短編小説(2庫目)

「蟹、蝶、羊、裏側、雪。全員揃ってゼンインジャー!」
「なんだお前たちは」
「なんだとはなんだだよ、僕たちゼンインジャー」
「僕たち、って一人しかいないじゃないか」
「そりゃ虚無だからさ」
「説明になってない」
「てっきりメンバーが足りないって言うかと思ったよ」
「メンバー? 森のことか?」
「そうそう、なんだ気付いてたんじゃん」
「訊いてほしいのか?」
 目の前の虚無はそわそわとしている。訊いてほしいんだな。
「じゃあ訊くがな……森はどこだ?」
「聞いて驚け……森くんは! このフィールドでーす!」
「は?」
 俺は周囲を見回す。
「……森ってここのことか?」
「そう!」
「あー確かにいつもは深海なのに森になってるような気がしなくもなかったが……でもいいのかゼンインジャーに森がいなくて」
「森くんもゼンインジャーだよ、だってフィールドも僕の一部だし」
「えーそれなんか怖いんだが」
「えーひどい。そもそも君困ってたんじゃないのかい」
「困ってないぞ、今は」
「困ってないの? 僕たち出てきた意味ないじゃん!」
「意味はあるぞ」
「なんだい?」
「挨拶だ」
「挨拶ぅ!?」
「改まった場で挨拶をするのは大事だろ。みんなー、ゼンインジャーが来てくれたぞ」
「ちゃんと名前呼んでくれるのは嬉しい!」
「不満なのか嬉しいのかどっちなんだよ」
「嬉しいよぉそりゃ僕たち君のことが大好きだから」
「最初から好感度高すぎだろ」
「あ、ちょっと盛った」
「盛ったのかよ」
「大好きというか君がいなきゃ僕たち成り立たないしまあ」
「淡泊だな」
「虚無なので」
「はあ。そういうわけでよくわからないゼンインジャーたちの紹介だった」
「よくわからないって言われてもいいもん虚無だし」
「はあ……」
 なんだかよくわからないが、今年もよくわからない年になりそうだ。
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