短編小説

「8月……嘘だろ? 返事してくれよ、8月……! なあ! 8月!」
「……何だ、耳元でうるせえ」
「8月! ……よかった、まだ……生きて……」
「そんな顔すんなよ。8月が去れば9月のヤローが来る。9月が消えればまた10月。そうやって来年も俺は来んだよ……な?」
「でも……でも! 今年のお前はお前しかいないんだ! 今年のお前が死んだらもう、同じお前はやっては来ない!」
「湿っぽい奴だな。季節は巡る。もうすぐいなくなる奴のことで悲しんだって仕方ないだろうが」
「8月……お前のそういうところ、強いくせに、おしまいは嘘みたいに消えてしまうお前のそういうところが……俺は……」
「やめろよ人間。ヒトは脆い。俺がずっといたらお前らは死んじまう」
「だけど……!」
「来年また歓迎してくれよ。日差し、連れてくるから」
「8月……」
「俺ァ寝る。起こすなよ」
「8月……!」
 そうして8月は……

「暑い! 意味わからん! あいつ死んだんじゃなかったのか!」
「言うてあと6日だぜ? 気が早かったな」
「は、8月!」
「もうちょっと付き合ってくれや、ほれポカリ」
「暑さまだまだ厳しい折、水分補給を忘れずに!」
「8月の提供でお送りしましたァってな」


(おわり)
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