短編小説(2庫目)

 同じところで回り続けていると、地面に穴が空いてめりこむんじゃないかと思うだろう。
 ところが思考だとそんなことは起こらない。
 いくら回しても表面をなぞるだけで、決定的なところに辿り着くことはない……たぶん。
 いや、ひょっとすると、そう思っていただけなのかもしれない。
 本当にそうであるならば、今俺が回っているところにふと浮いてきたこの「決定的な真実」の説明がつかなくなる。
 「決定的な真実」とは何か。
 そりゃもう決定的な真実だよ。決定的に危険で、真実のように確からしく、俺の■を表すような……そんな真実。
 普通に暮らしてる奴はそんな真実なんかとはお近づきになりたくはないはずだ。俺だってそうだ。
 だが回り続けるうちに浮いてきたんだな。真実が。
 真実って何だ? そんなものが本当にあるのか? こんな真実なんて本当はまやかしで、何の役にも立たない幻想なんじゃないのか?
 そうやって回してみても、真実はしらじらしく鋭く、冴えた確からしさでそこにあるだけ。
 そういうものを前にすると俺は困ってしまう。どうすればいいのかわからなくなるからだ。
 真実が何の役に立つ? 真実は俺自身に穴を空けて苛むだけだ。前に進む役に立つとか、新たな道を開く役に立つとか、そういうことは全くない。
 つまらないにもほどがある。というのはまあ、強がりなのかもしれない。
 結局のところ、俺はどう足掻こうがこの「決定的な真実」に勝つことはできないのだから。
 困ったものだ。
 困った、困った、と繰り返すうちにこれが再び埋まってくれれば幸いなのだが、残念ながらそうもいかずに。
 真実よりも強力なまやかしが現れてくれさえすれば俺は希望を失わずに生きてゆける。そう思う。そのはず。
 それが蝶でも構わない。ただこの、和らげようもない真実を埋めてくれるならなんでもいいんだ。
 そう主張しているときに限って何も来ないのはわかっている。ただひたすら一人で苦しむだけ。
 おそらく蝶を探しているのはそういう人々なんだろうな。
 救いがない。
 いっそみんなで集まって同好会でも作ったらどうだ。
 ナンセンスだって?
 はあ。
 それじゃあまあ、俺は回り続けなきゃいけないのでこの辺で。
 また。
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