マイクロノベル
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12:39am · 19 Jul 2019
20190721(日)18:55今そこに蟹がいたと思ったのに、覗き込むといなかった。路地裏、ゴミ箱の上、赤く光ったのは確かに蟹だと思ったのに。生きている蟹? まあこんな街中に蟹がいるなんて変だし幻だったのかもしれないと思いながら前を見ると、
「あ…」
それが鋏をゆっくりと開閉させながら横切っていった。12:32am · 19 Jul 2019
20190721(日)18:55蟹がいなくなった。今朝まではデスクトップに確かにいたのに家に帰るといなかった。蟹、蟹はどこにいったのか。探しに行かなければ。こんな夜中に外に出るのは危ないからと蟹はいつも言っていたのにこんな夜中に外に出る、と
「蟹」
月に蟹。私を置いて還ってしまったのだろうか?
「蟹…」
「ダメだよ外に出ちゃ」「ああ…」私は部屋に戻り、蟹と一緒にビールを飲んだ。6:15pm · 13 Jul 2019
20190713(土)18:24――眠れない。眠れない。眠れない眠れない『森行き』 鳥の声、虫の音、木々の葉がざわざわと鳴っている。木漏れ日、暖かな森、風に目を細める。ずっとここにいたい。 目が覚めるといつもの部屋で、伸びをすると固い感触。スイッチ『森行き』。これからはきっとよく眠れる。明日も、明後日も。1:15am · 12 Jul 2019
20190713(土)18:24あの時見た彼女は壁に沿って歩きながらうわ言のように蟹…と呟いていた。その顔があまりにも鬼気迫っていたので声をかけることができなかったのだけれど、次の日学校で会った彼女にそんな雰囲気は欠片もなくただ普通。「おいしいクレープ屋さん見つけたんだけどさ」なんて言ってきて、「マジ? 行きたいね」って返す。普通だ。私と彼女のいつもの空気。「昨日B8地区にいた?」「いたけど」「…見なかった?」「何を」「蟹」ぞわり。私は思わずごめんちょっとトイレと言って廊下に出たけど廊下には「蟹…」「見つけた」笑顔で蟹の大群に駆け込んだ彼女の体が小さくなり、変化して、「蟹…」
ふらふらと家に帰ると今日のご飯は蟹チャーハンで、「蟹…」チャーハンはとてもおいしかった。1:00am · 12 Jul 2019
20190713(土)18:22蟹。蟹を愛した。あの蟹はどこにいるのだろう。蟹。蟹に惚れたのか俺は。あの時見た蟹。ぎらつくハサミ、赤い体、四本足に白い腹。蟹、蟹、蟹。美しく格好よくそして──、頭が痛い。蟹を俺はどうしたんだっけ。会社の飲み会、夏らしくない鍋パーティ、メインは蟹。あの蟹は今、今、俺の。12:20am · 10 Jul 2019
20190713(土)18:22「グッド」チャンネル登録・高評価をお願いします、の画面を見ながらサムズアップしてヨーグルトドリンクをすする。今回の動画も素晴らしかったな。さすが推し。さす推し。幅広く手掛けるそのリサーチ力はいったいどこから来てるのか事務所か? グッドボタンをポチって今日も夜が更けてゆく。5:20am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:22「おお蟹よあなたは大きく赤く鋭く強く」「……」「いつもそこで見守ってくださり不安を切り裂くそのハサミ」「……」「蟹よ我が声に応えたまえ」「……」「大きく赤く茹でるとうまいその姿」「……」「蟹よなぜ応えてくださらない」「……僕を美味しそうと思う輩にはね」「蟹よ!」「……」「おお……」5:11am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:21蟹の故郷は遠い。いつか一緒に行きましょうねと言う蟹を机の下に置き私は今日も仕事中。がんばれーがんばれーとハサミを振る蟹。ちょっと黙っててと言ってメールを一本書き終えて、構ってほしかったの? と聞くといやまあそういうわけでも? 私は蟹を抱き上げてコンビニでカニかまを買った。5:07am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:21蟹とあちこち遊びに行っても海に出掛けたことはない。そのまま還ってしまうかもと思ったからだ。なのにその日の出張は海の見える町で、よせばいいのに私は蟹と砂浜を歩いて、だけど振り返っても蟹はまだ還らない。ねえと声をかけたら、僕の故郷は川なので。微笑む蟹に私はそう、と返した。5:00am · 9 Jul 2019
20190713(土)18:20人生が退屈、そんな言葉見たくはなかった。こっちはそんな暇もない。退屈かよかったね一生やってろ。そう思いながらぱちぱちやっていると蟹が出て来て休憩しませんかと言った。一緒に缶コーヒーを飲んでいたらあれ書いたの僕なんですと言われて私ははああとよくわからぬ息を吐いた。