短編小説

 遠くに行った者に声を届ける術はあるのだろうか。
 とまで考えて、ないな、と戻る。
 あったらとっくにやっている。ないからこそ、全てのそれは自己満足で終わる。
 なんて考えられるようになったのもほんの最近のことで、最近、それまでは怒り、それ一色だった。
 去る者は勝手だ。皆、勝手に置いていく。それも突然、心の準備もできないうちから。
 心の準備をしてたってそのときがやってくるのは突然だ。突然の来訪に全ての準備は霞んでなくなってしまう。
 そういうもの。
 おそらくきっと。
 俺はそうだった。
 覚悟なんて何の役にも立たないし、覚悟で受け入れられた、と思ってたって数年経てばぶり返す。
 結局いつかは向き合わなければいけないのだ。
 去る者は去る、突然に。それを止める術はない。俺がどう頑張ったって去る者は去る。
 生ある以上いつか消える。当然のことを受け入れられないまま随分と経ってしまった。
 日常が欠けるから喪失を覚えるのか、覚えていた日常をいつまでも回してしまうのも喪失の一環なのか、それもわからない。
 だからこうして出さない手紙を端末の中に作り続けているのだし。
 喪なのだろう。
 そう思う。
 俺が悼もうが悼むまいが誰にも何も影響しないし、悼むというのは個人的な行為で他者には関係しない、そう思うとやめたっていいんじゃないかと思うけど、でもやめはしない。
 やめられないまま俺は毎日積むのだろう。
 届かない手紙を。
 ずっと。
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