短編小説

 旅が終われど怨嗟は消えぬ。
 濁りきったそれは■の中で渦巻き、ぐるぐると回り続ける。
 もう恨む元気すらないと思っていた。そんなことをしても無駄だとわかっているからだ。
 なのにそれが消えてくれないのはどういうわけだろうか。
 一巡前の私は死んだ。遠く、遠くにかすれて消えた。それだけがわかっていること。
 前の記憶はなくなった。引き継ぎを失敗したのか、ぼんやりかすれて思い出せない。
 ふとしたとき、スイッチが入ったかのように繰り返される壊れた記憶。
 それがいつのものだったのかはわからない。ただ、不要だ、と思うだけ。
 いつまで恨み続けなければいけないのかもわからない。無残で無駄で無意味なことを。
 恨まなければいけないと思っているのかもしれない。そうしないと申し訳が立たないと。
 それは誰に?
 忘れてしまった。
 畢竟、忘れてしまった方が人生は幸せなのだ。
 本当に?
 わからない。黒々とした怨嗟が渦巻くだけ。
 喧噪は遠く。
 二度と戻ることがなければ良い、と思う。
 思うだけ。
 纏わり付いて離れない、黒々としたものたち。
 それらを引きずって歩くだけ。
 終わってなどいない、永遠に続くのだろう。
 この旅は、ずっと。
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