マイクロノベル
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9:33pm · 3 Jun 2020
20200704(土)22:17再放送をしている。何をって、人生の。実際にしてるわけじゃない。頭の中で。人生の再放送は予告なしに突然始まり延々続く。通勤中、仕事中、休憩中、何をしていてもお構いなし。この前「再放送お断り」の札を作ってドアに貼ったのだが変な蟹が訪ねて来ただけだった。蟹は今も部屋にいる。9:29pm · 3 Jun 2020
20200704(土)22:17世の人々は蟹を探しているが俺はかまきりを探している。かまきりはその大鎌で絶望を捕らえ、食べてくれるという。伝説のかまきりを見た者はいない。ひょっとするとかまきりなんていないのかもしれない。それでも俺は探している。そうでなければ…そうでなければ? 今日も野原を辿っている。9:26pm · 3 Jun 2020
20200704(土)22:17蟹にさらわれて消えてしまった幼馴染みがいる。いや本当はいない。いたらこの蟹排斥のご時世強気に出られるなと思っただけだ。そんな自分の性格の悪さがほとほと嫌になるが、性分なので変えられない。変えようとして蟹を探したこともあるのだが、見つからなかった。ここまで極まってしまった人間に蟹は見つからないのかもしれない。でもひょっとすると絶望すれば見えるのかもしれない。希望でもない、絶望でもない、ふわふわした停滞の中で宙ぶらりんになっている限り蟹は見えないのか。それならどうすれば。
そんなことを考えていた俺の部屋のドアを蟹ハンターのスカウトが叩いたのは夏の始まりのことだった。9:20pm · 3 Jun 2020
20200704(土)22:16「アイスが食べたい!」「食べたらいいじゃないか」「この歳になると冷たいもの食べたあと胃の調子が」「悲しいね…」「蟹はどうなの?」「いや僕は…概念だし…気分次第かな」「いいなー」「でも気分次第でアイス食べた後消滅しちゃったりするから…」「怖すぎでしょ…とりあえず蟹にはアイスは与えないことにする」「いやそういうことでは…」「アイス食べたい…」「ひょっとして夏中そんな感じ?」「そうだよ」「……そうめんでも作ろうか」「わーいそうめん大好き」「氷はなしでね」「しゅん…」9:15pm · 3 Jun 2020
20200704(土)22:15「絵が描けないんです」「そうなんですか」「そうなんです」「どうしてですか」「絵に蟹を消されてしまった過去がありましてね」「それは…」「まあ嘘ですけど」「嘘なんかーい」「本当はただ描けないだけです」「へえ…」「なので蟹に描いてもらおうとしたんですけど、ハサミじゃ鉛筆持てないって突き返されてしまって…」「それは残念でしたね」「でも蟹のハサミは概念なので普通に鉛筆も持てるはずなんですけど」「ぎく」「なんであなたが焦るんです」「いや、別に」「もしかしてあなた…」「用事思い出したんで帰ります」「帰ってしまった」「ただいまーどうだった来客」「どうだったって…」「なんかヒントもらえた?」「いや…っていうかさっきのお客さんってきみd」「いやー今日はいい天気だなー! アイス買ってきたから一緒に食べよ!」「……」「そんなに見ないで!」「……」「ごめんって!」8:29pm · 27 May 2020
20200704(土)22:14「しえっ…」「馬鹿が一匹炙り出されたようだな」「しえー」「それは俺が個人製作で作り上げたダミー本! 一ヶ月飲み食いも疎かに作ってしまうというアクシデントはあったが、それもお前を倒すためと思…」「しええ!」「?」「これおもしろい、しえんしえん」「…今回は…見逃してやるッ…」8:34pm · 2 Jun 2020
20200602(火)20:38「俺と一緒に…海のもずくになれ蟹ィーッ!」「えっ無理」「なぜだ!」「甲殻類は海藻にはなれない」「お前甲殻類なの?」「概念の甲殻類」「概念の…甲殻類…」「そして君は概念の軟体類、蛸ですね」「なぜわかった」「わっ急に変化解かないでびっくりするから」「お前のそういうところが俺は!」探偵事務所の事件は終わる
20200530(土)22:41「これで、長かった事件も終わる……」「ハッピーエンドですかね」「いや…死者は出たさ。アイツの恋心、という名の死者がな……」「……」「放っておいてやろう。アイツが立ち直るまで……俺たちはいつものように酒でも飲むさ」
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「所長! 所長! 俺すっげーかわいい子見つけちゃったんですよねー聞いてくださいよ!」「ふざけるな俺たちは今うまい酒を飲んでるんだ後にしろ」「そんなこと言わないでーもうね、一世一代の恋! これ以上の恋は今日以前にも今日以後も存在しない!」「あー…余計な心配だったみたいですね…」「違いねえ……」原初の海
20200530(土)22:33「やあ!」「おっ」「家出しようと思ってるんだけど」「奇遇だな、俺もだ」「どこ行く?」「やっぱ海がいいよな」「海なら蟹もいるもんね!」「よーし、海に決まりだ」
「海だー!」「やはり海はいいな、原初に還ったような気分になる」「そうだね、僕たちもここに来てから随分経った……」「いっそのこと、還ってしまうか?」「そう…だね…」「還れば誰も俺たちを…気にしないし」「そう、だね、それが一番いいよね。そうなってくると色々思い出すな、原初のみんな、どうしてるかな…」「俺たちの帰りを待ってたりして」「えー、やだなぁ」「まあ歓迎されえる分にはいいだろ」「ま、そうだね」
その後、彼らを見たものは誰もいなかった――1:34am · 25 May 2020
20200525(月)22:03「俺が蟹と出会ったのは真夏の帰り道だったんだよ、君」「なんで説明口調なんだよ」「見てるかもしれないでしょ」「何が?」「蟹ー!」「俺?」「違うよもっと何か概念的な蟹だよ」「俺も概念だけど」「あーもう!」察しの悪い蟹を横目に蟹隠しにあわないことを願うばかりだ。