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ガーベラに咲む
今日は彼と結婚して四年目の記念日。毎年私から彼にプレゼントしている黄色とオレンジのガーベラを花瓶に飾り、これから二人で囲む食卓の準備を進める。
「お皿はこれでいいかな?」
「ああ、ありがとう。こっちにくれる?」
普段より手間と時間をかけたお料理は、彼から私へのプレゼント。こういう日くらいはゆっくりしてていいのにって言っても、「こういう日だからこそ俺に作らせて。俺にはこれくらいしかできないから」って。これくらいしか、なんてことはないだろうし、むしろ私にとっては十分すぎる贈り物だ。
それに、そうなると私はほぼ毎日記念日みたいな気分でご飯を食べていることになる。圧倒的に、彼が私にしてくれていることの割合のほうが多い気がする。
私が自分を情けなく思っている間にも、次々とご馳走がお皿に盛られていく。食欲をそそる香りが鼻先を掠めて、今にもお腹の虫が鳴き出してしまいそうだ。
「これはここでいいかな。あとはお箸と……」
テーブルに料理を並べ終えたところで、ピンポン、と家のチャイムが鳴る。
「あ、俺が出るから。ちょっと待ってて」
「わかった、ありがとう」
宅配便でも来たのかな、なんて思いつつそのまま待っていると、かすかに彼と配達員さんらしき人の話し声が聞こえてくる。
はっきりとは聞き取れないけど……あ、お礼言ってる。誰にでも丁寧に受け答えするところ、本当に好きだなぁ。ほんわかと温かい気持ちになって、つい「ふふっ」と声がもれる。
「よいしょ、っと。ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、何だった……ん?」
扉を窮屈そうに、そして慎重にくぐってきた彼は、何か大きな荷物を抱えている。何だろう。なんだか、花束みたいな形……。
「なかなか良いタイミングだったね」
「それ、いま届いたもの?」
「そうだよ。注文しておいたんだ。今年は花婚式だから」
「!」
ガサリと音を立ててこちらに向けられたそれは、色とりどりのガーベラがたくさん使われた花束だった。
赤にピンク、白、緑や紫もある。カラフルで可愛くて、すべての花を一つ一つ確かめたいがために、私はあちこち視線を動かしてしまう。その様子を見て「喜んでくれた?」と照れたように笑う彼に、私は何度も頷いて見せた。
「ありがとう! すごいねこれ……何本あるの?」
「四十本かな」
「四十本!?」
見た目はもちろんのこと、実際に数で聞くとさらにその衝撃度が増す。私が贈ったのなんて、これに比べたらほんのわずかだというのに。
「なんかごめんね。私、してもらってばかりで何も返せてない……」
「えっ、なんでそうなるの? ぜんぜんそんなことないって」
思わず花の陰に顔を隠すと、見えていなくても彼の慌てた様子が手に取るようにわかってしまう。そして、自分がそうさせてしまったということに、チクリと胸が痛む。
違う。困らせたいわけじゃない。嬉しいの。すごく嬉しい。だけど……。
私は受け取った花束を椅子の上に置き、小さな子どもが親に甘えるように、彼に向かって両手を広げた。彼は一瞬戸惑った表情を見せたけれど、すぐに私の身体を軽々と抱き上げてくれる。
「好き。……大好き」
ぎゅうっと首に抱きついて、込み上げる気持ちをそのまま彼に伝える。いろんな感情が真ん中で渦巻いているのに、言葉として出てくるのはそんなシンプルなものだけ。けれどもその言葉を繰り返す私に安堵したのか、緊張気味だった彼の腕がゆるやかに私を抱き直した。
「俺も好きだよ。改めて、俺の奥さんになってくれてありがとう」
これからも、俺に笑顔を見せてくれる?
