短編小説(2庫目)

「お前が好きだったんだ」
「それは嘘?」
「どうだろう、わからない」
「わからないことは言わない方がいいよ、軋轢を生む」
 軋轢を生む、なんて言いながらも目の前の同級生はにこにこと笑っていて。
「そんなこと言われても、今日エイプリルフールだし」
 謎の言い訳をしてしまう俺。
「……ふ」
 同級生がまた、笑う。
「君が僕のことを好きだって? ちゃんちゃらおかしいね」
「な、なんてことを言うんだ。本当に好きだった場合俺に失礼だと思わないのか」
「いやあ? だって嘘だもん、知ってるよ」
「嘘じゃなかったらどうするんだよ」
「そういう風に強調するところがもう嘘っぽいんだよ」
「えー……」
 俺は言葉に詰まる。
 困った。
 ……何に?
 そもそも俺はどうしてこんなことを言い出したのだろう。
 こいつのことが好きだなんて。
 ……わからなくなったのは数日前からだった。
 こいつのことが好きなのか? 嫌いなのか? どうでもいいのか?
 なんとなく一緒にいる相手だった。
 クラスの余り物。
 行くところがないから一緒にいた。
 別に卑屈な気持ちは持ってない、便利だな、とは思っていたが。
 だが便利だけで付き合うには少々、危うい相手だとも思う。
 こいつはよく俺のことを試すようなことを言うのだ。
 と言ってもそこまで危険なことじゃない。
 この世から議論は無くなった方がいいと思う? とか、君はあいつのことが嫌いなのかい? とか、本当に些細なこと。些細だが、相手によっては気を悪くするようなことだ。
 俺は別に、何を言われたってよかった。
 何かを言われて答えるのは楽しいし、それで話が発展していくのも面白い。
 こいつが俺を試していたとしても、試し議論に「不合格」が重なっていたとしても、別にどうでもいいし。
 一緒にいられれば、それで。
 ――その辺りで気付いたのだった。
 ひょっとして俺はこいつと一緒にいたいのか? ということに。
「僕の話聞いてる?」
「あ、ああ、いや、聞いてない」
「自分から言い出した癖に聞く気がないとはひどいねえ」
「え、ごめん」
「何を気にしてるの?」
「何を気にしてるって……」
 そりゃ一つしかないだろう。
 俺が、こいつを、好きなのかって。
「そもそも好き『だった』って何さ、『だった』って。今は好きじゃないみたいじゃないか」
「あ、ああすまん」
「そういうのは普通『好きです』じゃないのかい」
「え、あ、そうだな」
「やり直し」
「やり直し? 嘘なのにか?」
「嘘だからこそだよ。こういうのは拘りが大事なんだよ。プロは嘘を吐くときですら本気を出すんだよ」
「嘘に本気出したくないんだが」
「じゃあ嘘じゃないってことでもいいよ」
「やり直せばいいんだな?」
 同級生は頷く。
「……俺はお前が好きだ」
「……、」
 同級生は一瞬大きく目を見開く。
 そして、沈黙。
「どうだった?」
「……いや、驚いたよ」
「何に驚いたんだ」
「嘘じゃないことは午後になってから言えって言われなかった?」
「な、お前、何考えてるんだ」
「いやあ……エイプリルフールに告白なんて」
「違うぞ、違うから」
「何が違うの?」
「わからないんだよ俺は本当のことが……」
「ゆっくり解き明かしていけばいいじゃないか」
「そういう問題じゃない、わからないとしっくりこないんだよ」
「わからないって、真実は一つしかないじゃないか」
「何だ」
「君は僕を好きってことだろ」
「はあー?」
「続きは午後で」
「Webでみたいに言うのやめろよ」
「ふふふ……」
 笑う、こいつの表情は今まで見たこともないような顔で。
 ああこいつ今たぶん嬉しいんだな……と思ったのと、なんかたぶんこいつも俺のこと好きだな……と思った、それは午後に明らかになることで、真実どうだったかは伏せておく。
 だって恥ずかしいし。
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