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Wkumo作品読解の手引きその3 ~かんたん用語解説:作中概念~

2021/02/27 18:36
 Wkumoの作品は基本的に一話完結型の読切ですが、たまに話をまたいだ共通概念が登場することがあります。
 今回の記事はなんとなくわかるようでわからないような概念の解説です。


今回取り扱う概念一覧:
 蟹、蝶、羊、裏側、雪、(番外:ノーネーム)


☆蟹

「本当だよ。君が世界に絶望して僕のことを憎んでも、僕は君を好きでいる」
「まあ君がどういう奴でも僕は蟹で、君を選んだ蟹だからね。見捨てることも去ることもないし、ずっと側にいると決めている」

解説:
 絶望に落ちた人間を「選び」、そのパートナーとなる概念。
 自称「きみのえいえんのともだち」。
 その状態を理想ととるか地獄ととるかは受け手による。

登場作品例:
『いいのかわるいのかわからない蟹』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=176&bid=1
『うちの蟹は氷属性』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=175&bid=1
『蟹にまつわる物語群』(有料書籍、蟹シリーズまとめ本)
https://poscpl.booth.pm/items/2196106



☆蝶

「何も喋らない蝶。邪魔だけをする蝶。友達になれたらよかった、だが蝶は敵である。なぜ敵なのかはわからない、たぶん俺の邪魔をするからだ」
「どこも蝶に侵食されてしまって、危険だろ」
「突然現れた蝶を前にして我々はあまりにも無力だった。説得は通じず、対話も通じず、いつ現れるかどこに現れるかも全くわからなくてじわじわと崩れていく日常に、削られる」

解説:
 世界を虚無で侵食する意志なき概念。ひらひら飛ぶ「まやかし」。
 作中人物はそれを「蝶災害」と呼び、そのような認識をしていることがあります。

登場作品例:
『蝶』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=240&bid=1
『蝶のニュースをお知らせします』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=242&bid=1
『終末は砂のごとく』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=245&bid=1https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=245&bid=1



☆羊

「苦しい夢、恐ろしい夢、怯える夢、過去の夢、ありとあらゆる俺の地獄を煮詰めたような夢を毎日毎日」
「幸い羊に押し流されていても痛かったりつらかったりするわけではないしこのままでもいいと言えばいいのだが、(中略)しかし羊はふわふわで、そのふわふわに押し流されているとぼんやり眠くなってきて」
「そう。無慈悲なのだ。羊は。夢を見ていたと思ったら現実になり、現実だと思ったら夢になっている」

解説:
 眠りを司る概念。滅ぼしもしないし救いもしない夢現のはざまの存在。
 羊に憑かれた者の周囲では夢と現実が高レベルで混ざり合い、境目がわからなくなる。
 意思があるのかないのかよくわからないが隣人であることは確か。

登場作品例:
『俺を羊が止めるから』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=285&bid=1
『裏側の裏側は羊』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=278&bid=1
『盤面は朦朧』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=279&bid=1



☆裏側

「しかし裏側に入るとできなくなることもある。自分というものがわからなくなるのだ。自分だけではない、そこに何があるのかすらわからなくなる。周囲が見えなくなるのだ」
「何をしても裏側に消えてゆく」
「裏側を積むと互いに干渉して吸い込み合ってしまうから積めないんだ」

解説:
 何らかの裏側。物の裏側かもしれないし空間の裏側かもしれない。普段は視認できない。
 「表側と裏側が存在する」。
 概念ミックスジュースであり、便利概念。舞台装置や物語のパーツとして扱われることが多い。

登場作品例:
『裏側』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=274&bid=1
『積み上げている』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=287&bid=1
『クッキーは表向き』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=281&bid=1



☆雪

「本物の雪ではない、概念の雪」
「概念の雪はたくさんのデータが砕けて集まったもので、雪の下の『見られてはいけないもの』を隠しているという」
「それは果たして認識災害、と呼ばれるものなのか、俺は知らない」

解説:
 概念の雪。降り積もったもの。
 ゆきのなかにいる。
 ただの障害物のようでその正体は「凍結された記憶の集積」であることはやや禁則事項。
 中には「危険物」が埋まっている。
 融けると「春」が来る。それが良いことなのか悪いことなのかは受け手による。

登場作品例:
『雪と世界と「もの」と俺と』(通称「雪シリーズ」)
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=295&bid=1
『悪夢の春』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=306&bid=1
『雪の友人』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=309&bid=1


◎番外

☆ノーネーム

「身体がすくんで動けない。雨と雷が合わさって、なんだかよくわからないうるさい塊が世界中に満ちている。それを認識する「僕」は音にかき消されて、怯える「僕」だけになろうとしている」
「感情が揺れるのは好きじゃない。溢れたそれらをどう扱えばいいのかわからなくなるから」
「心臓を鷲掴みにされているかのような不快感。それを作り出しているのは誰だ? 僕か? この呪詛はいったいどこからわいてきている?」

解説:
 属性。不安定の具現。名前のない個。
 一人称は「俺」だったり「僕」だったりする。
 暗めの純文系統の主人公はほぼこの属性を持つ。
 個体識別名がないこと、ネガティブ寄りのぐるぐる思考、低い自己肯定感、諦めきれない希望の残滓、どうしようもなさを抱えていること、等が主な特徴。
 心が救われたとき、その者はノーネームでなくなる。

登場作品例:
『雨のち静寂』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=114&bid=1
『追憶の忍者』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=117&bid=1
『浸食』
https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book/page?id=140&bid=1




 今回はここまで。

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