短編小説

 今年のエイプリルフールに嘘はないと聞いたのはいつからだったか。
 随分前だったような気もするし、つい最近のことだったような気もする。
 確認してみると、一週間も経っていなかった。まあそんなものだろう。たぬきも行列を自粛しているというし。
 桜を見に行けないのでSNSで「よくね?」と検索する。すると桜の写真がたくさん出てくる。きっとデジタル花見をしようとする者たちへの配慮なんだろう。現代はありがたい。
 技術が色々と進み、きつねが外に出なくても過ごせるようになったのは昔の話。
 今の俺はヒトに化けたきつねであり、ヒトに合わせた生活をする必要があるためまだ外には出なければいけない。そうしなければ怪しまれてしまう。会社にも所属しているしな。しかし我が社はまだテレワークにならないのか。体制が古いので対応できていないのか、いつもはすぐに政府の言うことを聞くというのに珍しい。珍しがってる場合じゃないが。
 里のきつねたちは全く連絡してこない。あっちもあっちで封鎖されているし、使用電力をこっちとの通信に割く余力の問題もあるから連絡しろと言ってもしょうがないんだろうが。
 里を出るとき、意固地にならずに勾玉をもらっておけばよかったと思うが、今さら言っても仕方ない。ヒトは勾玉使って連絡取ったりしないもんな。
 そんな風にヒト社会に合わせてのたのたと今日も生きるし、明日も生きるんだろう。
 だが案外すぐに■■■。
 きっと俺はもうすぐきつねから外れてしまうのだろう。なぜかわからないが、そんな確信がある。
 ヒト社会に入る前はこんなきつね社会なんてすぐに出てやる、こっちから願い下げだなんて思っていたのだが、いざ完全なるヒトに近付いてみると存外寂しくなるものだ。
 完全なるヒトに近付いた、なんて幻想でしかなく、俺の意識が俺のままである限りはどんなにヒトになっても「元きつねのヒト」でしかない。それが嫌なら意識までもを化かすしかない。意識まで化かすのが真のきつねであると里では言われていたが、俺はきつねではなくもはやヒトなのだから意識まで化かすなんてナンセンスなことはしない。だがそうしなければいつまでも真のヒトにはなれないなんて皮肉なものだ。
 問題は一体何なのか。いや。本当は問題などない。問題などないのだ。どこにも。と、そんな風に自分を騙している時点で、俺も大概真のきつねの素質があったのかもしれない。
 「よくね?」で溢れる検索結果と桜を見ながらエナジードリンクの蓋を開けた。
 明日もきつね。
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