マイクロノベル

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  • 12:14am · 1 Aug 2019

    20190807(水)18:52
     トワイライトの歌を聴こうと思ったのに今日はもうトワイライトが終わっている! なんてことだ! と叫んだら同居人の蟹に君うるさい深夜だよと言われた。でもショックだったんだもんとごねるとじゃあと歌いながら踊り出した。なんだか申し訳なくなって、俺も一緒に歌って踊ったそんな深夜。
  • 12:14am · 30 Jul 2019

    20190807(水)18:52
    「へいお兄さん、蟹に選ばれてかない?」
     辻蟹めいたことをしてるのは友達みんなが人間を選んでいなくなったから。
    「へいお兄さん」
     手応えはない。もう川に帰った方がいいのかも。そんなことを思いながらそれでも声を出し続ける。
    「へい…」
    「あ」
    「え?」
    「蟹…」
     その日僕は運命と出会った。
  • 12:07am · 30 Jul 201

    20190807(水)18:51
     炎天下を歩く蟹はいないと思っていた。
     蟹と僕は炎天下を歩いている。ほんの数十分のつもり、でも日射しはぎらぎらと僕たちを照りつけ、持ってきた水を二人で分け合っている。
    「だからやめようって言ったのに」
    「でもここまで来ちゃったら」
    「確かに…頑張るか」
     蟹と僕は炎天下を歩いている。
  • 12:15am · 29 Jul 2019

    20190807(水)18:51
     さよならを言わなきゃ。毎日そう思うのに言えない。「おはよう。ブランチできてるよ」微笑む蟹を前にして。「今日のブランチはハムエッグとトーストとサラダだよ」「…ありがとう」「なんのこれしき」蟹がハサミをしゃきっとさせるのを見ながら私は毎日、世界へのさよならを一日延ばす。
  • 12:03am · 29 Jul 2019

    20190807(水)18:51
     私はもふもふが好きだ。近年蟹に選ばれる人が多いけど私はもふもふが好きだから甲殻類はだめですって断ろうと思ってた、けど、「お嬢さん」街で声をかけてきた蟹はもふもふ、もっふもふで「毛ガニ~!」もふもふもふ「お嬢さん」もふもふもふ「話を」「一緒に暮らそ!」「話が早い!」もふ!
  • 11:57pm · 28 Jul 2019

    20190807(水)18:50
     蟹に夢を見ている。物心ついたときから。何でも救ってくれると。けれど私は選ばれなくて、どうしようもなく灰色なのに目の前に現れない。探し歩いてもみたけど全然見当たらない。今日も駄目だったと言いながら同僚と飲んでいると彼は私をちらりと見、大丈夫きっと次がありますよと言った。
  • 11:50pm · 28 Jul 2019

    20190807(水)18:50
     いなくなったら空虚になるだろうと言ったら、わからない、本当に? と返された。よくない。そもそもいなくなったらなんて仮定が間違ってると言ってくれなきゃ困るのだ。俺の歪んだ暗闇を全てぶち破ってくれるのがお前だから。そう言うと、まあなんでも思い通りにはいかないさと蟹は笑った。
  • 11:44pm · 28 Jul 2019

    20190807(水)18:50
     ここに蟹はいらっしゃいませんか?
     呼んでいる。呼んでいる。けれど来る蟹はいないだろう。蟹は必ず一人につき、そこを離れることはない。
     いらっしゃいませんか、いらっしゃいませんか。
     なぜ呼んでいるのかわからない。いらっしゃいませんか。何が。僕の蟹が。蟹はどこへ行ったのだろうか。
  • 1:02am · 28 Jul 2019

    20190807(水)18:49
     誰が救ってくれる? 蟹でさえ僕を救うことはできない。そんなことを蟹に言ったら悲しそうな顔をした。僕は、あ、しまったなと思って、でも君だって頑張ってくれてるし、まあ救われないなんてことはないかもしれないと付け加えたが蟹はますます悲しそうな顔をして、僕は途方に暮れてしまった。
  • 12:54am · 28 Jul 2019

    20190807(水)18:49
     蟹がいる。ぐるぐる回っている。視界も文字も蟹も。僕は困っている。こんなに回っちゃ歩けない。ベッドに行こうと思っているのに。「蟹…」「ようお前さん、ぐるぐるから救われたいか」
    「すく っ て」
     しゃきん。世界が止まる。目の前の蟹が、まあ仲良くやろうや、人生は長いで、と言った。