マイクロノベル

記事一覧

  • 8:16pm · 27 Jul 2019

    20190807(水)18:48
     小学一年生か。その頃にはもう蟹と暮らしていたな。蟹といるから人の学校ではなく蟹の学校に通った。友達もいっぱいできたけど、長じるにつれ皆人間を「選び」いなくなっていった。寂しがる僕に僕の蟹は自分がいるからいいじゃないかと言ったけど、パートナーと友達は別なんだよ。
     今日も僕と蟹はアパートの一室で飲みながら昔の思い出話なんかをしている。けれどやはりあの頃は懐かしい。誰も誰かを選んでなんかいなかった、皆に蟹としての可能性が開けていたあの頃。そんな風に思うのは、僕が人間だからだろうか。そう蟹に尋ねると、ううむと唸って天井を見上げた。
  • 10:53pm · 25 Jul 2019

    20190807(水)18:48
    時には昔の話をという歌があった。昔のアニメの歌、と言ってしまうとファンの方々からお叱りを受けるだろうが、昔の歌だ。僕の蟹はなぜかその歌が好きで、お盆が近づくと歌い出す。理由を訊いてみてもいやあと濁して答えない。王蟹降臨記念のこの時期に、僕の蟹は毎日歌を歌う。
  • 12:37am · 25 Jul 2019

    20190807(水)18:47
    彼は蟹が好きだ。彼がいくら喋っても黙ってデスクトップにいてくれるからだ。蟹は彼を現実に繋ぎ止めるたったひとつのファクターで、そんな蟹を彼は愛している。蟹がいつからそこにいるのかは彼も知らない。ただその蟹が消えるとき彼自身も一緒に消えてしまうであろうことだけを知っている。
  • 11:06pm · 20 Jul 2019

    20190721(日)18:57
    こんなところにまで蟹が登場し、なんと彼を助けてくれるという。作者は蟹の万能さに思いを馳せ、どうか彼が救われますようにと願った。
    作者は一人しかいない、全ての主人公を一人で救うのは不可能だ。そんなときのための蟹。
    気長にやろうぜと笑う蟹に、作者はほっと息を吐いた。
  • 10:58pm · 20 Jul 2019

    20190721(日)18:57
    そして さくしゃとしゅじんこうは ふたりなかよく うどんをたべました。
    つきがきれいな よるでした。
    よるはまだまだつづくけど いまのここはあんぜんだから とさくしゃはいって しゅじんこうは だまってしずかに おちゃをのみました。
  • 12:47am · 19 Jul 2019

    20190721(日)18:56
    追っています…必死に蟹を追っています! しかし蟹もさることながら、得意の岩潜り込み! これではロケットが近付けない! 搭乗者、迷っている! 迷っています! 蟹は動かない、蟹は動かない! あっと搭乗者、ロケットから降りた~~~! 無謀です! なんたる無謀! でもここは物語の世界だから無事!
    搭乗者は岩をどけて蟹に手を伸ばす! ついに捕まるか、捕まってしまうのか~~~!? ササッ! すばやい! 別の岩の下に潜り込んだ~~~!!! 岩から岩へ、撹乱するかのように移動していく! おおっとここで搭乗者、目を回して倒れてしまった~~~!!! カンカンカン! 勝者、蟹~~~!!!!!
  • 12:39am · 19 Jul 2019

    20190721(日)18:55
    今そこに蟹がいたと思ったのに、覗き込むといなかった。路地裏、ゴミ箱の上、赤く光ったのは確かに蟹だと思ったのに。生きている蟹? まあこんな街中に蟹がいるなんて変だし幻だったのかもしれないと思いながら前を見ると、
    「あ…」
    それが鋏をゆっくりと開閉させながら横切っていった。
  • 12:32am · 19 Jul 2019

    20190721(日)18:55
    蟹がいなくなった。今朝まではデスクトップに確かにいたのに家に帰るといなかった。蟹、蟹はどこにいったのか。探しに行かなければ。こんな夜中に外に出るのは危ないからと蟹はいつも言っていたのにこんな夜中に外に出る、と
    「蟹」
    月に蟹。私を置いて還ってしまったのだろうか?
    「蟹…」
    「ダメだよ外に出ちゃ」「ああ…」私は部屋に戻り、蟹と一緒にビールを飲んだ。
  • 6:15pm · 13 Jul 2019

    20190713(土)18:24
    ――眠れない。眠れない。眠れない眠れない『森行き』 鳥の声、虫の音、木々の葉がざわざわと鳴っている。木漏れ日、暖かな森、風に目を細める。ずっとここにいたい。 目が覚めるといつもの部屋で、伸びをすると固い感触。スイッチ『森行き』。これからはきっとよく眠れる。明日も、明後日も。
  • 1:15am · 12 Jul 2019

    20190713(土)18:24
    あの時見た彼女は壁に沿って歩きながらうわ言のように蟹…と呟いていた。その顔があまりにも鬼気迫っていたので声をかけることができなかったのだけれど、次の日学校で会った彼女にそんな雰囲気は欠片もなくただ普通。「おいしいクレープ屋さん見つけたんだけどさ」なんて言ってきて、「マジ? 行きたいね」って返す。普通だ。私と彼女のいつもの空気。「昨日B8地区にいた?」「いたけど」「…見なかった?」「何を」「蟹」ぞわり。私は思わずごめんちょっとトイレと言って廊下に出たけど廊下には「蟹…」「見つけた」笑顔で蟹の大群に駆け込んだ彼女の体が小さくなり、変化して、「蟹…」
    ふらふらと家に帰ると今日のご飯は蟹チャーハンで、「蟹…」チャーハンはとてもおいしかった。