雪と世界と「もの」と俺と(番外編)

 裏返した。裏返した。裏返した。
 友人だったのかもわからない遠くの友人が、雪に取り込まれたという。
 取り込まれた、というのがどういうことかはわからない。
 雪、というのも何なのかわからない。
 そもそもそんな情報がどこからもたらされたのかもわからない。共通の友人たちは既に散り散りになってしまったし、俺は一人暮らしだ。
 情報がもたらされたのは? 思い返してみてもぼんやりと霞んでおり要領を得ない。
 そうして遠くの友人を探しに行こうと思ったのは夢の中。
 こんなご時世でも夢の中であれば自由に人に会える。誰に遠慮することもない。
 だが夢から夢へ移動することなどできるのか? いや、夢の中であればできるのか?
 よくわからないが俺は歩いた。
 歩いて歩いて歩いた。
 途中で眠くなって寝落ちて夢を見て、その夢の中でも歩いてまた眠くなって寝落ちて夢を見て、何階層もの夢を下へ下へと下って行って、辿りついたのは、
 灰色。
 一面灰色。
 なるほどここが行き止まりなのか。
 それで遠くの友人はどこにいるのだろうか、ここにいるのだろうか。
 灰色の世界には雪が降っており、強い風がそれを吹き寄せる、これは、吹雪だ。
 不思議と寒くはない。夢の中だからな。しかし視界は悪い。ただただ灰色。
 こんな世界にあいつはいるのだろうか。
 遠く霞んだ先に人影を見つけたような気がして、声を出そうとして、
「あ」
 ぱちん。
 カーテンの隙間から薄明かり。
 目が覚めたのだ。なるほどね。
 あの人影が遠くの友人だったのかどうかはわからない。もう一度会いに行くにはもう一度夢に入る必要がある、が、朝が来た。
 急激に記憶が薄れてゆく。そんな友人は本当にいたのだったか。
 遠く。遠く。
 別に悲しいわけじゃない。けれど、何も掬えなかった自分のことを、ああ、と思って、それで。
 裏返して、終わり。
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