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モクレンの指先に翻弄される
「っ、そこ、痛い……っ」
「心配するな。すぐに気持ちよくなる」
他人の痛がる姿を見てどこか楽しそうにしている人間の言葉は、はたして信用していいものか。
ベッドにうつ伏せになった私のふくらはぎを、彼の指先が力強く刺激する。長時間のデスクワークでぱんぱんに張った足を揉みほぐすのは、なかなか根気のいる作業だ。
初めは自分でマッサージをしていたのだけど、早々に疲れてやめてしまったのを見かねたのか、彼が「やってやる」と申し出てくれて今に至る。ありがたいとは思いつつ、申し訳なさのほうが勝ってしまうのが正直なところだ。
「本当に大丈夫? 手疲れちゃうよ?」
「私を誰だと思っている。こんなものどうってことない。きっちりケアしておかないと、そのうち使い物にならなくなるぞ」
わかったら黙って任せておけ。そんなふうに言われてしまえば、あ、はい。としか返すことができない。
体を動かすことを生業としている彼だからこそ、ストレッチとか、クールダウンとか、そういうことに関する知識も豊富なのだろう。感覚的に捉えていることも多そうだけど、私の知らないことをきっとたくさん学んできたに違いない。
「整体師にもなれそうだね。踊る整体師」
「何を馬鹿なことを」
「いったたたたたたたた!!!!!」
ぐっと彼の強い指がふくらはぎに食い込み、勝手に足全体が跳ね上がる。それすらも軽く押さえ込んで平然と力を加え続けるその指先は、なんとも彼らしいと言ってしまえばその通りで。
しばらく強めに揉まれていると、ようやく痛みを通り越して気持ちよさがやってくる。
「ん……なんかよくなってきた」
「そうだろう。だから安心しろと言ったんだ」
「安心しろとは言われてない」
「そうだったか? まぁいい」
私は組んだ腕に頬を乗せ、そっと瞼を下ろした。
ああ、これは……寝れる……。
エステでも受けているような心地に、少しの間だけ微睡みを堪能する。本当に寝てしまったら文句を言われそうだけど、これくらいなら許してくれるよね。
浅いところで意識を彷徨わせていると、不意に軽くなった彼の指先が、からかうように私の脇腹を撫で上げる。
「……ん、ちょっと、なに」
「ずいぶんと気持ちよさそうにしているじゃないか。私はそれほどの働きをしたんだ、褒美をよこせ」
「褒美?」
横から私を覗き込み、期待を全面に押し出した眼差しをそそいでくる。彼の言わんとすることが何か……まぁ、わからなくはない。
「……何が食べたい?」
「ラーメン」
「了解です」
私の返事を聞くなり、彼はすぐにベッドから降りて上着を羽織る。相変わらず行動が早い。急かされないうちに私も動こうと身体を起こすと、スッと目の前に手を差し出された。
「ほら、掴まって」
「あ、ありがとう……」
ほぐされてふらつきを見せる私の足。それを気遣ってくれる優しさに、胸がくすぐったくなって、それから、ぽかぽかと温かくなる。
嬉しさのあまり「餃子とチャーハンもどうぞ」と言ってしまえば、すかさず「当然だ」と返された。くそぅ、これもすべて計算のうちだったというのか……!
結局急かされて外に出た私は、この時季にしては暖かい夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「何してる。さっさと行くぞ。ラーメンと餃子とチャーハンが私を待っている」
「ふふ。はいはい」
駆け足で隣に並び、夜風になびく艷やかな黒髪を見上げる。
きっと、「帰ってからデザートもきっちりもらうぞ」とその指先が私の顎をすくうまでが、彼の中でセットとなっているに違いない。
「っ、そこ、痛い……っ」
「心配するな。すぐに気持ちよくなる」
他人の痛がる姿を見てどこか楽しそうにしている人間の言葉は、はたして信用していいものか。
ベッドにうつ伏せになった私のふくらはぎを、彼の指先が力強く刺激する。長時間のデスクワークでぱんぱんに張った足を揉みほぐすのは、なかなか根気のいる作業だ。
初めは自分でマッサージをしていたのだけど、早々に疲れてやめてしまったのを見かねたのか、彼が「やってやる」と申し出てくれて今に至る。ありがたいとは思いつつ、申し訳なさのほうが勝ってしまうのが正直なところだ。
「本当に大丈夫? 手疲れちゃうよ?」
「私を誰だと思っている。こんなものどうってことない。きっちりケアしておかないと、そのうち使い物にならなくなるぞ」
わかったら黙って任せておけ。そんなふうに言われてしまえば、あ、はい。としか返すことができない。
体を動かすことを生業としている彼だからこそ、ストレッチとか、クールダウンとか、そういうことに関する知識も豊富なのだろう。感覚的に捉えていることも多そうだけど、私の知らないことをきっとたくさん学んできたに違いない。
「整体師にもなれそうだね。踊る整体師」
「何を馬鹿なことを」
「いったたたたたたたた!!!!!」
ぐっと彼の強い指がふくらはぎに食い込み、勝手に足全体が跳ね上がる。それすらも軽く押さえ込んで平然と力を加え続けるその指先は、なんとも彼らしいと言ってしまえばその通りで。
しばらく強めに揉まれていると、ようやく痛みを通り越して気持ちよさがやってくる。
「ん……なんかよくなってきた」
「そうだろう。だから安心しろと言ったんだ」
「安心しろとは言われてない」
「そうだったか? まぁいい」
私は組んだ腕に頬を乗せ、そっと瞼を下ろした。
ああ、これは……寝れる……。
エステでも受けているような心地に、少しの間だけ微睡みを堪能する。本当に寝てしまったら文句を言われそうだけど、これくらいなら許してくれるよね。
浅いところで意識を彷徨わせていると、不意に軽くなった彼の指先が、からかうように私の脇腹を撫で上げる。
「……ん、ちょっと、なに」
「ずいぶんと気持ちよさそうにしているじゃないか。私はそれほどの働きをしたんだ、褒美をよこせ」
「褒美?」
横から私を覗き込み、期待を全面に押し出した眼差しをそそいでくる。彼の言わんとすることが何か……まぁ、わからなくはない。
「……何が食べたい?」
「ラーメン」
「了解です」
私の返事を聞くなり、彼はすぐにベッドから降りて上着を羽織る。相変わらず行動が早い。急かされないうちに私も動こうと身体を起こすと、スッと目の前に手を差し出された。
「ほら、掴まって」
「あ、ありがとう……」
ほぐされてふらつきを見せる私の足。それを気遣ってくれる優しさに、胸がくすぐったくなって、それから、ぽかぽかと温かくなる。
嬉しさのあまり「餃子とチャーハンもどうぞ」と言ってしまえば、すかさず「当然だ」と返された。くそぅ、これもすべて計算のうちだったというのか……!
結局急かされて外に出た私は、この時季にしては暖かい夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「何してる。さっさと行くぞ。ラーメンと餃子とチャーハンが私を待っている」
「ふふ。はいはい」
駆け足で隣に並び、夜風になびく艷やかな黒髪を見上げる。
きっと、「帰ってからデザートもきっちりもらうぞ」とその指先が私の顎をすくうまでが、彼の中でセットとなっているに違いない。
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