が物騒だと、客も物騒なのが集まるんすかね」
「そうなの? あ、チョコ食べる?」
「や、お構いなく」
差し出したものの間髪入れずに断られたチョコを自分の口に運んで、私はどうやって死にたいかについて考えを巡らせる。
「痛いのは嫌だから刺されたりするのはなぁ。轢かれるのも嫌だし、殴られるのは心が辛い。毒? 薬? それだと自分でもできちゃうよね。溺死? どこか高い所から突き落とされる……のは恐いから無し。……あ、首絞めてもらえばいっか」
「ちょっと待った、あんたさん完全に病んでますよね!? 病院行ったほうがいいですって!」
「病んでないよ」
「いや病んでるでしょ。発想がヤバい」
完全にドン引きした顔でこちらを見る大牙くんに、私はぜんぜんそんなことないよと力説する。
だって人生は基本つまらなくて、もうすでに十分生きたし、できれば身体が丈夫で健康なうちに終わりたい。まぁ、今の生活を続けていればそのうちポックリ逝くだろうとは思ってるけど。
「いやー、世の中にはそういう人もいるんすね。俺、自分のこと陰キャ陰キャ言ってますけどあんたさんも相当すわ」
「これって陰キャの部類なの?」
「いや、さーせん。陰キャとはまた違うかもしれねーす」
彼の乾いた笑いが暗闇に吸い込まれる。一瞬の沈黙が降りて、いっそこのまま終わらせてほしいな……なんて。
「せめて最期は推しの手で」
「ちょ、推しを殺人犯にしないでくだせー」
スッと大牙くんの手を引き寄せて首元に持ってくれば、彼はすぐにその腕を引っ込める。残念。
「あ〜……じゃああれだ、取引しやしょ」
「取引?」
「取引っつーか条件? 俺があんたさんを殺すのは俺がそうしたいと思ったとき。その時まであんたさんは勝手に死なないこと。それでどーすか?」
「あー……うん。わかった。大牙くん優しいね」
「いや別に優しくはないす」
「そっか。じゃあ、約束」
「……約束」
小指と小指を絡ませて、力を込めてぎゅっと握る。大牙くんの手は私のそれより大きくて、その差に少しだけ心がときめいた。
「あー、大牙くんを一番の推しにしようかな〜」
「ありがてーですけど、今の一番は俺じゃないんすね」
「ほら、私W箱推しだから」
「そーいやそうでした」
見上げた先の街灯に小さな虫が集まっている。そろそろ日付が変わるかもしれない。大牙くんにも申し訳ないし、帰るとするか。
キィ、と小さな鳴き声をあげるブランコから腰を上げれば、それに合わせて大牙くんの視線もついてくる。
「帰るなら送っていきやすけど」
「え、いいの?」
「女子の一人歩きは危ねーんで」
「ありがとう。本当に優しいね、大牙くん」
「……」
あら、何も言わなくなっちゃった。
公園を出て同じ方向に歩いていきながら、私は黙ってしまった彼の隣で明日のスターレスに思いを馳せる。
「千秋楽、楽しみにしてるね」
「……あざす」
「大牙くんも楽しみにしてて」
「?」
いつもはチーム宛に贈っているフラスタ。明日は大牙くんのためだけに贈らせてもらおうと決めて、私は涼しい夜の風に愛と蛮行の鼻歌を咲かせていった。
「何してんすか、こんな時間に」
「え、あ、大牙くん?」
仕事が終わったのは今から約二時間前。帰路にあるコンビニで缶酎ハイ一本とチョコレート菓子を二つ買い、私はそのまま近くにある公園に足を向けた。
誰もいない夜の公園はひどく寂しげで、所々にある街灯がぼんやりとその足元を照らすだけ。そんな中、女が一人でブランコに腰掛けていたら、それを見た人間はさぞ怪訝に思うだろう。
「びっくりした〜」
「びっくりしたのはこっちっすわ。とうとう見えるようになっちまったのかと思いやした」
そんな女に臆せず声をかけてきた彼──大牙くんは、ショーレストランで働いている、私が贔屓にしているチームの末っ子的存在。フラスタを贈ったり、接客のときにもよくお喋りをしてくれるから、それなりに馴れた間柄だ。
この時間だと彼も仕事の帰りだろうか。手首に私と同じコンビニの袋がぶら下がっている。
「いま帰り?」
「そーすね」
「家この辺なの?」
「え、あー、まぁ」
「あ、客にそんなこと教えられないよね。ごめん」
そこ座る? と隣のブランコを指差せば、大牙くんは無言で片足を上げてその板に跨がった。すぐに帰っちゃうかと思ったのに、意外だ。
「で、何してたんすか」
「んー…………特に何も」
「こんな遅くに女子が一人でいて何もってこたーないでしょ」
明らかに変な間があったし、と指摘されて苦笑する。まぁ、普通に考えておかしいよね。自分でも何がしたいのかわからないし。ただなんとなく、静かな場所でぼーっとしたかっただけなのかも。
