jujutsu
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夜も明けきらぬ頃に醒めた意識が何よりも先に確認したのは、時計の針の角度ではなく、首がきちんと付いているか如何かであった。
気忙しく首筋を撫で摩った手の平はじっとりと冷や汗で濡れている。寝間着で拭うと、男は短く悪態を吐いた。その声は酷くしゃがれている。夢で裂かれた喉頸から身体中の水分全てが出尽くしでもしたかの様であった。張り付く喉が不愉快で、不愉快で――不愉快な余りに目眩すらする。眉間を押さえて暫く。ささくれた精神を落ち着かせる為にも、男は水でも飲もうとベッドから抜け出そうと身を起こして、ベッドの縁へと腰掛ける格好となった。その背中を呼び止める、声。
「……さとるさん……?」
男の動きを縛ったとろりとしたそれは、共寝をしていた女のものであった。半ば夢見心地なのであろう。声帯の震えは微かなもので、今しも睡魔に手を引かれてゆきそうな調子である。
「未だ寝てて良いよ。」
男は女に背を向けた儘、簡素に答えた。彼女の身柄を睡魔に委ねようと考えた為であったが、悪夢に絡め取られた焦燥がそうさせたのか、普段からは考えられぬ程に、男の態度は何もかもが素気無かった。
「悟さん、何か――」
女の勘とは寝惚けていても働くものなのか。尋ねようとした華脣が、しかし、きゅっと引き結ばれた。
その意図する所を汲んだ男が言う。取り繕う余裕を失っている事を自覚したからには、何時も通りのふわふわとした己を思い出しながら、「大丈夫。なーんもないって。」と。言おうとして、女と同じく口を噤んだ。身を起こして隣に腰掛けた女の小さな手が、拙く指先を握った為である。
彼女は冷え性であった。ほっそりとした手を取ると、何時も厳冬に降りた霜に触れているかの様に冷え冷えとしたものだが、今は丸でそうと感じない。その段になって漸く、女と同じだけ自分の血の気が引いているのだと、男は気が付いた。
凍える体温と体温とが溶け合う。嘗て、頸にめり込んだ刃の冴え冴えとした冷ややかさとも異なる。噴き出た血液の熱さからも懸け離れている。熱を生むようで生まない零度の触れ合いが、今の男にとっては心地好かった。
もう一方の手で、ふた度、首筋を摩る。男が目蓋を伏せてそうしている間、女は何も言わなかった。何を言う事も無く、じっと寄り添っていた。
「――大丈夫、だけど。」
幾らか経って男が、ぽつん、と溢したそれは、矢張り血が通っていないような無味乾燥としたものではあった。だが。ややあって指を絡めて来た仕草こそはよく知るものであった為に、女の手指も何時ものようにして応じた。
魘夢に縊られていた喉から、詰まっていた吐息が、細く解かれる。
「もうちょっとだけこの儘……手、握ってて。」
未だ夜闇深い部屋で、女は強く首肯した。揺れた空気に混ざるシャンプーの甘い匂い。彼女の、香り。感じ取ると、男の心臓は少しだけ息を吹き返した。
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