短編小説

「蟹はどこにいる?」
「蟹なんてここにはいませんよ」
「それはおかしい。いるはずだ」
「どうしてそう思うんです?」
「私が持っている蟹センサーが反応している」
「へえ。その蟹センサー、とやらは一体どの程度信用できるものなんですか?」
「100%だ。試験は全て成功した」
「そんなことを言われましても、ここには蟹はいないんです」
「隠し立てするとためにならんぞ」
「隠してなんかいませんって」
「捜索させてもらう」
「待ってください、何の権限があってそんなことをするんです」
「令状が出ている」
「どこから?」
「蟹ハンター本部、蟹対策委員会からだ」
「内部組織じゃないですか、却下」
「な、」
「帰ってください」
 俺は蟹ハンターを締め出し、ドアをばたんと閉め、鍵とチェーンロックをかけた。
「ねーもう出ていい?」
「どうかな……」
「蟹ハンターなんかが僕をどうこうできるわけないじゃん。舐めてるの?」
「舐めてなんかないさ。でも万が一ということがあるじゃないか」
「信用ないなあ。蟹は概念だよ? 選ばれていない者は触れない」
「だが蟹ハンターは蟹を処理しただの何だの発表しているじゃないか」
「はぐれ蟹でしょー? 誰かを選んでる蟹が処理なんてされないよ、されたらパートナーの人間も死ぬし」
「今衝撃の新事実漏らさなかったか?」
「えー、そんな衝撃でもなくない?」
「衝撃だよ……」
「君は僕と一緒に死ぬのは嫌?」
「何てことを訊くんだ、邪悪だぞ」
「蟹は人間にとっては邪悪な場合もあります」
「急に説明口調になるのやめろ」
「いやまぁさー、そんなときが来たら僕は君との繋がりを先に断つつもりだけどさぁ。だって君が死んじゃうの嫌だもん」
「……」
「なんか暗い話になっちゃったねー! さ、昼ごはん食べようよ、今日は冷やしうどんだよ!」
「……ああ」
 夏の陽はまだ高い。
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