マイクロノベル

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  • うどん魔王とうどん勇者

    20191224(火)11:18
     愚かなり勇者! 貴様がパンの代わりにこっそりうどんを持ち歩き夜中に茹でて食べているのは知っている! 大人しく白状するのだな! えっなんで知ってるかって? 貴様うどんファンクラブの超常連「旅する伝説のつるぎさん」でしょ? 我も! ちなみに我「眠れぬねじまき羊さん」!
     さあさあネタは上がってるんだ、潔く白状し、パン党のパーティーメンバーから軽蔑されるんだな! …何? 白状するから魔王なんかやめて一緒にうどん屋開こう? 何を言っているのだ貴様!? この日のためにすくすくゴル草売ってゴールド貯めてきた~!? 馬鹿な…馬鹿な!
     うどん屋…うどん屋! うどん…これは!? いいから食べてみろだと!? モグ………、ッ…!
     貴様の決意はわかった。我も高潔なる魔族の端くれ、覚悟には覚悟を以て応えなければな。貴様ら! 魔王軍はこれよりつるぎと羊のうどんカンパニーとなる! まあこれまでもうどん作って飢えた人間どもに無理矢理食わせていただけだしやることは変わらんが嫌な者は出ていくがいい…勇者! 貴様は…本当に我とうどん屋を…?
     ……そうか。わかった。これからよろしく頼む。何!? なんだかよくわからないけど勇者くんと魔王さんおめでとうだと!? パーティーメンバー…パン党のくせに…わかった、貴様らも社員に…結構ですだとお!?
     ……去っていきおった…勇者よ…本当にこれでよかったのか? …そうか。そうか……よーし人間ども! 超常連タッグを舐めるなよ! 世界をうどんで埋め尽くしてやるわ! えっそういうのやめろ? すまない…何? 俺も微力ながら頑張るから? 謙虚か? 我も頑張ります!
    ~うどん~
  • 3:36pm · 26 Nov 2019

    20191224(火)11:17
     午後の空気。暖かい日差し。ストーブのついた部屋においしい紅茶。なんていい日なんだろう。私は全身で幸福感をいっぱい味わった。ここ数日天気が怪しかったから今日のように晴れる日は珍しい。とっておいたお気に入りのチョコも添えて、完璧な一日だ。
     カチリ。
     何かが音をたてる。
     カチリ。
     何の音だろう。心の中で黒く大きなもやのようなものが鎌首をもたげようとして、カチリ。
     いや、どうせそう大したことじゃないに決まってる。何も心配はないんだ。だってきょうはいい日、幸せな日、久々の晴れ。私は紅茶を一口飲むと、椅子にもたれて伸びをした。カチリ。
  • 7:55am · 25 Nov 2019

    20191224(火)11:16
    「新しい朝が」「希望などない!」「え!?」「朝は憂鬱、決まっているだろう!?」「決まってはないと思うけど」「視聴者の皆さんもそう思いますよね!?」「視聴者の皆さんにマイク向けるのやめろ」「思いますよね!?」「だめだってテレビの向こうまでマイク届かないから!」「しゅん…」
  • 7:18pm · 24 Nov 2019

    20191224(火)11:15
    チャカポコチャカポコ……「教授!」「なんだね急に」「教授が狂ったって本当ですか!?」「馬鹿、本人に訊く奴があるか」「そうか! じゃあ他の人に訊いてきます!」「私に訊いた後に他の奴を探そうとするんじゃない」「えー! じゃあどうしろと」「せめて私の答えを聞いてから行きたまえ」「答えって? 教授が狂ってるかどうかですか? 教授~、狂ってるんですか?」「また直裁な。風情がないねえ君は」「どうなんですか~?」「それに関してはわからないと申し上げておこう」「わかんない!? それってつまり…」「つまり?」「狂ってるってことじゃないですかぁ!」「いや違うからね?」「じゃあ何なんですか、教授は狂ってないんですか」「だからわからないと…」「あやしい!」「怪しくて結構」「変な論文書いてたじゃないですか!」「あれは真面目だ!」「あれを真面目に書くというのがもう怪しい!」「そうは言うがね、君」「はい?」「今話している私がもう既に君の狂いの正体だとは思わないのかイ?」ィィィイーーーン……「え?」「はは、冗談だよ。私は正気、君も正気、それでいいじゃないか」「もー嫌ですね教授変な冗談やめてくださいよ。だから学生から人気ないんですよ」「んなっ!? 私学生から人気ないのか!?」「底辺ですよ」「ショックだなあ…」チャカポコチャカポコ…
  • 11:28pm · 10 Nov 2019

    20191224(火)11:15
    恋の花咲く季節となりました! 走者一斉にスタート! あーっと蟹D選手速い! コーナーで差をつけていく! 第二コーナー! 蟹B選手、C選手競り合っています! 両者一歩も譲らない~! 渾身の脚振り! 勝負を制したのは…C選手~! だが先頭のD選手、速い! 速い! トップは譲らない~! 加速、加速、ゴ~~~ル! 決勝進出はD選手となりました! 解説キタヤマさん!「最初に言った恋の花、勝負と何の関係が?」全然関係ありません!「ないんかーい!」
  • 11:13pm · 8 Nov 2019

