短編小説

「つまらない。せっかく勇者だったのにどうして現代なんぞに転生してしまったんだ、君は」
「そういうお前こそ、この世界からあっちへの転移者だったって黙ってたのかよ」
「言ってもわからなかっただろう」
「そうだけど!」
「僕のことがわかるということは異世界の記憶があるんだろう。何もしないなんて勿体ない。一般人で終わる奴じゃないだろう君は」
「俺は現状が気に入ってんだよ」
「じゃあ言い方を変えよう。我と共に独立しないか、勇者よ。独立の暁には副代表の座をやろう」
「わざと断られるような頼み方してんじゃねえよ」
「君が現状に満足しているなら承諾するわけがない。異世界のことを忘れて生きていく選択をするってなら僕はまあ引き下がるさ」
「別に副代表の座なんてもらわなくてもお前が行くなら付き合うって」
「え、なんで?」
「お前友達いないだろ。ここで会ったのも何かの縁、あの世界でああしていたお前を還してしまった責任は取るさ」
「僕は君の可能性を勿体ないと思って誘っているだけだ。友達だとか責任だとか、そんなもの感じてもらう必要はない」
「はいはいわかってるって。俺はお前の信じた俺の可能性を活かすために着いていく、それでいいだろ」
「む、まあ、それなら……」
「決まりだな」
「ああ……うん、よし。いいだろう。じゃあ、定款とか大枠は決まっているんだが、君の意見も聞きたい。今日上がったら打ち合わせしよう」
「急に具体的」
「当然だ。僕は僕たちの未来を誰よりも真面目に考えているんだ」
「……ふふ」
「なぜ笑う」
「いや、なんでも」
「未来の経営者同士、隠し事はなしだろう勇者」
「……運命共同体になるんだなと思って少し感慨深かっただけだ」
「そうか」
 その後二人は無事独立し、共に会社を立ち上げ成功する。
 勇者が飲み込んだ言葉は数年後に現実となるが、それはまた別のお話。


(おわり)
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