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猫様は体温を共有する
「今日は猫ちゃんいるかな〜」
ここへ来る途中で見つけた、良い感じにもさもさした猫じゃらし。それを片手に、私は逸る気持ちのままお店の裏口へと向かう。
野良ということもあり、なかなか懐いてくれない彼ら。今日こそは振り向かせてみせる! と意気込んだところで、そこに先客がいるのが見えた。
「ヒースさん、こんにちは!」
「あぁ、アンタか」
「休憩中ですか?」
「まぁ、そんなとこ。ちょっと考え事してた」
声をかける前に見た、建物を背にしゃがみ込み、ぼんやりと上を向いている姿。彼の言う通り、まさに考え事の真っ最中だったのだろう。なんだか申し訳ないことをしてしまった。
「すみません、お邪魔しちゃいましたね」
「別に。アンタなら構わない。ていうか、なんでこっちに来たの? ……それは?」
彼の視線が私の手元に注がれ、私は持っていた猫じゃらしを軽く左右に振って見せる。
「これはですね、えっと……この辺り、猫ちゃんが多いじゃないですか。それで」
「猫と遊ぼうと思ったの?」
「はい!」
「ふっ……元気な返事」
言い終わる前に理解してくれたヒースさんは、私と猫じゃらしを交互に見て、可笑しそうに口元を緩ませた。
「あ、あそこ」
「えっ……あ、猫ちゃん……!」
彼が指差した先を見ると、ビール瓶のかごが並んだ隙間から、一匹の猫ちゃんが可愛らしい顔を出してこちらを窺っている。私はヒースさんの隣にしゃがみ込み、さっそく猫じゃらしをブンブンと振ってみた。
「それ、振りすぎじゃない?」
「え、そうですか? ……はっ、こっちに来る!」
立派な猫じゃらしの効果か、猫ちゃんはそろそろとこちらに近づいてくる。
やった! 今日こそはいっぱい遊ぶんだ!
私は心を弾ませながらひたすら猫じゃらしを振った。――しかし、運命は残酷だった。
警戒心をあまり持たずに近づいてきてくれた猫ちゃんは、一生懸命猫じゃらしを振る私には見向きもせず、隣にいるヒースさんの足元に擦り寄っていく。
「な、なんでぇ〜……」
「アンタ、それ下手なんじゃない?」
先程の微笑みとは打って変わって、真顔で発せられる彼の言葉に胸を刺される。そうか、下手なのか、私。
ずん……と項垂れる私をよそに、猫ちゃんは変わらずヒースさんの足に顔を擦りつけている。彼も遠慮がちに手を出し、そのふわふわな毛並みをやさしく撫でている。
「……触れば?」
「いえ……私よりヒースさんのほうが好きみたいですし……」
「そんなこと……。ほら、手」
急に手首を掴まれたかと思ったら、そのままくん、と引っ張られる。指の背がふわりと猫ちゃんの額に当たり、途端に感動で胸が震え上がる。
か、可愛いけど、逃げちゃわないかな……。
私はヒースさんに手首を掴まれたまま、猫ちゃんが手の匂いを嗅いでくれるのを待った。するとすぐにくんくんと鼻を近づけてきて、私をスルーしたときのことが嘘のように、強く手のひらに顔を擦りつけてきた。
「かわいい……!!」
「オレは、猫よりアンタのほうが……」
「へ? 何ですか?」
「……いや」
彼の言葉が気になりつつ、それでも私は可愛い可愛いと猫ちゃんを撫で続ける。するとその動きを阻止するように、するりと冷たい手が私の指を絡め取った。これは、俗に言う「恋人繋ぎ」では?
