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雨粒のきらめき
わずかに足元を濡らす程度の小雨の中、いつものようにスターレスへ向かって歩を進める。こんな日は幾分か街の喧騒もおさまり、路地裏の水が跳ねる小さな音までもが穏やかに耳に届きそう――なんて、思っていたのだけど。
「ここはお前らが来ていいところじゃねーっての!!」
「!?」
ドサッ、ガラガラガラ……
決して穏やかとは言えない音が建物の間から聞こえてくる。そして、違っていてほしいけれど、今の声にはとても聞き覚えがあった。
「藍さん?」
「あァ? ……あっ、ねぇちゃん!」
「何をして……、!」
つい目を向けてしまった先――彼の足元には、二人の男性が苦しそうに蹲っている。
「あの、大丈夫なんですか?」
「あぁ、これ? 大丈夫や、いま終わったとこやし」
にこにこと人懐っこい笑顔でこちらに歩いてくる彼の頬には、複数の赤い雫。しっとりと濡れた青い髪から伝い流れた雨粒が、その赤をゆっくりと滲ませて彼の襟元へ落ちていく。
「ねぇちゃん? ぼーっとしてどうした?」
おそらく「大丈夫」の意味が違う。そんなことを考えながらその赤から目が離せないでいると、そのまま近づいてきた丸くて大きな瞳に顔を覗き込まれる。
「ねぇちゃんこそ大丈夫か?」
「あ、私は……。それより、ほっぺに血が……」
「マジ? きったなー」
からからと笑いながら、藍さんは自分の手の甲で頬を拭う。見る限り、彼自身は怪我をしていないらしい。
「これからスターレスやろ? 一緒に行こー!」
「はい、でも、あの」
ちらりと、先ほど彼がいた場所に目をやる。
「アイツらはほっといていいから。ねぇちゃんはオレがちゃーんと守るからな!」
いつの間にか傘の中に入ってきていた彼は、心配するなと言わんばかりのきらきらした笑みを私に向ける。髪にかかっている雨粒が輝き、より一層その笑顔が煌めいて見えた。
「あー、店着いたらシャワー浴びるか〜。ねぇちゃんも一緒にどう?」
「え? だ、大丈夫です……!」
「あはっ、ジョーダンやって」
何事もなかったかのように歩き出す彼にとっては、あんなのは日常茶飯事なのかもしれない。でも、私は怖い。どうして当たり前のように喧嘩が起きているのか。どうしてみんな、私が狙われているとか、私を守ると言うのか。どうして藍さんは、血を浴びてまでそんなに――。
「ん? ねぇちゃんどーした?」
「すみません……。お店に着くまででいいので」
得体の知れない恐怖がすぐ近くまで迫ってきているようで、思わず彼の上着を握りしめる。俯いた状態では数歩先の地面しか見えないけれど、こうしていれば、少しだけ安心できる気がする。
「……危ない。危ないって、ねぇちゃん」
「え?」
藍さんの足が止まって、つられて私も立ち止まる。
「男相手にそんなことしたら、すぐそこらへんのホテルに連れ込まれるぞ!?」
「えっ」
「特にねぇちゃん可愛いんやから、気ぃつけないと!」
「は、はいっ」
訳がわからぬまま、彼の気迫に圧倒されてとにかく返事をする。すると少しの沈黙の後、それまで目元をキリッと吊り上げていた藍さんが、突然おかしそうに笑い出した。
「あはっ、びっくりしたー?」
「へ?」
「も〜、ねぇちゃんマジで可愛いから心臓に悪いわー。オレも危なかったんやぞ! 一瞬マジでどっか連れてってやろーかと思った!」
「!」
「あ、シャワー浴びたらハグしに行くから、覚悟しといて!」
矢継ぎ早にそう告げられて、返事をする間もなく話を進められてしまう。最後の台詞なんて、彼のきらきらした無邪気な笑顔を見せられては、頷く以外の選択肢はないように思えた。
「そんじゃ、さっさと店行くぞー!」
「はい……って、ちょっと藍さん、ちゃんと傘に入ってください!」
「あっはは! ねぇちゃん早くー!」
傘の外は相変わらずの小雨。スターレスまではあと数分。混乱や不安は完全には消えないけれど、それよりも楽しみな気持ちが胸を満たしていく。
彼がこれ以上濡れないように、風邪を引かないようにと願いながら、私は自分を待ってくれている明るい笑顔に駆け寄るのだった。