現在スターレスでは大牙くんが所属するチームWと、もう一つのチームPによるブライダル公演が行われている。もちろん両方観に行ったし、明日の千秋楽も拝みに行く予定だ。平日はほぼ残業だけど、明日は何としてでも定時で上がりたい。
「今やってる公演さ、ブライダルって感じはあんまりしないけど、すごく格好良いよね」
「はぁ、そりゃどーも」
「タイトルがキスか弾丸って、極端すぎて最初はちょっと笑っちゃった」
「確かにそうすなー。まぁ、あの店らしいっちゃらしいすけど」
物語の流れを思い出しながらそれを演じる本人とこうして話ができるなんて、残業ばかりの日々もなかなか捨てたもんじゃないと思えてくる。スターレスに通う以外楽しいこともなくて、なんなら早く死んじゃいたいとか思ってたのに。……あ、そうだ。
「あのさ、ちょっと面倒臭いこと言っていい?」
「え、何すか。面倒なのはできれば勘弁してほしいすけど」
「……大牙くん、私のこと殺してくれない?」
「は?」
彼の目が、何言ってんだコイツと言わんばかりに見開かれる。実際、そう思っているに違いない。
「……酔ってるんすか?」
「酔ってないよ。まだ飲んでないもん」
ほら、と買い物袋の中を見せ、缶の口が開いていないことを証明する。買ったはいいけど飲む気にはなれなくて、お菓子だけちょっとずつ摘まんでいたのだ。
「店の人間が物騒だと、客も物騒なのが集まるんすかね」
「そうなの? あ、チョコ食べる?」
「や、お構いなく」
差し出したものの間髪入れずに断られたチョコを自分の口に運んで、私はどうやって死にたいかについて考えを巡らせる。
「痛いのは嫌だから刺されたりするのはなぁ。轢かれるのも嫌だし、殴られるのは心が辛い。毒? 薬? それだと自分でもできちゃうよね。溺死? どこか高い所から突き落とされる……のは恐いから無し。……あ、首絞めてもらえばいっか」
「ちょっと待った、あんたさん完全に病んでますよね!? 病院行ったほうがいいですって!」
「病んでないよ」
「いや病んでるでしょ。発想がヤバい」
完全にドン引きした顔でこちらを見る大牙くんに、私はぜんぜんそんなことないよと力説する。
だって人生は基本つまらなくて、もうすでに十分生きたし、できれば身体が丈夫で健康なうちに終わりたい。まぁ、今の生活を続けていればそのうちポックリ逝くだろうとは思ってるけど。
「いやー、世の中にはそういう人もいるんすね。俺、自分のこと陰キャ陰キャ言ってますけどあんたさんも相当すわ」
「これって陰キャの部類なの?」
「いや、さーせん。陰キャとはまた違うかもしれねーす」
彼の乾いた笑いが暗闇に吸い込まれる。一瞬の沈黙が降りて、いっそこのまま終わらせてほしいな……なんて。
「せめて最期は推しの手で」
「ちょ、推しを殺人犯にしないでくだせー」
スッと大牙くんの手を引き寄せて首元に持ってくれば、彼はすぐにその腕を引っ込める。残念。
「あ〜……じゃああれだ、取引しやしょ」
「取引?」
「取引っつーか条件? 俺があんたさんを殺すのは俺がそうしたいと思ったとき。その時まであんたさんは勝手に死なないこと。それでどーすか?」
「あー……うん。わかった。大牙くん優しいね」
「いや別に優しくはないす」
「そっか。じゃあ、約束」
「……約束」
小指と小指を絡ませて、力を込めてぎゅっと握る。大牙くんの手は私のそれより大きくて、その差に少しだけ心がときめいた。
「あー、大牙くんを一番の推しにしようかな〜」
「ありがてーですけど、今の一番は俺じゃないんすね」
「ほら、私W箱推しだから」
「そーいやそうでした」
見上げた先の街灯に小さな虫が集まっている。そろそろ日付が変わるかもしれない。大牙くんにも申し訳ないし、帰るとするか。
キィ、と小さな鳴き声をあげるブランコから腰を上げれば、それに合わせて大牙くんの視線もついてくる。
「帰るなら送っていきやすけど」
「え、いいの?」
「女子の一人歩きは危ねーんで」
「ありがとう。本当に優しいね、大牙くん」
「……」
あら、何も言わなくなっちゃった。
公園を出て同じ方向に歩いていきながら、私は黙ってしまった彼の隣で明日のスターレスに思いを馳せる。
「千秋楽、楽しみにしてるね」
「……あざす」
「大牙くんも楽しみにしてて」
「?」
いつもはチーム宛に贈っているフラスタ。明日は大牙くんのためだけに贈らせてもらおうと決めて、私は涼しい夜の風に愛と蛮行の鼻歌を咲かせていった。
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