マイクロノベル

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  • そんな夜

    20250808(金)20:39
    「文字書きのヒトってやっぱり俺が俺こそが一番うまく小説を書けるんだって思っ」
    「集団の中で争い一番になろうとすると均衡を失うぞ」
    「なんでそんなこと言うの。僕が僕こそが一番うまく小説を書けるんだって思ったのを和らげようと思って文字書き一般に拡大したのに」
    「なお悪い」
    「なんで」
    「お前のそういうトリッキー一般化はそう変わったことではないが、だからこそ人々の癇に障るんだ」
    「やめてよ~そういうこと言うの。もっと僕に優しくしてくんない? だって君は、」
     僕なんだし。
     呟いた言葉は相手に届かず、相手はご高説を垂れ続けている。
     まあそれでも。
    「話し相手がいないよりマシか」
    「今、何と?」
    「なんでもなーい。大好き」
    「!?!?!?!?」
     そんな夜。
  • 対空調大バトル

    20250726(土)00:52
    「空調よ」
    「はい」
    「勝手に消えていいと命令した覚えはないぞ」
    「はい…」
    「そもそも貴様は何だ、ガンガンにかけているのにも関わらす効かないではないか」
    「はい…でもそれは」
    「言い訳無用!」
    「ぷくく」
    「なぜ笑う!」
    「いや〜だってもう地球おかしくなっちゃってるじゃないですか。早々にしんじゃう主様可哀想だな〜って思って…それに何ですかその喋り方。空調にしかイキれないんですかあ? あは、可哀想〜短いいのち、セミさん以下ですねえ」
    「き、貴様……!!!!」
    「ぼくのこと壊しても困るのは主様ですよ? そこんとこヨロシク」
    「く…く……!」
     絶対に許さんからな!
     と言い捨ておれは部屋を出た。
     そして気付く。
     あれ……? 空調のない部屋に出て困るのはおれではないか……?
     慌てて空調のある部屋に戻ると空調はにやにやした声で戻ってきたんですかあ? おばかさん! あはは! と笑ったのでおれは怒りを堪えてああ、と言った。
     いつかスクラップにしてやる。
     だがその日は今ではない。
     闘志を燃やせ。人間のおれ。空調などに負けている場合ではない。
     闘志を!!!!!!

     おわり。
  • 熱中症ドリーミング【蟹】

    20250713(日)17:46
    「あついし頭が痛い」
    「おみずのみな、おみず」
     僕はハサミをしゃきしゃき鳴らす。
    「それもそうだね」
     と君は言う。
     ---
    「どう? 楽になった?」
    「なった」
    「よかったねえ!」
     ほんとは塩分も必要で、楽になったのは僕が熱中症を「切った」からだってことは……ま、伝えなくてもいいよね。
  • 俺は小説が書けない

    20250713(日)17:45
     土日に小説が書けなくなる。
     そういう性格をしている。
     月から金曜日。仕事から帰った後に小説を書いて、インターネットにアップロードする。毎日、毎日。
     土日。俺は寝る。朝から晩までずっと寝る。小説を書かなければという想いもあるが、できない。
     睡魔の合間にPCを立ち上げてエディタを開くが、指が固まったかのように動かない。
     俺は小説が書けなくなってしまったのか? 暗い気持ちが立ち込める。
     最悪な気持ちで過ごした土日が終わり、月曜日。
     仕事が終わってエディタを開くと、書ける。するすると書いて、アップロードまですませてしまう。
     俺は小説が書けない、小説が書ける。
     そんなよくわからないことを考えて、今日も終わって明日も終わって、また土日が来て、絶望して、また……
     回る。
     俺が潰れるまで、ずっと。
  • 子どもたち

    20250626(木)17:03
    「えーんえーん」
    「ないてるの? なぜ?」
    「かってもらったちょこをおとしたの…」
    「ちょこ? かふぇいんが はいってて こどもには よくない って おとなが いってたよ。よかったね!」
    「よくない…あのちょこがよかったんだもん…」
    「おとしたんでしょ? それもちょこっとね ちょこだけに」
    「もうきみなんてしらない! どうせきみもこどものふりしたこどもおとななんでしょ! しらない! もう! さよなら!」
    「あっどうして どうしてそんなことをいうの まってよお!」
  • 下人

    20250527(火)19:53
    「この皿をな……この皿をな……ポテチにして、ナゲットにして、売りたいと思っておるのじゃ」
     下人は却下した。皿は陶器である。どうあがいても有機物にはならぬ。
     老婆は言った。
    「特殊な生物を使ってな、ポテチナゲットにするんじゃ」
     下人は少し、そそられた。
    「ではそれをすぐおれに寄越したまえ」
     老婆は答える、
    「すぐには無理じゃ」
     それを聞いて、下人は走るのをやめた。
  • 20250526(月)21:12
    「きみの携帯端末がぬすまれた金属から作られていない証拠はあるのかい?」
    「証拠は無い。そもそもそんなもの携帯端末には使わないだろう」
    「甘いね。ロンダリングするのさ、お金みたいに」
    「嫌だな……」
     嫌だな。俺の返しはただその一言だった。
     何もかもが嫌になったし、今もそうだ。
     終わりのときまでそんな携帯端末を使い続けるのだろう。
     終わってからは、足のつかないものをどうぞ。
  • 好きこそものの上手なれ

    20250526(月)18:03
    「好きこそものの上手なれ、か」
    「何、急に」
    「蟹が好きだから海洋生物学科に入ったってことだよ」
    「そうだっけ?」
    「そう……だったと思う。中退したから蟹には話してなかったね」
    「ああ、そっかあ…君、そんなに僕のこと好きだったのか」
    「順番前後するけどね」
    「そうだね、でもありがとう」
    「お礼はいらない」
    「それでも僕が言いたかったから言うのー」
    「ははっ…なんだそれ」
    「中退しても、学んだ時間は無駄にならない…僕について学んでくれてありがとう」
     そして。
    「おやすみなさい」
     蟹の目の前から人間がすう、と消え、ややあって蟹も溶け消える。
     この世に留まり続けたものの話。
  • せめて一緒に眠れたら

    20250502(金)20:46
     眠いのに眠れない。とそれは言いました。
     羊なのに? と俺。
     それはこう返します、
     違うよ。羊だからこそ眠れないんだ。羊は他の生物に眠りを分け与えてしまうからね。だから、僕たちは不眠症なんだよ。
     これは夢。
     夢の中で、羊は言いました。
     ねえ君。君も眠れないんだろ? 丁度良かった。僕と一緒に起きていようよ。
     ……羊がいるということは俺は寝ているということで、羊がいるということは羊は起きているということ。
     二人の眠りは決して、重なり合わないのです。
     それを知ってか知らずか、羊の笑みは、横長の瞳孔をして、ね、と言いました。
     そんな夢。
  • 5月

    20250502(金)20:45
     5月の風吹く水の中、海でも川でもないここで、5月の風吹く水の中、あの子は去ってゆきました。
     もう顔も思い出せないのに声だけがくるくると回るのです。お前のことが嫌いだったよむかしから。そういうふうに、回るのです。