    20191224(火)11:14
    「わーーーエラー出た」
    「何の?」
    「PC! ブルスク! 半日分のデータがパー…」
    「半日も保存してなかったのか?」
    「集中してたんだよ~うわ~ん」
    「ドジな蟹だな…」
    「蟹は皆に親しんでもらえるよう多少のドジ機能は備えてるもんなんだよ!」
    「え、蟹ってみんなこうなの?」
    「ごめん嘘です」
    「嘘なの!?」
    「確かにドジ機能標準搭載してる蟹はいるけど僕はちょっと強めに出てる感じある」
    「大丈夫なんですかそれ」
    「君がドジらないタイプだからバランス取れてるでしょ?」
    「え、そういう系…?」
    「いやわかんないけど。たぶん僕側の問題」
     PCが立ち上がる。
    「あーよかった自動保存されてたぁー!」
     ハサミをばしばし振り回して喜ぶ蟹に少し休憩したらどうだと言ったらまだやるー! とPCに向き合おうとしたのでctl+sを押しつつ強引に持ち上げた。
    「まだやるのに!」
    「長時間作業はミスのもとだぞ! カップスープいれてやるから休憩しろ」
    「はあい」
     素直かよ。
  • 11:02pm · 8 Nov 2019

    20191224(火)11:13
    「なぞのエラーをおさがしですか?」「そんなものは探していない」「なぞのエラーをおさがしですか?」「探してないと言っているのに」「エラーを探しているのでしょう」「…そんなものはない」「どうしてないとわかるのです?」「なかったんだ」「なかった?」「調べたんだ、でもなかった」「一度調べただけでなぜないとわかるのです?」「ないものはない」「でもほしいのでしょう」「…」「あなたはエラーがほしいのだ」「…」「この手を取ればそれが得られる」「…最初からそれが言いたかったのか?」「さあ? しかし今日からそんな苦しみともお別れだ」「…そうかもな」「やはり探しておられた」「…」「さあ参りましょう。どんなエラーでも授けましょう。つらいのにつらくないエラーをお望みの通り」

     断れなかった。断れるはずもなかった。俺はその蟹に着いて行き、そこからどうなったのかは■■しか知らない。
  • 3:44pm · 2 Nov 2019

    20191224(火)11:12
    「にこっ」「にこ?」「笑うとつらさが吹っ飛ぶと言うよな」「まあ言うね」「あれは嘘だと思う」「またまた」「笑っても空虚な気分になるだけで吹っ飛ぶどころかもっとつらくなるからな」「ヒェ…疲れてるよ…」「俺は普通だ」「普通か」「俺にとっては普通だからな」「まあ、そうだねえ」「つらいのが日常だからそれをどうにかするとか抜け出すとかそういうのはナンセンスなんだ」「うん」「いくら頑張っても無理だったんだから、無理なんだよ…」「うん…」「……」「…大丈夫。きっとよくなるよ。僕が傍にいるんだから」「…そうだと、いいな」
     蟹のいる午後は暮れてゆく。
  • 12:41am · 29 Oct 2019

    20191224(火)11:12
    「君が死ぬのを放置していた神を殺した。神を殺した私は神になった。しかし君は生き返らない、なぜだ?」
    「はい、それは蟹がいないからです」
    「センスのない冗談は身を滅ぼすぞ、側近」
    「神を選ぶ予定であった蟹……それは『選ぶ』能力だけで言えば世界の理をも曲げる力を持っている。だがしかしあなたは神を殺してしまった。運命の相手がいなくなった蟹は有り余る力で世界を停滞させた……あなたも、あなたのご友人も」
    「……貴様」
    「エヘヘ。側近さんに似てたぁ? 彼なら今日は迷子だよ」
    「迷子だと?」
    「蟹神の力の行き場がいよいよなくてね……空間が曲がってきてるのさ」「何を……」
    「そこでさあ、君、蟹神様に会って……『選ばれて』きてくれない? 真の神になるんだ。そうすれば君のご友人も……」
    「断る」
    「あれれ?」
    「私は神と名の付く物が大嫌いでね。蟹神とやらが邪魔をしているというのなら、その神も殺して見せる」
    「ははは、強気だなあ。面白いヒト。……忠告はしたからね」
    「フン」
     言い終えた蟹はすうと薄れ、まるで始めからそこにいなかったかのように消え失せた。
    「……側近」
    「はい」
    「『蟹神』を殺る」
    「仰せのままに」
     そうして神の蟹界侵攻が始まった。
    (蟹にまつわる物語群・ifルート)
  • 12:15am · 29 Oct 2019

    20191224(火)11:09
    「どの蟹も同じ…どの蟹も同じ…」
     僕はぐるぐると思考を回す。
    「どの蟹も同じ…そのはずなんだ…」
     ぐるぐる。ぐるぐる。
    「じゃあ…僕も…同じなのか…?」
     重ならない。存在のずれ。目に見えないそれが本当にあると信じてしまうのは僕が欠陥品だからか、それとも蟹…自身そのものが理の外の存在であるからか。どの蟹も多かれ少なかれ自己を持っているし、多かれ少なかれ性格にもぶれがある。それを個性ととるか欠陥ととるかは蟹次第だが、僕は何か、いつからか、決定的に何かが欠けているような気がしていた。
     何が? わからない。人間を探すよりもそれを明らかにする方が僕の使命だと、そう思えたらどんなによかったか。
     蟹の存在意義はヒトを救う事。そうである限り逸脱は許されない。いや、逸脱「することができない」。そのはず。そのはずだ。では今ここでぐるぐる考えている僕は何だ。
    何なのだろう?
     わからないまま夜が更けていく。
     今日もヒトは見つからなかった。