短編小説

「クリスマスクリスマス!」
「いいか蟹、クリスマスなんてものはないんだ」
「クリスマスはあるもん!」
「ないんだ」
「あるよ。君が知らないだけだよ!」
「でもサンタは来ないんだ」
「来るって!」
「来ない」
「来るもんー!」
 そう言うと蟹は怒ってふて寝をしてしまった。と言ってももう深夜だし寝る時間だし、ふて寝と言っても健康的なふて寝だよな。
 じゃあいいのか?
 よくないよなあ。喧嘩しっぱなしだと雰囲気がよくない。
 でも蟹は寝てしまった。
 蟹はサンタが来ると思ってる。誰がプレゼント用意するんだ。俺がするしかない。蟹の夢を壊さないためには……
 そう思って次の日街に行ったけどよく考えると蟹と俺は常に一緒にいるから秘密のプレゼントとかとても買えない。普通にばれる。
「ねー今日は何買うの?」
「え、その……あんまり決めずに出てきた、とりあえず牛乳切れてるし買う」
「いい牛乳買おうよ」
「いい牛乳は高い」
「その点蟹印の牛乳は安くておいしい、理想の牛乳だよね!」
「え、なんか怖っ」
「えっひどい」
「そんなとこまで蟹に頼ったらなんか俺ダメになりそうだし買わないよ蟹印は」
「えー。おいしいのになー」
「いつもの成分無調整のやつな」
「おいしいやつだ! やったー!」
 そんな感じでわちゃわちゃやってたら秘密で買うとか無理だし、無理だった。
 そんな感じでクリスマスイブになった。
 一応明日通販で蟹の好きなうどんが届くようにしてあるが、通販は通販であってサンタじゃない。
 どうしよう、今日蟹の夢が壊れてしまうかもしれない。
 そう思うと眠ることもできなくて、すやすや寝ている蟹の隣でじりじりと起きていた。
 どうしよう。
 どうしようもない。
 寝た方がいいのはわかってるんだが。
「ホーホーホー」
「な、何だ!?」
「サンタじゃよ」
「ふ、不審者!」
「不審者ではない、サンタじゃ」
「さ、サンタ……本物?」
「サンタ協会から派遣された本物じゃよ」
「なんか怪しいな……」
「蟹くんと、あと相棒の君にプレゼントじゃ」
「プレゼント?」
「中身は開けてみてのおたのしみ! では、よいクリスマスを~」
 シャンシャンシャンシャン。
 サンタは去って行った。
 プレゼントを置いて。
 
 次の日。
「サンタ! サンタが来たんだ!」
 はしゃぐ蟹の声で目が覚めた。
「プレゼント開けずに走り回って何してんだ」
「君が起きたら一緒に開けようと思ったんだよ!」
「……」
 こいつ妙なところで律儀だよな。
「さー開けよう開けよう、何かなー!」
 ちょきん、とリボンを切り、包装紙を切り、中から出てきたのは。
「サンタ印の特製めんつゆセットー! 僕と、君にだって! やったー! ……でも……うどんがないよ」
「そこは心配ない」
 ぴんぽーん。
 インターホンが鳴って配達員さんが持ってきた包みは、
「うどんだー! おいしいやつだー!」
「俺からお前にクリスマスプレゼントだ、蟹」
「えっ僕、君に何も用意してないのにもらっちゃっていいの」
「お前がいるだけで毎日がプレゼントだよ、なーんて……」
 自分でもキザすぎることを言ったと思ったが、蟹が夢を壊されずにすんだことに安心してしまって普段言わないようなことを言ってもおかしくはないいやおかしいのか、よくわからないが俺はなんだかほっとしていた。
「ありがとう! じゃあ僕うどん作るね! 一緒に食べよう!」
「ああ」
 最初の頃はこんな平穏すぐ終わってしまうだろうなんて思っていたがよくわからない日常は案外長く続いていて。
「ずっと続くよ、蟹は永遠!」
「永遠なんてないだろ……」
「永遠はないけど蟹は特別。永遠を可能にする概念だからね」
「また何か怪しいことを言う」
「怪しくないもん!」
「怪しい」
「怪しくない!」
「わかったわかった」
 でもまあ怪しかろうが怪しくなかろうが、今の日常はそう悪くはないななどと思う俺も大概ほだされているんだろうな。
 そんな日常。
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