わずかに足元を濡らす程度の小雨の中、いつものようにスターレスへ向かって歩を進める。こんな日は幾分か街の喧騒もおさまり、路地裏の水が跳ねる小さな音までもが穏やかに耳に届きそう――なんて、思っていたのだけど。
「ここはお前らが来ていいところじゃねーっての!!」
「!?」
ドサッ、ガラガラガラ……
決して穏やかとは言えない音が建物の間から聞こえてくる。そして、違っていてほしいけれど、今の声にはとても聞き覚えがあった。
「藍さん?」
「あァ? ……あっ、ねぇちゃん!」
「何をして……、!」
つい目を向けてしまった先――彼の足元には、二人の男性が苦しそうに蹲っている。
「あの、大丈夫なんですか?」
「あぁ、これ? 大丈夫や、いま終わったとこやし」
にこにこと人懐っこい笑顔でこちらに歩いてくる彼の頬には、複数の赤い雫。しっとりと濡れた青い髪から伝い流れた雨粒が、その赤をゆっくりと滲ませて彼の襟元へ落ちていく。
「ねぇちゃん? ぼーっとしてどうした?」
おそらく「大丈夫」の意味が違う。そんなことを考えながらその赤から目が離せないでいると、そのまま近づいてきた丸くて大きな瞳に顔を覗き込まれる。
「ねぇちゃんこそ大丈夫か?」
「あ、私は……。それより、ほっぺに血が……」
「マジ? きったなー」
からからと笑いながら、藍さんは自分の手の甲で頬を拭う。見る限り、彼自身は怪我をしていないらしい。
「これからスターレスやろ? 一緒に行こー!」
「はい、でも、あの」
ちらりと、先ほど彼がいた場所に目をやる。
「アイツらはほっといていいから。ねぇちゃんはオレがちゃーんと守るからな!」
いつの間にか傘の中に入ってきていた彼は、心配するなと言わんばかりのきらきらした笑みを私に向ける。髪にかかっている雨粒が輝き、より一層その笑顔が煌めいて見えた。
「あー、店着いたらシャワー浴びるか〜。ねぇちゃんも一緒にどう?」
「え? だ、大丈夫です……!」
「あはっ、ジョーダンやって」
何事もなかったかのように歩き出す彼にとっては、あんなのは日常茶飯事なのかもしれない。でも、私は怖い。どうして当たり前のように喧嘩が起きているのか。どうしてみんな、私が狙われているとか、私を守ると言うのか。どうして藍さんは、血を浴びてまでそんなに――。
「ん? ねぇちゃんどーした?」
「すみません……。お店に着くまででいいので」
得体の知れない恐怖がすぐ近くまで迫ってきているようで、思わず彼の上着を握りしめる。俯いた状態では数歩先の地面しか見えないけれど、こうしていれば、少しだけ安心できる気がする。
「……危ない。危ないって、ねぇちゃん」
「え?」
藍さんの足が止まって、つられて私も立ち止まる。
「男相手にそんなことしたら、すぐそこらへんのホテルに連れ込まれるぞ!?」
「えっ」
「特にねぇちゃん可愛いんやから、気ぃつけないと!」
「は、はいっ」
訳がわからぬまま、彼の気迫に圧倒されてとにかく返事をする。すると少しの沈黙の後、それまで目元をキリッと吊り上げていた藍さんが、突然おかしそうに笑い出した。
「あはっ、びっくりしたー?」
「へ?」
「も〜、ねぇちゃんマジで可愛いから心臓に悪いわー。オレも危なかったんやぞ! 一瞬マジでどっか連れてってやろーかと思った!」
「!」
「あ、シャワー浴びたらハグしに行くから、覚悟しといて!」
矢継ぎ早にそう告げられて、返事をする間もなく話を進められてしまう。最後の台詞なんて、彼のきらきらした無邪気な笑顔を見せられては、頷く以外の選択肢はないように思えた。
「そんじゃ、さっさと店行くぞー!」
「はい……って、ちょっと藍さん、ちゃんと傘に入ってください!」
「あっはは! ねぇちゃん早くー!」
傘の外は相変わらずの小雨。スターレスまではあと数分。混乱や不安は完全には消えないけれど、それよりも楽しみな気持ちが胸を満たしていく。
彼がこれ以上濡れないように、風邪を引かないようにと願いながら、私は自分を待ってくれている明るい笑顔に駆け寄るのだった。
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