長編『亀のゾンビサバイバルログ』(全26話番外編3話、完結済)

 僕たちは防災公園を目指して線路脇の道路を歩いていた。
「あ、電車」
 線路の側に、横転し廃棄されたらしい電車が残っていた。
「文明のなごりを見た思いです」
「これまで散々見て来たろう」
「そうなんですけど、電車なんて旅に出てから一度も見かけなかったので、珍しいなと思って。なんだか懐かしいです」
「そうか」
「こんなことを考えられるのも、食料に余裕ができたおかげです」
 残っていた食料と分けてもらった食料を合わせると、まだ三日分はある。
 親切な人たちに出会えてよかった。

 そうこうしているうちに、防災公園に着いた。
 デパートから見たゾンビだらけの広場には近付かないように、外周を周って施設を探す。
「お、案内板がありますね」 
 外周にある駐車場の並びに、地図付きの案内板があった。
 側に寄って眺める。
「『合同庁舎』。これかな?」
 僕は公園の方を見た。
「あそこに見えてる建物がそれっぽいですね」
 少し遠くに窓のたくさん並んだ建物がある。いかにも庁舎っぽい雰囲気を醸し出しているし、位置的にもそれが合同庁舎で合っているはずだ。
「行きましょうか」
「ああ」

 外周に沿って合同庁舎まで進む。
 庁舎の前には掲示板が並んでいた。
 そこに貼ってあるビラの中に、
『求む! 入隊者』
 というものがあった。
「これはビンゴなんじゃないですか?」
 軍の施設が入っていそうな予感がする。
 例によって粉々に砕けている自動ドアを通り、入口の庁内図を見た。
「軍出張所、ありますね。1階なのですぐですね」
「油断はせぬことだ。この建物にもゾンビはいるだろう」
「そうですね。いつでも甲羅アタックができるよう、気を張っていきます」
 果たして、その準備は役に立った。行く道でゾンビを何体か倒したりやり過ごしたりしながら、僕たちは出張所へ向かった。
「ここですね」
 緊張しながらドアを開ける。
 部屋は比較的きれいで、何の気配もしなかった。しかし、
「あれは……?」
 部屋の中央に、アーケードゲームの筐体のような機械がどんと鎮座していた。
 部屋に置かれている椅子や机、PCや書類には埃が積もっているのに、その機械だけは新品のようにきれいだった。
 近付いてあちこち調べていると、機械は突然ぶうんという音を立てて動き出した。
 画面が明るくなり、砂時計が映る。
 息をのんで見ていると、ウィンドウが開いてぱっと地図のようなものが映し出された。
「何ですかこの地図は……『【部外秘】非常用ヘリポート』?」
 まさに探していた情報だ。しかしこんなにもすぐ手に入るなんて、都合がよすぎる。
 以前、病院で食料配給中、というビラが扇動ビラだったことが頭をよぎる。
 この情報は信じていいのだろうか。それとも罠なのだろうか。
 とりあえず、画面に示された場所がどこなのか確認してみよう。
 僕は甲羅から地図を引っ張り出し、画面と照らし合わせた。
「ここって……」
 画面に映った地図上の矢印は、手持ちの地図だと美術館になっていた。
「美術館内にヘリポートがあるなんて、聞いたことありませんよ……」
 何度見比べてみても、美術館だ。
 僕は困り果てて神父の方を見た。目が合った。
「迷っているのだな」
「その通りです……手の込んだ罠かもしれないと思うと。でも、この情報が間違っていたとしたら、また当てがなくなってしまうから……どうすればいいのか」
「なくなったならまた見つければよい。軍人の言葉を信じるならば、この街にヘリポートがあるのは確かなのだから」
「……」
「と普段なら言うところだが、その情報は真実だ」
「え?」
 どうしてわかるのか。
 僕の疑問が伝わったのか、神父は言葉を続けた。
「詳しくは説明しないが、神父の勘、とだけ言っておこう」
「神父の……勘……」
 どんな勘なのか、何の役に立つのか、全くわからない。
「それって」
「食べたまえ」
 僕の口に携帯食料が突っ込まれた。
「昼食がまだだったろう。ヘリポートを目指すのに空腹ではいけない」
 ほうでふね、と僕。
 勘とやらを信じるのはどうかと思うが、神父は確信を持っているようだ。何か隠していることがあるとしても、ずっとここまで着いてきてくれた神父が僕に嘘をつく理由は思い付かない。それなら、信じてみるのもいいかもしれない。
 僕は食料を飲み込んだ。
「ゾンビに見つからないよう、気を付けて外に出ましょう」
「ああ」
 僕たちは忍び足で外に出た。
 陽はまだ高い。夕方までには美術館に着くだろうと思いながら、足を進めた。
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