マイクロノベル

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  • 【蟹】新しいSNS

    20240628(金)17:04
    「蟹~」
    「なーに?」
    「新しいSNS始めたんだ」
    「それは」
    「『蟹好き』ってやつ」
    「ああ『蟹好き』ね、知ってるよ。この地方のヒトが開発したという」
    「そう、■■くに……じゃなかった、■■地方の」
     蟹が来てから社会体制が刷新され、「国」がなくなり「地方」のみになった、そのことを俺は忘れていた。
     まあ、大したことではないので流す。
    「『蟹好き』は迷っちゃう性格のヒトには厳しいって聞いたけど、うまくやれてる?」
    「まだ一日目だからわからないな。でも、楽しいぞ」
    「いいね。『まるで蟹』とか『ほぼ蟹』とか『完全に蟹』ってスタンプがあるの知ってる?」
    「勿論。俺も蟹のこと好きだからさ、真っ先に検索したよ」
    「僕のこと好き?」
    「えっ今のは言葉のあやというもので」
     俺は両手の人差し指をぴしぴしぴしとくっつける。
    「かーわいい!」
     そう言って、蟹は笑った。
  • 【蟹】眠気と蟹

    20240625(火)19:52
    「どこにも行くとこないんだ。僕をここに泊めてよ」
     突然押しかけて来た存在は、蟹だった。
     まあ蟹程度なら場所も取らないし、ヒトと違って怖くもないし、と承諾する。
    「カンカンカンカンカン! 朝だよ~!」
    「まだ眠い……」
    「ふむ。じゃあ寝ててもいいけど、もしかして夜更ししてるんじゃないの~?」
    「うっ」
    「してるね」
    「シテマス……」
    「今日から早く寝よう」
     頭の上にハサミを寄せて、しゃき、と鳴らす蟹。
    「でも、眠れないんだよ……」
    「そこは蟹パワー」
     しゃき。
    「うおっ眠くなくなった」
    「君の眠気を切った。これを夜につぎはぎすれば、夜きっちり眠くなるのさ」
    「それはすごい」
    「ドヤ!」
  • 【蟹】じめじめ梅雨

    20240623(日)14:59
    「蟹~!」
    「な~に」
    「雨続きで洗濯物が干せないよお」
    「そんなときは!」
     蟹がハサミをちょきんちょきんとする。
    「うお、洗濯物が乾いた!」
     なぜだ!? 明らか合理的じゃないんだが! つっても蟹の存在自体が合理的じゃないからアレか、アレ……
    「そう、湿気という概念を切ったのさ」
    「すごい、何でも切れるのか」
    「こんにゃくも切れるよ」
    「へえ……?」
    「えっへん」
     なぜか胸を張る蟹に、俺は首を傾げる。
    「いっつも切ってないか? こんにゃく。特筆すべきことじゃないよな」
    「まあ、世代ってやつだね」
    「蟹に世代が?」
    「あるよ~。世界に出てきた世代がね。必要事項は蟹クラウドで共有できるとはいえ、好きなネタは蟹によって違うし」
     俺は洗濯物を畳みながら思う、蟹とネタを並べられるとお寿司みたいになるからやめて欲しい。
    「実際に体験したことと、クラウドで頭に入れられていることとは違うんだよ」
    「へえ……」
     やっぱり蟹には謎が多い。
  • 2024/06/10 19:41 宇宙蟹

    20240610(月)19:41
    「こちら蟹~蟹~応答求ム」
    「オーケイ、俺だ。こんな時間まで何してるんだ」
    「宇宙を彷徨ってるんだよ! 困ってて」
    「そりゃ困るだろうな! なんで宇宙なんかに」
    「え? ロマンだから」
    「その価値観だいぶ古くないか?」
    「君は宇宙好きなヒト全員に謝りなさい」
    「えっあっすまない……」
    「ふんふん」
    「で、帰ってくる気はあるのか」
    「あるとも! ワープ!」
    「あっ本当に帰ってきた、しかも俺の部屋に! 一瞬で帰れるならすぐ帰ってこいよ……」
    「君と連絡がつかないと帰れないのさ」
    「なんで……」
    「対だからね」
    「なんで勝手に宇宙に出たんだ」
    「それはね」
     蟹の黒い目が光る。
    「キミ ニ トモダチ ヲ ツクッテ アゲタカッタ カラ ダヨ」
    「うわあああ!」

