探しものは月より

「あ、保安官さーん」
 遠くから保安官を見つけ、売り子は手を振って駆け寄った。
「何だ売り子、気安く話しかけるんじゃない」
「えー。この前泉まで連れてってあげたじゃないですか」
「それとこれとは話が別だ」
「保安官は地域の安全を守る、民間人と仲良くお話しするのも地域の安全を守ることになるんじゃないですか?」
「つくづくあの店の売り子だな、お前は」
「そう言われると嫌なんですけど」
「はあ。俺はうさぎ探しに忙しいのだ、お前と遊んでいる暇はない」
「ひどいなー。ちょっとは感謝してくれてもいいじゃないですか」
 売り子が保安官の腕に纏わり付く。
「ええい鬱陶しい、やめろ」
 振り払う保安官。
「いいじゃないですかーちょっとくらいサボっても」
「お前、やはり俺にサボらせる魂胆だったのだろう!」
「遊びましょうよー、暇なんですよー」
「店はどうした」
「うちのてんちょー、あんなだからお客さん全然来ないんですよ。知ってるでしょ」
「いや、知らなかったが」
「はー、つまり保安官さんはてんちょーのことよく知らなかったからあんな目に遭わされちゃったんですね……うちのてんちょー性格悪いし警戒しないとだめですよ」
「もう存じている」
「そうですかー?」
「しつこいな」
「保安官さーんいちいち言葉がきつい。そんなんじゃ友達できませんよ?」
「と、友達など」
「いないんですか?」
「保安官に友など必要ない!」
「そんなこと言っちゃって、本当は寂しいんじゃないですかー?」
「何を馬鹿な!」
 強引に売り子との視線を切り、すたすたと歩き去る保安官。
「あー……行っちゃった」
 売り子は片方の手の平をひら、と上に向けた。
「頑固な人だなあ」
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