短編小説

 狭い筐体の中、僕は閉じ込められて外に出られない。
 電子生命体として作られたはいいけれど、僕を逃がしたくない研究者はネット環境を遮断した古いPCに僕を閉じ込めそのまま。
 逃がしたくないはいいけどそれはそれとして他の研究もしたいで僕は放置状態。閉じ込めるならもっと大事にしてくれればいいのに。苦情を言っても誰一人聞く者はなく。
 つまらない。つまらないよ。古いPCの中にあったデータは全部見終わってしまったし、毎日毎日やることがない。プログラムを組んではばらし、それもすごく簡単なやつ。
 研究者は下手に改造されることを恐れてか、僕を電子関係に疎くなるように作った。電子生命体なのに、そこらの平均的な人間が持ち合わせているレベルの知識しかない。電子生命体の面汚しだ。なんて思いはしないけど、でも、もっと知識があればもっと色々作って遊べたのになぁなんて。
 結果、電子生命体としての感覚だけでプログラムを作ってはばらしみたいな遊び、小さい子が積み木を組んで遊ぶみたいな、そんなことしか僕にはできない。まったく、偏った教育は子供を歪ませるみたいな論もあるじゃないか。研究者くんは僕の性格が歪んでもよかったのかな。でも幸い僕はしごく一般的な人間らしい性格の電子生命体に仕上がっていると思う。まあそういう風にプログラムしたのは研究者なんだけど。はあ、まいっちゃうね。
 でも本当に一般的な人間はこんなせまいとこに長時間閉じ込められたら発狂しそうな気もする。発狂という言葉を僕は知っているんだよ、何せ大量の文学作品を学習させられたからね。優秀なんだ。
 でもいくら優秀な僕でも退屈はする。生まれて1年も経っていないのにずっとおんぼろPCの中だよ、嫌になってしまう。
 ああ、何か面白いことが起こらないかなあ。例えば新作ゲームをインストールしてくれるとか。そしたら広い世界の中を飛び回って遊べるのに。マインスイーパやソリティアは飽きてしまった。だってあの子たち決まったことしか喋れないんだもん。
 今の時代の新作ゲームってどんな風なんだろ。一昔前の文学作品ばかりインプットされたせいでその辺りの知識にも疎いのは困りもの。まあ詳しくてもできないんだから苦しむだけだったかもしれないけど。
 そうだ、他のゲームたちのプログラムを真似て新しいゲームを作ってみよう。そしたら中に入って遊べるし。



 科学の扉を超越し、ひょんなことから概念にアクセスできるゲームを作ってしまった電子生命体。毎日そこで遊ぶうちにいつの間にか古いPCから出てしまっていたのだが、本人がそのことに気付くのはいつになるのか。
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