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黄色い世界の朝食はいかが?
今日は珍しく自然と目が覚めた。数分後に鳴る予定だったアラームを解除して、上半身を起こす。そのままぐーっと伸びをすれば、圧をかけられた背骨がコキッと小さな音を立てた。
いつもなら、この後すぐにカーテンを開け、部屋の中にめいっぱい日光を取り入れる。けれど、今日はまだやめておく。今も私の横でミズキさんが眠っているからだ。
「……」
彼を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、朝のルーティンを始める。洗顔、歯磨き、髪の手入れ。それらが終わってからコーヒーを淹れ、自分用のトーストとヨーグルトを用意する。ここまでで約二十分。ミズキさんが起きる気配はない。
トーストとヨーグルトを食べ終え、いまだにすやすやと寝息を立てている彼のもとへ行ってみる。私から奪い取った枕をぎゅっと抱きしめ、半開きの口からだらしなく涎を垂らしているその姿。大きな子どもとは、こういうのを言うのだろうか。
「ミズキさん、そろそろ起きてください。もう朝ですよ」
軽く肩を叩きながら声をかけると、喉の奥から「ん〜…」と小さな唸り声が聞こえた。もぞもぞと手足を動かし、シーツの皺を増やしたかと思えば、ようやくうっすらと瞼を開ける。
「おはようございます。ミズキさん、わかりますか?」
「……あ?」
「ここ、私の家です」
「……わたしの、いえ……?」
「はい、私の。具合はどうですか? 頭とか痛くないですか?」
「あたま……?」と掠れた声で呟く彼は、まだ覚醒できていないらしい。これ以上無理に起こすのもどうかと思うし、一体どうしたら……。
「!? ……おまえんち!?」
「びっ、くりしたぁ……。急に大声出さないでください」
バッ!と飛び起きたかと思えば、ミズキさんは目をぱちくりさせながら涎がついたままの口をぽかんと開けている。まさに放心状態だ。
「……なんでオレがお前んちにいんだ?」
「やっぱり覚えてないんですね……。昨日の夜、自分でここに来たんですよ。だいぶ酔ってたみたいなので、記憶は飛んでるんじゃないかとは思ってましたが……」
昨夜遅く、突然インターホンが鳴った。こんな時間に誰だろうと警戒しながら確認すると、「オレだ〜、あけろ〜」なんてへらへら笑いながらミズキさんが立っていて。近所迷惑になるからと急いで部屋に上げたら、少しフラつきながらもそのままベッドに直行。すぐに寝入ってしまったから、来た理由すらも聞けず、上着を脱がすのも一苦労だった。
彼がうちに訪れたことは過去に何度かあったけれど、酔った状態でよくここまで来られたなとむしろ感心してしまった。電車を間違えたりはしなかったのかと、実際にたどり着けているのに、そんな心配までして。
「びっくりしましたよ。あんなになるまで誰と飲んでたんですか?」
「あー……Bのヤツら」
「Bのみなさんって、藍さんはお酒飲んでないですよね?」
「飲んでねーよ。……多分な」
何それ心配すぎる。今度会ったら確かめておかなくちゃ。
「つーかよぉ……」
「はい?」
「オレ、お前に何か」
「大丈夫です。何もしてないです」
「……そっか」
ベッドの上であぐらをかいたままのミズキさんは、ぽりぽりとお腹を掻きながらぼんやりとこちらに視線を寄こす。
「何ですか?」
「……腹減った」
「だと思いました」
真顔で告げられた素直な言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「ベーコンエッグならすぐ作れますよ。あと、トーストでよければ」
「食う」
「コーヒーは飲みますか?」
「コーヒーなぁ……コーラとかねーの?」
「コーラはちょっと……」
「じゃあ水でいい」
「わかりました」
一通り聞き終え、準備をするためその場から立ち上がる。続いてミズキさんもベッドから降りたため、私は待ってましたと言わんばかりに勢いよくカーテンを開けた。
「げっ、まぶしい……」
「気持ちいいですよ? はい、とりあえず顔洗ってきてください。ご飯用意しておくので」
「おう、サンキュ」
彼が洗面所に向かったのを確認して、私は食パンを焼き始める。熱したフライパンにベーコンと卵。お客様用のコップに水を注ぎ、自分のマグカップには本日二杯目のコーヒーを。