この上なく愛のこもった問いかけに、私は何度もうん、うん、と頷き返す。
私の旦那さんはすごく優しくて、格好良くて、誠実で。この先何年生きていようと、この人以上に素敵だと思える人はきっと現れない。この人と一緒になれてよかった。そう、心の底から絶え間なく喜びが湧き上がってくる。
「さ、ご飯食べよう。お祝いはまだまだこれからだよ」
そっと床に降ろされると、彼の言葉を合図にお腹の虫が騒ぎ出す。カラフルな笑みがあふれる中、一拍置いて私たちにも笑顔の花が咲き乱れた。
赤、ピンク、白。緑や、紫。それから、黄色とオレンジも。みんなみんな笑っていて、これからもこの幸せが途絶えることは決してないのだろうと思わせてくれる。
いつかは小さな笑顔が増えることもあるのかな。そんな期待を心の隅に宿しながら、私は彼がくれた最高のプレゼントに幸福を噛みしめていた。
今日は彼と結婚して四年目の記念日。毎年私から彼にプレゼントしている黄色とオレンジのガーベラを花瓶に飾り、これから二人で囲む食卓の準備を進める。
「お皿はこれでいいかな?」
「ああ、ありがとう。こっちにくれる?」
普段より手間と時間をかけたお料理は、彼から私へのプレゼント。こういう日くらいはゆっくりしてていいのにって言っても、「こういう日だからこそ俺に作らせて。俺にはこれくらいしかできないから」って。これくらいしか、なんてことはないだろうし、むしろ私にとっては十分すぎる贈り物だ。
それに、そうなると私はほぼ毎日記念日みたいな気分でご飯を食べていることになる。圧倒的に、彼が私にしてくれていることの割合のほうが多い気がする。
私が自分を情けなく思っている間にも、次々とご馳走がお皿に盛られていく。食欲をそそる香りが鼻先を掠めて、今にもお腹の虫が鳴き出してしまいそうだ。
「これはここでいいかな。あとはお箸と……」
テーブルに料理を並べ終えたところで、ピンポン、と家のチャイムが鳴る。
「あ、俺が出るから。ちょっと待ってて」
「わかった、ありがとう」
宅配便でも来たのかな、なんて思いつつそのまま待っていると、かすかに彼と配達員さんらしき人の話し声が聞こえてくる。
はっきりとは聞き取れないけど……あ、お礼言ってる。誰にでも丁寧に受け答えするところ、本当に好きだなぁ。ほんわかと温かい気持ちになって、つい「ふふっ」と声がもれる。
「よいしょ、っと。ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、何だった……ん?」
扉を窮屈そうに、そして慎重にくぐってきた彼は、何か大きな荷物を抱えている。何だろう。なんだか、花束みたいな形……。
「なかなか良いタイミングだったね」
「それ、いま届いたもの?」
「そうだよ。注文しておいたんだ。今年は花婚式だから」
「!」
ガサリと音を立ててこちらに向けられたそれは、色とりどりのガーベラがたくさん使われた花束だった。
赤にピンク、白、緑や紫もある。カラフルで可愛くて、すべての花を一つ一つ確かめたいがために、私はあちこち視線を動かしてしまう。その様子を見て「喜んでくれた?」と照れたように笑う彼に、私は何度も頷いて見せた。
「ありがとう! すごいねこれ……何本あるの?」
「四十本かな」
「四十本!?」
見た目はもちろんのこと、実際に数で聞くとさらにその衝撃度が増す。私が贈ったのなんて、これに比べたらほんのわずかだというのに。
「なんかごめんね。私、してもらってばかりで何も返せてない……」
「えっ、なんでそうなるの? ぜんぜんそんなことないって」
思わず花の陰に顔を隠すと、見えていなくても彼の慌てた様子が手に取るようにわかってしまう。そして、自分がそうさせてしまったということに、チクリと胸が痛む。
違う。困らせたいわけじゃない。嬉しいの。すごく嬉しい。だけど……。
私は受け取った花束を椅子の上に置き、小さな子どもが親に甘えるように、彼に向かって両手を広げた。彼は一瞬戸惑った表情を見せたけれど、すぐに私の身体を軽々と抱き上げてくれる。
「好き。……大好き」
ぎゅうっと首に抱きついて、込み上げる気持ちをそのまま彼に伝える。いろんな感情が真ん中で渦巻いているのに、言葉として出てくるのはそんなシンプルなものだけ。けれどもその言葉を繰り返す私に安堵したのか、緊張気味だった彼の腕がゆるやかに私を抱き直した。
「俺も好きだよ。改めて、俺の奥さんになってくれてありがとう」
これからも、俺に笑顔を見せてくれる?
この上なく愛のこもった問いかけに、私は何度もうん、うん、と頷き返す。
私の旦那さんはすごく優しくて、格好良くて、誠実で。この先何年生きていようと、この人以上に素敵だと思える人はきっと現れない。この人と一緒になれてよかった。そう、心の底から絶え間なく喜びが湧き上がってくる。
「さ、ご飯食べよう。お祝いはまだまだこれからだよ」
そっと床に降ろされると、彼の言葉を合図にお腹の虫が騒ぎ出す。カラフルな笑みがあふれる中、一拍置いて私たちにも笑顔の花が咲き乱れた。
赤、ピンク、白。緑や、紫。それから、黄色とオレンジも。みんなみんな笑っていて、これからもこの幸せが途絶えることは決してないのだろうと思わせてくれる。
いつかは小さな笑顔が増えることもあるのかな。そんな期待を心の隅に宿しながら、私は彼がくれた最高のプレゼントに幸福を噛みしめていた。
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