マイクロノベル

記事一覧

  • 9:49pm · 7 Jun 2019

    20190713(土)18:16
    薄赤い汚れが視界にしみついている。血ではない。充血でもない。では何か。 実は、蟹の甲羅なのではないかと思っている。調理された蟹の甲羅が粉々になったもの。砕かれ磨り潰されしみのように視界に取り憑き汚すもの。蟹。 ただ一つ気になるのは、最近蟹を食べた覚えがないということだ。
  • 12:08am · 30 Jun 2019

    20190630(日)02:50
    蟹がいる。チョコレートの側、PCの上で赤いハサミをうごうごとさせている。つつこうと思ったが、挟まれるといやなので机の下でぐーぱーをする。心配事と連動するかのようにハサミは動いていて、こいつずっとここにいるのかな、と心配だか期待だかわからぬことを考えてチョコレートを食べた。
  • 12:03am · 30 Jun 2019

    20190630(日)02:50
    冬が去った。長い梅雨が、枯れた落ち葉を、白く煙る息を、人々の心から忘れさせる。私の心の中では休暇中の冬が大量の雪を降らせ、空を鉛色に変えている。こんなところでバカンスをしなくてもいいのに。梅雨の機嫌を仰ぐ暇もなく休日を謳歌する冬に、ため息を吐いた。
  • 6:02pm · 26 Jun 2019

    20190630(日)02:49
    雨。胸が詰まっている。どうにもこうにも新たな感情が通らない。好奇心も嬉しさも興奮もお腹で詰まって胃で消える。おしまいだ。こんなことはすぐにでもおしまいにしたい。ずっと詰まっている。身動きができない。雨を切り裂く鳥の声で僕の全てはばらばらになり、奈落に落ちていった。
  • 7:22pm · 24 Jun 2019

    20190630(日)02:49
    わからぬものには近寄らない。それが俺のモットーだ。俺はいつもそうやって後ずさりつつ生きてきた。そろそろ壁にたどり着く。夕日が射した部屋の中、俺はそっと振り返り、壁に手をつき目を閉じた。皆目何もわからぬが、俺が己すらわからなくなったこと、そのことだけはわかっていた。
  • 7:10pm · 24 Jun 2019

    20190630(日)02:48
    崖っぷちにいる。何が、と言われると答えにくいけれど、いる。いつ落ちてもおかしくない。そんな僕を見た友人は崖っぷちやって、と笑った。崖っぷちなんだよ、と必死に主張する。わかったわかった話聞いたるから今日はお前んち行くわ。す、と息が抜けて、小さな声でうんと言った。
  • 3:54am · 24 Jun 2019

    20190630(日)02:48
    長く眠りすぎた。仲間たちは既に出ていき、広い部屋に一人取り残されている。そもそも、あんな奴等は仲間ではなかった。あいつらは私を知らない、知らないから無視している。壁ばかり見ていた夜。今は一人、静けさが耳を浸食する。どうして。そう呟いてみても、壁に反響するだけだった。
  • 1:40am · 23 Jun 2019

    20190630(日)02:48
    夜が明けるのがいやなの。そう言った君がいなくなってからどれくらい経ったろう。君のいない部屋で布団にくるまって君が嫌がった夜明けを同じように嫌って、やりすごそうと窓を締め切っているのに聞こえる雀の声。もうそこに夜明けがいる。宙に残った君の声を、朝日が刺して消し去った。
  • 1:15am · 23 Jun 2019

    20190630(日)02:48
    *こころのなか が からっぽだ。 *なにかで うめなければ。 僕は空洞に丸めたハンカチを押し込んだ。空洞は埋まらない。 僕は空洞に昨日買ったハチミツを流し込んだ。すぐに吸収されてしまった。 僕は最後に昨日までの鈍色の記憶たちを押し込んだ。 空洞は埋まり、鉛のように重たくなった。
  • 10:32pm · 22 Jun 2019

    20190630(日)02:47
    カラスの鳴き声が耳を侵略してくる。何時だ? 時計は壊れている。随分と長く眠っていたせいで、カラスが鳴くのがいつ頃なのかすら忘れてしまった。覚えていてもろくなことはない、ただ惨めになるだけだ。俺はベッドサイドに放置してあった最後のウォッカを取って呷った。カアカアカア。