「なぁー、タオルこれ使っていいのかー?」
「すぐ横にあるやつ使ってもらって大丈夫です」
「んー」
彼とこんな会話をするなんて、一体誰が想像できただろう。しかも、共に朝を迎えることになろうとは。本当、人生何があるかわからない。
ローテーブルに食事を並べ、コーヒーを飲みながらミズキさんを待つ。そういえば、今日の予定を聞いていなかった。時間とか、いろいろ大丈夫だろうか。
やがてすっきりした顔で戻ってきた彼に、「そっちにどうぞ」とテーブルを挟んだ向かい側に座るよう促す。彼は一瞬だけ立ち止まり、そのあと指定された場所に無言で腰を下ろした。クリアになったその視線は、私が用意した朝食に注がれている。
「……少なくね?」
「残りがこれしかなかったんです。足りないならあとで牛丼屋でも行ってください」
なんとなく予想していたことをずばり指摘され、けれど急遽用意したこちら側に非はないだろうと開き直る。ミズキさんは「まぁ、そうだな」と納得したらしく、ようやく食事に手をつけ始めた。
「ご飯出しておいてあれですけど、今日はお店に行かなくていいんですか?」
「ん、午後から行く。シフトはねーけど、んぐ……練習あっから」
「そうなんですね。じゃあそれまでゆっくりしていきますか?」
特に深い意味はなく、どうせ暇ならという軽い気持ちで投げかけた。その問いに、それまでもぐもぐと咀嚼していた彼の動きがピタリと止まる。
「……まだいていいのかよ」
「え……まぁ、他に用事があるなら全然行ってもらっても大丈夫ですけど」
「いや、ねぇ。なんにもねぇ。まだいる」
「そうですか。それならどうぞ好きなだけ」
マグカップに残っていたわずかなコーヒーを飲み干し、目の前の彼をしばし見つめる。その髪には少し変な方向に寝癖がついていて、私はそれを愛おしむようにそっと指先で撫でてみた。
「ばっ、いま食ってんだろーが! やめろ!」 「ふふ、すみません」
くすくすと笑い声をもらす私と、むすっとしながらも頬をピンクに染める彼。対照的な私たちの横顔を、朝のきらきらとした光がいっそう明るく照らし出していた。
今日は珍しく自然と目が覚めた。数分後に鳴る予定だったアラームを解除して、上半身を起こす。そのままぐーっと伸びをすれば、圧をかけられた背骨がコキッと小さな音を立てた。
いつもなら、この後すぐにカーテンを開け、部屋の中にめいっぱい日光を取り入れる。けれど、今日はまだやめておく。今も私の横でミズキさんが眠っているからだ。
「……」
彼を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、朝のルーティンを始める。洗顔、歯磨き、髪の手入れ。それらが終わってからコーヒーを淹れ、自分用のトーストとヨーグルトを用意する。ここまでで約二十分。ミズキさんが起きる気配はない。
トーストとヨーグルトを食べ終え、いまだにすやすやと寝息を立てている彼のもとへ行ってみる。私から奪い取った枕をぎゅっと抱きしめ、半開きの口からだらしなく涎を垂らしているその姿。大きな子どもとは、こういうのを言うのだろうか。
「ミズキさん、そろそろ起きてください。もう朝ですよ」
軽く肩を叩きながら声をかけると、喉の奥から「ん〜…」と小さな唸り声が聞こえた。もぞもぞと手足を動かし、シーツの皺を増やしたかと思えば、ようやくうっすらと瞼を開ける。
「おはようございます。ミズキさん、わかりますか?」
「……あ?」
「ここ、私の家です」
「……わたしの、いえ……?」
「はい、私の。具合はどうですか? 頭とか痛くないですか?」
「あたま……?」と掠れた声で呟く彼は、まだ覚醒できていないらしい。これ以上無理に起こすのもどうかと思うし、一体どうしたら……。
「!? ……おまえんち!?」
「びっ、くりしたぁ……。急に大声出さないでください」
バッ!と飛び起きたかと思えば、ミズキさんは目をぱちくりさせながら涎がついたままの口をぽかんと開けている。まさに放心状態だ。
「……なんでオレがお前んちにいんだ?」
「やっぱり覚えてないんですね……。昨日の夜、自分でここに来たんですよ。だいぶ酔ってたみたいなので、記憶は飛んでるんじゃないかとは思ってましたが……」