「あの、これは一体……?」
「アンタの手、あったかいから。少しだけこうさせて」
気づけば猫ちゃんは走り去っていて、私と彼だけがその場に残る。ドクドクと波打つように身体が熱いのは、先程の高揚感からだろうか。
「……」
「……」
熱い私と冷たい彼。しばらく無言が続いたけれど、触れた場所から体温が混ざり合うのに、そう時間はかからなかった。
「今日は猫ちゃんいるかな〜」
ここへ来る途中で見つけた、良い感じにもさもさした猫じゃらし。それを片手に、私は逸る気持ちのままお店の裏口へと向かう。
野良ということもあり、なかなか懐いてくれない彼ら。今日こそは振り向かせてみせる! と意気込んだところで、そこに先客がいるのが見えた。
「ヒースさん、こんにちは!」
「あぁ、アンタか」
「休憩中ですか?」
「まぁ、そんなとこ。ちょっと考え事してた」
声をかける前に見た、建物を背にしゃがみ込み、ぼんやりと上を向いている姿。彼の言う通り、まさに考え事の真っ最中だったのだろう。なんだか申し訳ないことをしてしまった。
「すみません、お邪魔しちゃいましたね」
「別に。アンタなら構わない。ていうか、なんでこっちに来たの? ……それは?」
彼の視線が私の手元に注がれ、私は持っていた猫じゃらしを軽く左右に振って見せる。
「これはですね、えっと……この辺り、猫ちゃんが多いじゃないですか。それで」
「猫と遊ぼうと思ったの?」
「はい!」
「ふっ……元気な返事」
言い終わる前に理解してくれたヒースさんは、私と猫じゃらしを交互に見て、可笑しそうに口元を緩ませた。
「あ、あそこ」
「えっ……あ、猫ちゃん……!」
彼が指差した先を見ると、ビール瓶のかごが並んだ隙間から、一匹の猫ちゃんが可愛らしい顔を出してこちらを窺っている。私はヒースさんの隣にしゃがみ込み、さっそく猫じゃらしをブンブンと振ってみた。
「それ、振りすぎじゃない?」
「え、そうですか? ……はっ、こっちに来る!」
立派な猫じゃらしの効果か、猫ちゃんはそろそろとこちらに近づいてくる。
やった! 今日こそはいっぱい遊ぶんだ!
私は心を弾ませながらひたすら猫じゃらしを振った。――しかし、運命は残酷だった。
警戒心をあまり持たずに近づいてきてくれた猫ちゃんは、一生懸命猫じゃらしを振る私には見向きもせず、隣にいるヒースさんの足元に擦り寄っていく。
「な、なんでぇ〜……」
「アンタ、それ下手なんじゃない?」
先程の微笑みとは打って変わって、真顔で発せられる彼の言葉に胸を刺される。そうか、下手なのか、私。
ずん……と項垂れる私をよそに、猫ちゃんは変わらずヒースさんの足に顔を擦りつけている。彼も遠慮がちに手を出し、そのふわふわな毛並みをやさしく撫でている。
「……触れば?」
「いえ……私よりヒースさんのほうが好きみたいですし……」
「そんなこと……。ほら、手」
急に手首を掴まれたかと思ったら、そのままくん、と引っ張られる。指の背がふわりと猫ちゃんの額に当たり、途端に感動で胸が震え上がる。
か、可愛いけど、逃げちゃわないかな……。
私はヒースさんに手首を掴まれたまま、猫ちゃんが手の匂いを嗅いでくれるのを待った。するとすぐにくんくんと鼻を近づけてきて、私をスルーしたときのことが嘘のように、強く手のひらに顔を擦りつけてきた。
「かわいい……!!」
「オレは、猫よりアンタのほうが……」
「へ? 何ですか?」
「……いや」
彼の言葉が気になりつつ、それでも私は可愛い可愛いと猫ちゃんを撫で続ける。するとその動きを阻止するように、するりと冷たい手が私の指を絡め取った。これは、俗に言う「恋人繋ぎ」では?
「あの、これは一体……?」
「アンタの手、あったかいから。少しだけこうさせて」
気づけば猫ちゃんは走り去っていて、私と彼だけがその場に残る。ドクドクと波打つように身体が熱いのは、先程の高揚感からだろうか。
「……」
「……」
熱い私と冷たい彼。しばらく無言が続いたけれど、触れた場所から体温が混ざり合うのに、そう時間はかからなかった。
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