マイクロノベル
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【蟹】うすいさいふ
20240705(金)20:34「今日も元気だ財布が薄い」
「何言ってるの、蟹社会で財布はいらないよ」
「じゃあ何使ってるんだよ」
「蟹ペイ! 今度スーパー一緒に行こっか」
「うん」
ちょっと嬉しかった。【蟹】「ネタが思い付かない状態」
20240703(水)20:11「蟹」
「ん~?」
「小説のネタが思い付かないんだ」
「きみいつから小説書いてたっけ!? 知らなかったよそんなこと、」
「今日」
「だよねえ!?」
蟹がハサミをちゃきちゃきさせる。
「『ネタが思い付かない状態』を切ってあげようか?」
「そうすると、どうなる」
「ありとあらゆることがばらばらに思い浮かんで止まらなくなるよ」
「ヒエッ怖い!」
本当に怖い。
「遠慮しておきます」
「しなくていいのに~! 便利だよ~!」
「いいよ……自分で頑張るから」
「えらいえらい!」
蟹はにこ! と笑った、ような気がした。【蟹】ボードゲーム
20240630(日)15:58「今日も雨~? 雨でできる遊びなんて限られてるよ」
「室内でできる遊びってことか」
「そう!」
蟹はハサミをぴしっと上に上げた。
「ということで、今日は室内遊びを極めよう!」
「え~面倒臭い」
「くっ……そう言われてしまっちゃ仕方ないね」
空中から大きめの箱を出す蟹。
「黒と白! 聞いて驚け見て笑え、」
「オセロか」
「最後まで言わせてよお~」
オセロにはいい思い出が無い。そもそも俺は負けるのが嫌いで、オセロで勝ったことが数えるほどしかない。
「オセロは嫌いだ」
「まま、そんなこと言わずに」
「接待プレイならいらないぞ」
「んん~……わかった」
蟹はオセロを空中にしまう。
「君、もしかして勝ち負けのあるボードゲーム系が苦手かい」
「ああ」
「あ~やっぱりね……だから乗り気じゃなかったのか」
窓の外では雨が降っている。
「きっと嫌な思い出があるんだろうね」
「……わかるのか」
「蟹ですから?」
ドヤ、とつきそうな姿勢をとる蟹。
「絵でも描いて過ごそうよ」
「ああ、そうだな」
俺はほっと胸を撫で下ろした。
◆
蟹にはほんとは君の思考が読めちゃう、なんて言ったら君は泣いたり怒ったりするだろう?
だから今日は黙っている。
今日も、その次の日も、ずっと黙っている。
僕たちが生を終えるまで。【蟹】雨の中、歌うやつ
20240629(土)19:01「雨!」
「止めるな蟹よ俺はシンギング・イン・ザ・レインするんだ」
「駄目です」
ベランダに立ちはだかる蟹。
「出るなら玄関から。出るなら傘持って。出ないなら出ない」
「はい……」
俺は素直に従った。
「あれ……出ないんだね」
「雨の日に外出るのって嫌だろ」
「人間はそうだよね」
「蟹はそうじゃないのか」
「川出身ですから」
えっへん、と甲羅を張る蟹。
「それより君、歌いたいんじゃなかったのかい」
「あの歌は雨の中で歌うからこそ価値を持つんだ」
「そんなこと言ってると各方面から怒られるよ」
「えっごめん」
「各方面には僕が謝っておくから君はベランダで傘持ってシンギングしときな」
「謝るの!?」
「冗談でした~びっくりした?」
「マジかと思った……こわ」
こわ。【蟹】新しいSNS
20240628(金)17:04「蟹~」
「なーに?」
「新しいSNS始めたんだ」
「それは」
「『蟹好き』ってやつ」
「ああ『蟹好き』ね、知ってるよ。この地方のヒトが開発したという」
「そう、■■くに……じゃなかった、■■地方の」
蟹が来てから社会体制が刷新され、「国」がなくなり「地方」のみになった、そのことを俺は忘れていた。
まあ、大したことではないので流す。
「『蟹好き』は迷っちゃう性格のヒトには厳しいって聞いたけど、うまくやれてる?」
「まだ一日目だからわからないな。でも、楽しいぞ」
「いいね。『まるで蟹』とか『ほぼ蟹』とか『完全に蟹』ってスタンプがあるの知ってる?」
「勿論。俺も蟹のこと好きだからさ、真っ先に検索したよ」
「僕のこと好き?」
「えっ今のは言葉のあやというもので」
俺は両手の人差し指をぴしぴしぴしとくっつける。
「かーわいい!」
そう言って、蟹は笑った。【蟹】眠気と蟹
20240625(火)19:52【蟹】じめじめ梅雨
20240623(日)14:59「蟹~!」
「な~に」
「雨続きで洗濯物が干せないよお」
「そんなときは!」
蟹がハサミをちょきんちょきんとする。
「うお、洗濯物が乾いた!」
なぜだ!? 明らか合理的じゃないんだが! つっても蟹の存在自体が合理的じゃないからアレか、アレ……
「そう、湿気という概念を切ったのさ」
「すごい、何でも切れるのか」
「こんにゃくも切れるよ」
「へえ……?」
「えっへん」
なぜか胸を張る蟹に、俺は首を傾げる。
「いっつも切ってないか? こんにゃく。特筆すべきことじゃないよな」
「まあ、世代ってやつだね」
「蟹に世代が?」
「あるよ~。世界に出てきた世代がね。必要事項は蟹クラウドで共有できるとはいえ、好きなネタは蟹によって違うし」
俺は洗濯物を畳みながら思う、蟹とネタを並べられるとお寿司みたいになるからやめて欲しい。
「実際に体験したことと、クラウドで頭に入れられていることとは違うんだよ」
「へえ……」
やっぱり蟹には謎が多い。2024/06/10 19:41 宇宙蟹
20240610(月)19:41「こちら蟹~蟹~応答求ム」
「オーケイ、俺だ。こんな時間まで何してるんだ」
「宇宙を彷徨ってるんだよ! 困ってて」
「そりゃ困るだろうな! なんで宇宙なんかに」
「え? ロマンだから」
「その価値観だいぶ古くないか?」
「君は宇宙好きなヒト全員に謝りなさい」
「えっあっすまない……」
「ふんふん」
「で、帰ってくる気はあるのか」
「あるとも! ワープ!」
「あっ本当に帰ってきた、しかも俺の部屋に! 一瞬で帰れるならすぐ帰ってこいよ……」
「君と連絡がつかないと帰れないのさ」
「なんで……」
「対だからね」
「なんで勝手に宇宙に出たんだ」
「それはね」
蟹の黒い目が光る。
「キミ ニ トモダチ ヲ ツクッテ アゲタカッタ カラ ダヨ」
「うわあああ!」
飛び起きる。
俺の隣には蟹がすやぁと寝ていて、宇宙のことを聞いてみても何それ、知らなぁいと返されるだけだった。4:39pm · 17 Dec 2022
20221217(土)17:24「羊」
「メー」
頭が痛い。目の裏側で大量のモノクロの写真がフラッシュしている。
「羊、」
「メー」
俺がどんなでも、どんなに深夜でも、羊は必ずこたえてくれる。責めることも否定することもなく。
「羊」
「メー」
それは安堵だった。2:41am · 8 Dec 2022 羊
20221209(金)18:45「羊~知ってるか、あくびしながら上体起こすときの映像を逆再生すると寝るときの映像になる」
「メー」
「それは肯定なのか否定なのかどっちなんだ?」
「メー」
「はあ……やっぱりお前の言うことはわからないよ」
「メー」
撫でる。仮面は無機質な感触をしていた。