昨夜遅く、突然インターホンが鳴った。こんな時間に誰だろうと警戒しながら確認すると、「オレだ〜、あけろ〜」なんてへらへら笑いながらミズキさんが立っていて。近所迷惑になるからと急いで部屋に上げたら、少しフラつきながらもそのままベッドに直行。すぐに寝入ってしまったから、来た理由すらも聞けず、上着を脱がすのも一苦労だった。
彼がうちに訪れたことは過去に何度かあったけれど、酔った状態でよくここまで来られたなとむしろ感心してしまった。電車を間違えたりはしなかったのかと、実際にたどり着けているのに、そんな心配までして。
「びっくりしましたよ。あんなになるまで誰と飲んでたんですか?」
「あー……Bのヤツら」
「Bのみなさんって、藍さんはお酒飲んでないですよね?」
「飲んでねーよ。……多分な」
何それ心配すぎる。今度会ったら確かめておかなくちゃ。
「つーかよぉ……」
「はい?」
「オレ、お前に何か」
「大丈夫です。何もしてないです」
「……そっか」
ベッドの上であぐらをかいたままのミズキさんは、ぽりぽりとお腹を掻きながらぼんやりとこちらに視線を寄こす。
「何ですか?」
「……腹減った」
「だと思いました」
真顔で告げられた素直な言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「ベーコンエッグならすぐ作れますよ。あと、トーストでよければ」
「食う」
「コーヒーは飲みますか?」
「コーヒーなぁ……コーラとかねーの?」
「コーラはちょっと……」
「じゃあ水でいい」
「わかりました」
一通り聞き終え、準備をするためその場から立ち上がる。続いてミズキさんもベッドから降りたため、私は待ってましたと言わんばかりに勢いよくカーテンを開けた。
「げっ、まぶしい……」
「気持ちいいですよ? はい、とりあえず顔洗ってきてください。ご飯用意しておくので」
「おう、サンキュ」
彼が洗面所に向かったのを確認して、私は食パンを焼き始める。熱したフライパンにベーコンと卵。お客様用のコップに水を注ぎ、自分のマグカップには本日二杯目のコーヒーを。
「なぁー、タオルこれ使っていいのかー?」
「すぐ横にあるやつ使ってもらって大丈夫です」
「んー」
彼とこんな会話をするなんて、一体誰が想像できただろう。しかも、共に朝を迎えることになろうとは。本当、人生何があるかわからない。
ローテーブルに食事を並べ、コーヒーを飲みながらミズキさんを待つ。そういえば、今日の予定を聞いていなかった。時間とか、いろいろ大丈夫だろうか。
やがてすっきりした顔で戻ってきた彼に、「そっちにどうぞ」とテーブルを挟んだ向かい側に座るよう促す。彼は一瞬だけ立ち止まり、そのあと指定された場所に無言で腰を下ろした。クリアになったその視線は、私が用意した朝食に注がれている。
「……少なくね?」
「残りがこれしかなかったんです。足りないならあとで牛丼屋でも行ってください」
なんとなく予想していたことをずばり指摘され、けれど急遽用意したこちら側に非はないだろうと開き直る。ミズキさんは「まぁ、そうだな」と納得したらしく、ようやく食事に手をつけ始めた。
「ご飯出しておいてあれですけど、今日はお店に行かなくていいんですか?」
「ん、午後から行く。シフトはねーけど、んぐ……練習あっから」
「そうなんですね。じゃあそれまでゆっくりしていきますか?」
特に深い意味はなく、どうせ暇ならという軽い気持ちで投げかけた。その問いに、それまでもぐもぐと咀嚼していた彼の動きがピタリと止まる。
「……まだいていいのかよ」
「え……まぁ、他に用事があるなら全然行ってもらっても大丈夫ですけど」
「いや、ねぇ。なんにもねぇ。まだいる」
「そうですか。それならどうぞ好きなだけ」
マグカップに残っていたわずかなコーヒーを飲み干し、目の前の彼をしばし見つめる。その髪には少し変な方向に寝癖がついていて、私はそれを愛おしむようにそっと指先で撫でてみた。
「ばっ、いま食ってんだろーが! やめろ!」 「ふふ、すみません」
くすくすと笑い声をもらす私と、むすっとしながらも頬をピンクに染める彼。対照的な私たちの横顔を、朝のきらきらとした光がいっそう明るく照らし出していた。
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