探しものは月より

 灰色の雪の降る日。
「保安官さーん雪合戦しましょ雪合戦」
「冗談はよせ」
「俺一回やってみたかったんですよね雪合戦」
「概念の存在は雪には触れない。わかっているだろう」
「綺麗なのになあ」
 はらはらと降る雪を眺める売り子。
 保安官は詰め所の外で何やら作業をしている。
「でも雪綺麗だなあ」
「この辺に住んでいるのならそう珍しくもないだろうに」
「つってもそこまで降らなくないですか?」
「まあ……昔ほどは降らなくなったな」
「ですよね」
「お前は雪が好きなのか?」
「保安官さんひょっとして俺に興味ある?」
「違う、これは民間人の好みも把握しておこうという職務上の義務であり……」
「雪は好きですよ」
 売り子が降ってくる雪に手を伸ばす、雪はすり抜け地に落ちる。
「なんか、儚いでしょ」
「儚いのはよくないことだろう」
「美しいじゃないですか」
「美しい? そんな価値基準で物事を判断するのはどうかと思うがな」
「保安官さん風情なーい。そんなだから友達できないんですよ。まあ俺は友達だけど」
「は……?」
「俺たちの存在は長いんですから、日常の中に愛でるものを見つけて精神を高揚させていくことは大事だと思いますけどね」
「そんなことをせずとも、義務感のみで生きれば良いだろう」
「みんながみんな使命のある保安官さんみたいな人じゃないですからね。特に俺みたいな民間人は使命のない奴の方が多いくらいです」
「……」
「使命がなくたって人生は続くんですよ。存在してしまった以上はね」
「お前の話はよくわからん」
「ふふ……」
「さ、組み上がったぞ」
 できあがった不定形の機械のようなものをぱし、と叩く保安官。
「さっきから何作ってるんです?」
「馬だ」
「馬?」
「まあ、乗り物だな」
「保安官さん乗り物持ってなかったんですか?」
「この辺りは狭いし、必要がなかった。支給もされていないしな。だが今後のことを考えると必要になってくるやもと思ってな」
「ふうん。先のことちゃんと考えて偉いですね」
「くだらんことを言ってないで、行くぞ」
「どこにですか?」
「お前の店にだ」
「え、なんで?」
「お前を泉に連れていく許可を取らねばならん」
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