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逢魔が時に潜む鴉
「お姉さん、ちょっとお時間いいですか?」
スターレスへ行く途中、スーツを着た派手な茶髪のお兄さんに突然声を掛けられた。おそらくホストか何かのキャッチだろう。
目の前に立たれてつい足を止めてしまったのがいけなかった。私はこういうのを無視して立ち去るのがあまり上手くないのだ。
「ねぇ、少しだけならいいっしょ? 絶対楽しいからさ」
「いえ、ちょっと用事が……」
どうしてよりにもよって私なのか。他に綺麗でお金も持っていそうなお姉さんなんて、周りにたくさん歩いているのに。
ああ、そうか。私は特に綺麗でも可愛くもなく、声を掛けたら簡単についてきそうだと思ったから。高嶺の花にはむしろ声掛けられないもんね。うん。自分で言ってて虚しいけど。
「ね、行こうよ」
痺れを切らしたのか、お兄さんはわざとらしく笑みを濃くして私の腕を掴む。これはさすがにやばい。そう直感して足を一歩引いたとき、トン、と背中に何かがぶつかった。
「お前はこの女の闇を全て受け止められるというのか。それとも、共に闇に呑まれるか」
「は? 何だよおま、え……」
「シンさん……!」
声のしたほうを見上げれば、背の高い彼がホスト君を片目で見下ろしている。静かでありながらも鋭いその眼光は、まるで狙いを定めて攻撃の時を窺っている鴉のそれだ。
「や、何でもないっす。それじゃ!」
パッと私の腕を放して、光の速さで姿を消したホスト君。さっきまで執拗にまとわりついていたのが嘘みたいだ。
「……行くぞ」
肩に手が置かれたのを合図に、並んで夕暮れの繁華街を歩き出す。
それにしてもさすがシンさん。迫力がある上に威圧感も半端ない。腕の力も強くて……ん? そういえば、肩を抱かれたまま歩いてるな?
「あの、シンさん?」
「何だ」
「もう大丈夫ですよ……?」
道行く人からチラチラと見られていることに羞恥心を煽られ、下からそっと声を掛けてみる。けれども身体が離されることはなく、状況にも変化はない。
「お前は再び悪魔の使いに誘惑されることを望むか」
「悪魔の使い……?」
「言っておくが、あれはホストなどではない。お前にしたことも全て違法行為だ」
「え、そうなんですか?」
確かに腕を掴まれたときはすごく焦ったけれど、あれら全てが違法かどうかなんて考える余裕すらなかった。でも、冷静になった今なら、どれも迷惑行為に違いないとすぐに判断がつく。
「地獄は何処にでも存在する。今の地獄より他にその身を堕としたいと言うならば、話は別だがな」
「えっと……スターレスじゃない所に行きたければってことですか……?」
以前にも聞いたような台詞に首を捻りつつ、なんとなく思ったことを口に出してみる。するとシンさんはフッと短く笑って、私の肩を抱く力をわずかに強くした。
「あ、あの……」
「案ずるな。このまま星の無い漆黒への導きに身を任せるがいい」
つまり、腕を離す気はないということだろうか。
日が暮れ始めた都会のあちこちには、危険な場所や人間の存在が増すのは理解している。だからこそ、シンさんはこうやって私を守ってくれているのだろう。
一緒に歩いてくれるだけでも効果はありそうなものだけど、彼の温もりに触れていることで、より大きな安心感に包まれる。今は何も言わず、彼の優しさに甘えてみるのもいいかもしれない。
「お姉さん、ちょっとお時間いいですか?」
スターレスへ行く途中、スーツを着た派手な茶髪のお兄さんに突然声を掛けられた。おそらくホストか何かのキャッチだろう。
目の前に立たれてつい足を止めてしまったのがいけなかった。私はこういうのを無視して立ち去るのがあまり上手くないのだ。
「ねぇ、少しだけならいいっしょ? 絶対楽しいからさ」
「いえ、ちょっと用事が……」
どうしてよりにもよって私なのか。他に綺麗でお金も持っていそうなお姉さんなんて、周りにたくさん歩いているのに。
ああ、そうか。私は特に綺麗でも可愛くもなく、声を掛けたら簡単についてきそうだと思ったから。高嶺の花にはむしろ声掛けられないもんね。うん。自分で言ってて虚しいけど。
「ね、行こうよ」
痺れを切らしたのか、お兄さんはわざとらしく笑みを濃くして私の腕を掴む。これはさすがにやばい。そう直感して足を一歩引いたとき、トン、と背中に何かがぶつかった。
「お前はこの女の闇を全て受け止められるというのか。それとも、共に闇に呑まれるか」
「は? 何だよおま、え……」
「シンさん……!」
声のしたほうを見上げれば、背の高い彼がホスト君を片目で見下ろしている。静かでありながらも鋭いその眼光は、まるで狙いを定めて攻撃の時を窺っている鴉のそれだ。
「や、何でもないっす。それじゃ!」
パッと私の腕を放して、光の速さで姿を消したホスト君。さっきまで執拗にまとわりついていたのが嘘みたいだ。
「……行くぞ」
肩に手が置かれたのを合図に、並んで夕暮れの繁華街を歩き出す。
それにしてもさすがシンさん。迫力がある上に威圧感も半端ない。腕の力も強くて……ん? そういえば、肩を抱かれたまま歩いてるな?
「あの、シンさん?」
「何だ」
「もう大丈夫ですよ……?」
道行く人からチラチラと見られていることに羞恥心を煽られ、下からそっと声を掛けてみる。けれども身体が離されることはなく、状況にも変化はない。
「お前は再び悪魔の使いに誘惑されることを望むか」
「悪魔の使い……?」
「言っておくが、あれはホストなどではない。お前にしたことも全て違法行為だ」
「え、そうなんですか?」
確かに腕を掴まれたときはすごく焦ったけれど、あれら全てが違法かどうかなんて考える余裕すらなかった。でも、冷静になった今なら、どれも迷惑行為に違いないとすぐに判断がつく。
「地獄は何処にでも存在する。今の地獄より他にその身を堕としたいと言うならば、話は別だがな」
「えっと……スターレスじゃない所に行きたければってことですか……?」
以前にも聞いたような台詞に首を捻りつつ、なんとなく思ったことを口に出してみる。するとシンさんはフッと短く笑って、私の肩を抱く力をわずかに強くした。
「あ、あの……」
「案ずるな。このまま星の無い漆黒への導きに身を任せるがいい」
つまり、腕を離す気はないということだろうか。
日が暮れ始めた都会のあちこちには、危険な場所や人間の存在が増すのは理解している。だからこそ、シンさんはこうやって私を守ってくれているのだろう。
一緒に歩いてくれるだけでも効果はありそうなものだけど、彼の温もりに触れていることで、より大きな安心感に包まれる。今は何も言わず、彼の優しさに甘えてみるのもいいかもしれない。
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