     飛び起きる。
     俺の隣には蟹がすやぁと寝ていて、宇宙のことを聞いてみても何それ、知らなぁいと返されるだけだった。
  • 4:39pm · 17 Dec 2022

    20221217(土)17:24
    「羊」
    「メー」
     頭が痛い。目の裏側で大量のモノクロの写真がフラッシュしている。
    「羊、」
    「メー」
     俺がどんなでも、どんなに深夜でも、羊は必ずこたえてくれる。責めることも否定することもなく。
    「羊」
    「メー」
     それは安堵だった。
  • 2:41am · 8 Dec 2022 羊

    20221209(金)18:45
    「羊~知ってるか、あくびしながら上体起こすときの映像を逆再生すると寝るときの映像になる」
    「メー」
    「それは肯定なのか否定なのかどっちなんだ?」
    「メー」
    「はあ……やっぱりお前の言うことはわからないよ」
    「メー」
     撫でる。仮面は無機質な感触をしていた。
  • 王街大正羊

    20221209(金)18:44
    「ここがすごい! 羊」
    「メー」
    「ふわふわ・もこもこ・もふもふなど徹底した癒しの触感」
    「メー」
    「虚無にある四つの本体」
    「メー」
    「何も考えなくて良い究極の無が得られるんだぞ」
    「メー」
    「ここがすごい! 俺の羊」
    「メー」
    「羊の傍で爆睡しようぜ」
    「メー」
    「はあ……寝よ」
    「メー」
  • 10:04pm · 5 Dec 2022 羊

    20221209(金)18:43
    「羊ー!」
    「メー」
    「わかるか!? もう22時! 信じられないぜ、今年が過ぎ去ってゆく……」
    「メー」
    「助けてくれ羊……俺はもう耐えられない」
    「メー」
    「全てが足早に駆け去った後、俺はどうすれば良い? 何もなくなった虚無の中で……泣いていればいいのか?」
    「メー」
     羊の虚無の目が、見ている。
    「そうか、だけど羊…お前も虚無だから」
    「メー」
    「お前が傍に残るのか……」
    「メー」
     それは絶望であった、が、希望でもあった。
     どこまで行っても孤独である「ヒト」という種。その傍にいる「何か」。
    妄想なのかもしれない。
     撫でる。
    「メー」
    ふわふわした毛の感触は、しかし、現実だった。
  • 1:28am · 5 Dec 2022 羊

    20221209(金)18:42
    「羊」
    「メー」
    「お前の仮面の下は空洞なのか?」
    「メー」
    「……」
     俺は羊の仮面に手を伸ばす。羊は動かない。
    「この仮面の下を見たら、」
    「メー」
    「俺の空虚も一緒に消えてくれるだろうか」
    「メー」
    「なーんてな。冗談だよ、はは!」
    ぱっと手を上に上げてみせる俺。
    「メー」
    「ああ、悪い悪い。……寝るか」
    「メー」
     夢は見なかった。
  • 11:37pm · 23 Nov 2022 羊

    20221209(金)18:41
    「うわー羊ー助けてー虚無だよー」
    「メー」
    「その虚無を人に言うことさえ許されないんだ……」
    「メー」
    「でも羊、お前には言える」
    「メー」
    「お前は俺を嫌わないし、否定しないし、見下しもしないからな」
    「メー」
    「羊、お前がいてよかったよ。お前は……」
    「メー」
     羊の顔には白い仮面、その目は闇。全ての光を吸収する漆黒の虚無。
     それが俺には心地がよくて、何の意思も感情も読み取ることができない羊の顔が俺は好きだった。
     羊は何も思わない。羊は俺を見下さない。
    「……おやすみ」
    「メー」
    だから冬でもあたたかい。