マイクロノベル
記事一覧
1:00am · 12 Jul 2019
20190713(土)18:22蟹。蟹を愛した。あの蟹はどこにいるのだろう。蟹。蟹に惚れたのか俺は。あの時見た蟹。ぎらつくハサミ、赤い体、四本足に白い腹。蟹、蟹、蟹。美しく格好よくそして──、頭が痛い。蟹を俺はどうしたんだっけ。会社の飲み会、夏らしくない鍋パーティ、メインは蟹。あの蟹は今、今、俺の。12:20am · 10 Jul 2019
20190713(土)18:22「グッド」チャンネル登録・高評価をお願いします、の画面を見ながらサムズアップしてヨーグルトドリンクをすする。今回の動画も素晴らしかったな。さすが推し。さす推し。幅広く手掛けるそのリサーチ力はいったいどこから来てるのか事務所か? グッドボタンをポチって今日も夜が更けてゆく。5:20am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:22「おお蟹よあなたは大きく赤く鋭く強く」「……」「いつもそこで見守ってくださり不安を切り裂くそのハサミ」「……」「蟹よ我が声に応えたまえ」「……」「大きく赤く茹でるとうまいその姿」「……」「蟹よなぜ応えてくださらない」「……僕を美味しそうと思う輩にはね」「蟹よ!」「……」「おお……」5:11am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:21蟹の故郷は遠い。いつか一緒に行きましょうねと言う蟹を机の下に置き私は今日も仕事中。がんばれーがんばれーとハサミを振る蟹。ちょっと黙っててと言ってメールを一本書き終えて、構ってほしかったの? と聞くといやまあそういうわけでも? 私は蟹を抱き上げてコンビニでカニかまを買った。5:07am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:21蟹とあちこち遊びに行っても海に出掛けたことはない。そのまま還ってしまうかもと思ったからだ。なのにその日の出張は海の見える町で、よせばいいのに私は蟹と砂浜を歩いて、だけど振り返っても蟹はまだ還らない。ねえと声をかけたら、僕の故郷は川なので。微笑む蟹に私はそう、と返した。5:00am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:20人生が退屈、そんな言葉見たくはなかった。こっちはそんな暇もない。退屈かよかったね一生やってろ。そう思いながらぱちぱちやっていると蟹が出て来て休憩しませんかと言った。一緒に缶コーヒーを飲んでいたらあれ書いたの僕なんですと言われて私ははああとよくわからぬ息を吐いた。4:48am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:20鬼と遊ぼうと思ったのにあれから全然出てきてくれない。友達でいてくれないなら話しかけないでくれた方がよかった。違う、あの時確かに私は嬉しかったのだ。海に続く道を何往復しても鬼と出会うことはなく、一人で食べるラーメンは塩辛かった。次の日大学に行くと「よう、元気?」何かいた。4:38am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:20幸せとはそれすなわち食である! そう叫んで僕をラーメン屋に連れてきた君は勝手にサイドメニューをいっぱい頼んで僕の目の前に置いた。どうおいしい? きらきらした目で聞いてくる。聞かれるまでもない、僕の好物ばかり頼んでおいて。うんと言うのも癪だったからさあどうかなと誤魔化した。4:29am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:19幸せって何だろう。そう訊く君に答えることはできなかった。気にする方が馬鹿なんだ、そう思っていても口に出したら嫌われる。何だろうねと繰り返して一緒に考えるふりをした。本当は考えたくもない。届かぬ夢に憧れたって翼を焼かれて落ちるだけ。隔たりを思って私は小さく息を吐いた。4:18am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:19愛している。そう呟いた君はどこまでもからっぽで、底知れぬ瞳も泥のように鈍く澱んでいた。愛って何だろうね、そう問い返してみることもできず、結局は踊らされてるだけ、薬を飲んで誤魔化した。思い出を毛布の奥深くに埋めて忘れてベッドを降りる。さよならと言えればまだよかったのに。
