短編小説

「待って待って、追いつけないよ」
「頑張れーあとちょっとー頑張れー頑張れー」
「ひい……ふう……」
「頑張れー、負けるなー」



「待って……無理……追いつけないよ……」
「頑張って頑張って、気合だよ気合! あ、気合って死語?」
「待って……本当に無理だよぉ……」
「頑張って頑張って!」



「待って待って、追いつけないよ」
「……もちろん」
「……え?」
「待ってあげるよ、僕の優しさに感謝して」
「君……」
「どうしたの」
「なんか今日、おかしくない?」
「僕はいつも通りだよ」
「翼の色もいつもと違くない? イメチェンした?」
「いつもと同じだよ?」
「そう? それならいいけど」



「待って待って……あれ?」
 いない。
 どこにも。
「君ー? どこに行ったのー?」
 見回しても君のきの字もない。
「おかしいな……」
 ひらり、と黒い羽根が落ちてきて、見上げると――


(おわり)
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