『青服の日常』より

 夜に寝て夜起きる。
 明け方に寝て夜起きる。
 朝方に寝て夜起きる。
 俺に昼間は存在しない。いつから寝ても夜起きる。
 起きていても寝ていても意識はぼんやり霧に包まれたよう、認識も思考もろくにできやしない。
 始終続く眠気に参ってしまったのか、それとも他の何かに参ってしまったのか。
 わからないまま時間が過ぎる。
 GWに入って調子を崩したのが最初だった。GWが明けても調子は崩れたまま、会社に電話してずるずると有休を消費する。
 明日こそ起きて会社に行かなければと思うのだが、目が覚めるのは夜である。
 幼い頃から「変わった人間」だと言われ続けてきた。理由はわからない。自分では普通だと思っている。今だってそうだ。
 ただなんとなく朝起きられなくなっていき、身体が重くなっていき、昔から感じていた憂鬱が強く、強く、心を呑み込み支配していき。どうしてそうなったのかはよくわからない。
 仕事は嫌いだ。できたらしたくない。仕事中はいつもこの仕事を辞めて転職する妄想ばかりしていた。
 いくら仕事をこなしても迫る締め切りに謝罪の電話ばかりかける。それがつらかったのかと考えてみても、よくわからない。普通はどうなのだろう。
 今はただ眠い。起きなければとわかっているのに眠くてたまらない。うとうととまどろんで、浮上しては沈み、沈んでは浮き上がり、寝ても寝ても寝ても寝ても眠いまま。
 明け方と朝の境目、朝と昼の境目、昼と夕方の境目がない。あるのは夜だけ。夜しかない。
 夜は優しいなんて嘘だと思う。意識のある夜は後悔と自責の時間だ。そこに優しさなんてものは欠片もなくて、ただただ苦しみ。意識とは苦しみ、されば俺にとってこの世は地獄と似たものなのかもしれない。
 意識があるまま生きている人々のことを尊敬する。今の俺にはできないことだからだ。俺はこうしてふわふわ夢幻をさまよいながら思考とも妄想ともつかぬことを回すだけ。意識ではない。現実でもない。次の瞬間には忘れてしまう思考の集積を無意識に降り積もらせて眠っている。そんな日々が続いて続いて続いて。
 ある朝俺は目を覚ました。
 頭が妙にすっきりしていて、今日こそ元気に会社に行けそうな。
 シャワーを浴びて、身支度をして、部屋を出る。
 天気は快晴。初夏の候。
 鞄を提げて駅までの道をすたすた歩いた。
 元気だ。
 駅はいつものように混んでいて、滑り込んでくる電車に、

 
 ――――。


 気付くと俺は向こう側のホームにいた。
「……」
 失敗した。
 どうやら線路を飛び越えてしまったらしい。
 力加減を誤ったか。
 下り方面のホームにはほとんど人がいない。上り電車は行ってしまった。
 遅刻か。
 ため息をつく俺に、
「やあやあ」
 肩に置かれた手。
「転職する気はないかな?」
 俺とボスとの出会いは初夏だった。
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