マイクロノベル

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  • 5:07am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:21
    蟹とあちこち遊びに行っても海に出掛けたことはない。そのまま還ってしまうかもと思ったからだ。なのにその日の出張は海の見える町で、よせばいいのに私は蟹と砂浜を歩いて、だけど振り返っても蟹はまだ還らない。ねえと声をかけたら、僕の故郷は川なので。微笑む蟹に私はそう、と返した。
  • 5:00am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:20
    人生が退屈、そんな言葉見たくはなかった。こっちはそんな暇もない。退屈かよかったね一生やってろ。そう思いながらぱちぱちやっていると蟹が出て来て休憩しませんかと言った。一緒に缶コーヒーを飲んでいたらあれ書いたの僕なんですと言われて私ははああとよくわからぬ息を吐いた。
  • 4:48am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:20
    鬼と遊ぼうと思ったのにあれから全然出てきてくれない。友達でいてくれないなら話しかけないでくれた方がよかった。違う、あの時確かに私は嬉しかったのだ。海に続く道を何往復しても鬼と出会うことはなく、一人で食べるラーメンは塩辛かった。次の日大学に行くと「よう、元気?」何かいた。
  • 4:38am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:20
    幸せとはそれすなわち食である! そう叫んで僕をラーメン屋に連れてきた君は勝手にサイドメニューをいっぱい頼んで僕の目の前に置いた。どうおいしい? きらきらした目で聞いてくる。聞かれるまでもない、僕の好物ばかり頼んでおいて。うんと言うのも癪だったからさあどうかなと誤魔化した。
  • 4:29am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:19
    幸せって何だろう。そう訊く君に答えることはできなかった。気にする方が馬鹿なんだ、そう思っていても口に出したら嫌われる。何だろうねと繰り返して一緒に考えるふりをした。本当は考えたくもない。届かぬ夢に憧れたって翼を焼かれて落ちるだけ。隔たりを思って私は小さく息を吐いた。
  • 4:18am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:19
    愛している。そう呟いた君はどこまでもからっぽで、底知れぬ瞳も泥のように鈍く澱んでいた。愛って何だろうね、そう問い返してみることもできず、結局は踊らされてるだけ、薬を飲んで誤魔化した。思い出を毛布の奥深くに埋めて忘れてベッドを降りる。さよならと言えればまだよかったのに。
  • 4:09am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:19
    終わった七夕の屍を眺めている。それは透明でどこにもなく、昇りかけの朝日にしらじらと照らされて。誰にも会えず、いなくなってしまった。去年も一昨年も願いは叶わず。それはそうだ、願いなんて一つもかけてはいないのだから。からっぽの七夕の死骸は朝が来てもずっと、横たわっている。
  • 3:49am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:18
    暗い部屋、屍のように物が転がっている。要不用ごちゃまぜでばらばらと転がるそれらが思考を埋めるが、どのみち部屋は暗いし気にすることでもない。けれど朝が近付いてくるにつれ差し込む光は無惨なそれらを照らし出す。朝などどこかに行ってしまえばいい。呟く言葉は意識に溶け、消えた。
  • 3:38am · 9 Jul 2019

    20190713(土)18:18
    明け方が近い。そろそろスズメが鳴き出す頃だろう。正確な時刻を覚えているわけじゃない。時計を見て適当に言っているだけ。責任なんて持てない。あらゆる責任を回避したせいでこんなところに辿り着いてしまった。後悔は無駄、追憶も無駄。無駄なことばかりして、今日もまた、スズメが鳴く。
  • 9:25pm · 1 Jul 2019

    20190713(土)18:18
    それで夜道を歩いてっと、シャン…シャン…とするんですよ、鈴の音が。ぴったり後ろにくっついて。立ち止まってみっとしばらく鳴った後、フッと止むんです。また歩くと鳴り出す、その繰り返し。大通りの手前で立ち止まって信号待ちをしたらシャン…シャン…で止まった。首筋に生温い風が…