マイクロノベル
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11:16pm · 27 Sep 2019
20191003(木)21:56「金曜の夜ですよ」「だから何?」「どうですかひとつディナーでも」「何いきなり」「おいしい店を見つけたんです、君にも食べてもらいたくて」「はー…悪いけど今日は眠いから帰る、夜更かしできないタイプなんだよね」「では明日の夜」「マジで言ってる?」「マジです」「わかった」
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土曜日の夜。「意外とおいしかった」「意外とですか?」「…おいしかった」「ふふ」蟹と私はレストランからの帰路についていた。律儀に家の前まで送ると言う蟹はてけてけと車道側を歩いている。「星が見えてますね」「新月手前だから」「星、好きですか?」「まあまあかな」「僕は好きです」「ふうん?」「水の中から見る星と地上で見る星は違いますからね、そこが面白くて」「…」「今日は星が綺麗です」「…そうだね」歩く。虫の声。家に着くまで、蟹と私はぽつりぽつりと話をしていた。11:04pm · 27 Sep 2019
20191003(木)21:56「金曜の夜だぞ!」「でも君金曜とかそんな関係ないでしょ?」「嬉しいものは嬉しい、蟹ッターも活発になるしな!」「なるほどね」「蟹は嬉しくないのか?」「僕? 僕は…考えたことなかったな」「仕事人間かな?」「蟹だってば」「よきよき! 今日はエンジョイしようぜ!」「はいはい…」10:35pm · 18 Sep 2019
20190925(水)23:16「蟹~元気?」「元気だ」「しばらく会ってなかったから心配になってさ~まだ私を選んでくんないの?」「いや選んだら友達と離れてしまうだろう」「そこポイントなんだよね~。蟹とは一緒にいたいけど友達とも一緒にいたい…悩ましポイントね」「君が欲張りなのは知っているさ」「知られてたか~」「だから…堕ちてくるまで待っているよ」「え?」「なんでも。輝く君は今日も美しい」「はー? 大丈夫? 頭打った?」「僕はいつもこうさ」「はあ。いいけど。今日はどこ行く? マック?」「モスを所望する」「贅沢! いいけど」「ありがたいな」「じゃ、レッツゴー!」11:45pm · 17 Sep 2019
20190925(水)23:16「あの人は」「あの人はウィリアム・スミス」「あの人は選ばなくていいの?」「選ばなくていいよ」「どうして」「決められた人がいるからさ」「それは?」「有り得る可能性」「選ばなくていいの?」「可能性があるうちから選んじゃう蟹は嫌われるぞ」「そんなものかな」「そんなもんさ」
「ねえ、あの人しんどそうだよ」「それでも選んじゃいけないよ」「どうして」「『救われない』からさ」「なんでわかるの」「最後に残された命綱があるのさ」「それは?」「なんだろうね?」「言ってよ~」「言えないよ、彼が自覚するまでは」「煙に巻くなあ…」7:17pm · 28 Aug 2019
20190925(水)23:15「そこだ!」
蟹の爪からのビームが機械人形を捕らえる! 爆発四散する人形! だが油断は禁物、量産型なのでどんどんでてくる!
「サービスしちゃうよっ」
宙返り! 連続ビーム! 爆散! 爆散! 破片が散る!
煙が収まった路地裏に青い蟹以外動くものはなく、任務完了、と言った蟹はその爪の先をふっと吹いた。10:38pm · 25 Aug 2019
20190925(水)23:14「やさしくないのにやさしいなんて贅沢だよな」「君は何を言っているんだ」「ほら俺ってやさしくないじゃん? でもお前はやさしいじゃん?」「君がやさしくないなら僕だってやさしくないさ、パートナーと蟹の性質は似る」「まだ似てないかもだろ」「似る」「頑固な奴だなあ」「君に似たんだ」1:17am · 24 Aug 2019
20190925(水)23:14やさしい。やさしい。「やさしい」やさしい、やさしい「やさしい…?」何度自分に言い聞かせてもやさしくなんてならない。だって世界はやさしくなんてない。それでも、「やさしい、やさしい…そうじゃなきゃ僕は…」今日も無駄な行為をやめられない。1:28am · 19 Aug 2019
20190925(水)23:13そのとき僕は何も言えなくなった。パートナーの人間に対して蟹が何も言えなくなるなんてことは性質上まずないのだけど、いい加減僕もバグがきてるのかもしれない。昔から蟹であることになんだか違和感を感じていたから。そんな僕に選ばれた人間は少し哀れだと思う。
でも、人間は僕がいてよかったといつも言うのだ。それだけで僕は別に僕が蟹でいたっていいのかななんて思うのだが、実際のところはわからない。
蟹なのにぐるぐると考えているのは明らかに不具合だ。神社に行けば治るのだろうか。人間は僕がそういうことを言うのを嫌うから最近はあまり言わないようにしているのだが、不具合の蟹に選ばれてしまったことはやはり申し訳なくて、なんとかしたいと思うばかり。
風鈴の音を聞きながらごめんねと言ったら人間は、別に? 君がいなかったら僕は生きていけないからさと言った。それで僕は何も言えなくなった。夏のある夜のことだった。11:23pm · 18 Aug 2019
20190925(水)23:12「は…元気」「何今の」「いや」「どうかした?」「ため息吐こうとして悪いなと思ってやめた」「別にいいのに。っていうかため息?」「…ちょっと生きるのがね」「なるほどね」「生きてる意味とか…」「まあ蟹である僕のためだろうね」「え?」「何があっても僕は傍にいるってことだよ」「…それはありがたいな」「ありがたいでしょ」「調子に乗るな」11:02pm · 16 Aug 2019
20190817(土)21:29蟹がいないことに気付いたのは数年経ってからだった。ずっと探してきたのに本当はいないなんて。今までしてきたことは全て無駄だったのか? 私はこれまで蟹探しにかけてきた時間、金、労力、失われた交遊関係のことを思い、絶望した。その瞬間、
「やあ」
蟹がいた。