短編小説

 ずっと子供でいたかった。
 子供でいれば、責任を負わなくていい。ミスしても、失敗しても、失言しても、寝坊しても、最終的には許されるからだ。
 そんな子供っぽい思いを抱えながら休日に惰眠を貪る。
 寝ても寝ても眠い。
 延びる睡眠時間に減る活動時間。休日はいつもこうだ、下手をすると平日もこうだ。会社をサボって眠っている。
 起きている時間より寝ている時間の方が長いなら、俺は人生を眠って生きているということになるのだろうか。
 人生の目的が寝ること。
 それはあまりにも虚無だなあ、なんて考えることもあるが、そんなことを考える余裕があるのは夜だけ。日中は眠い、ただ眠い、だから寝て、寝て。
 お腹が空いても眠ったまま。お腹を空かせて夜目覚める。
 こんなの絶対胃に悪い。わかっているのにやめられない。理屈じゃないんだ、睡眠は。
 眠っている間は悪夢にうなされる。過去を歪めて拡大した、ぐるぐる回る夢。
 疲れているのだろうか。それにしてはいくら寝ても疲れらしきものが取れないのはどういうわけだ。歳だろうか。
 それなら俺はいったいいつから眠かったんだ?
 考えてみても思い出せない。過去はぼんやり朧げで、思い返すと頭が痛む。
 ひょっとすると俺はつい最近この部屋に現れた存在で、眠るためだけに生まれ、眠るためだけに生き、会社に行っている俺はまやかしで、本当の俺は夢の中、ぐるぐる同じところだけ回って苦しんでいる最高につまらない存在なのかもしれない。
 冗談で済ませられる話じゃない。寝ている時間の方が長いなら、寝ている俺が本当の俺かもしれないだろ。
 夢うつつ、わけのわからない考えをぐるぐる回すうちにもっと眠くなって、寝て、思考が途切れて、目が覚めて、夜。
 ああ生きていたくないなあと思いながら明日もきっと寝ているし悪夢も見る。
 それしかないんだ。
 それしかないから……今日も、生きる(眠る)しかない。
 ずっと。
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