夏だ! Wkumoみんみん祭・会場

「暑い」
「夏ですから」
 この場所は石造りなので少しは冷えるかと思ったのだが、やはり暑いものは暑い。床にべったりと足を伸ばして涼を得ようとしているのだがそれでも暑い。
「きつね、お前は暑くないのか? そんな厚着で」
「厚着じゃないですよぉ、これだからファッションに疎いたぬきくんは困りますね。ほら」
 ぴらりときつねが上着の袖をめくる。
「……」
「ちょっと、変なこと考えてるでしょ」
「考えてない!」
「お馬鹿さんですねぇ。僕が言いたかったのは、インナーは袖だけってことですよ!」
「袖だけ……ああ」
 俺はぽんと手を叩く。
「なるほど、それは涼しそ……いやでも俺半袖だが超暑いんだけど」
「それは君が暑がりだからでしょ。体感温度って獣によって違うんですよ。特に君なんかは代謝悪そうだし?」
「む、失礼な」
「悪口じゃないですよ」
「悪口みたいなもんだろ」
「なんでそうとるんですか、ひょっとしてそれで昔なんかありましたぁ?」
「いや……」
「親ですか?」
「む……」
 相変わらずお見通しなんだな……
「きつねなので」
「はあ……俺お前に隠し事できない気がしてきた」
「隠し事してるんですかぁ?」
「し、してない」
「カマかけただけなのにこのわかりやすさ。たぬきくんってほんとわかりやすいですねぇ」
「してないって言ってるだろ!」
「で、何のやましいことがあるんです? お話しなさいよほらほら。きつねは怒りませんよ」
「…………」
「おっとだんまり」
「だってさ……」
 だって……
「もしや浮気?」
「いやそれはありえない」
「わかりませんよぉ」
「いやありえない、俺はお前が一番……」
「一番、なんです?」
「な、な、な、何でもない!」
「あらあら、かーわいい」
 こいつ……
「わかってて言ったな?」
「はて、何のことやら」
 きつねは涼しい顔をしている。
「で、何を隠してたんです?」
「む、む………」
「何ですか、そっちに何かあるんですか?」
「なぜわかる!」
「一点を見つめてらしたのでぇ」
「探偵になれるよお前は……」
「いやたぬきくんがわかりやすすぎるんですよ。それで、」
「それで?」
「何を隠してたんですか?」
「…………」
「強情ですねぇ」
「隠し場所までわかってるならお前が開けてくれよ……」
「さすがにそんなことはしませんよぉ。失礼じゃないですか」
「…………」
「何かあるのは確かなようですが、これ以上隠すのはさすがに無理ってもんですよ」
「…………わかった」
 俺は渋々と立ち上がり、物入れを開けて箱を取り出す。
「何ですか? びっくり箱?」
「ん」
「?」
「やる」
「えっ」
「開けてくれ」
「開けますけどぉ……何です?」
 プレゼントボックスにかかっていたリボンを丁寧に解きながら、きつね。
「何だろうな……」
「じらしますねぇ」
 手際よく包装紙をはがしていく。それが露わになる。
「え」
「……」
「ヘッドホンじゃないですか!」
「そうだけど?」
「これもしかしてこの前僕が街で見てたもの……ですね?」
「欲しいのかなと思って買った」
「……」
「きつね?」
「ありがとうございます」
 ヘッドホンを持ったまま、ぺこりと頭を下げるきつね。
「えっ」
 素直すぎか。
「嬉しいです」
「そ、そうか」
「何で戸惑うんですかぁ」
「そんな素直にお礼言われるとは思ってなかった」
「だって嬉しいじゃないですか、……からのプレゼントって」
「……?」
「……いえ」
「まあとにかく喜んでもらえてよかったよ。捨てられたらどうしようかと思っていた」
「君はなんでまあそう」
「そうって?」
「地を這いすぎなんですよ!」
「地?」
「そういうの僕に失礼だとは思わないんですか! 嫌わないって言ったでしょ!」
「あーすまん」
「まあ癖だとは思ってますけどねぇ……そういうのは。あほですねほんとに、あほ」
「あほってお前」
「そういうところがかわいいんですけどね」
 褒められてるのかdisられてるのかわからない。
「物事には両面あるって言ったでしょ」
「ああ、覚えてる」
「……」
「何だにやけて」
「いーえ、何でも? 今日は機嫌がいいので君にアイスカフェオレを淹れてあげます」
「いつも淹れてくれるだろ」
「とにかく!」
 箱を畳んだきつねはぱし、と手を叩いて、
「僕は嬉しかったんです、二度は言いませんよ。君が僕の興味の先を覚えていてくれたり、言ったことを覚えてくれていたり、そういうの、すごく……幸せなんです」
「…………」
「あっフリーズしてる。じゃ、僕はカフェオレ淹れてきますんで」
 さっさと去るきつね。
「反則だろ……」
 それはテンプレ台詞も口にしてしまうというものだ。
「反則だ……」
 俺は床にべたりと倒れ伏し、でも暑い。しかしこの暑さはさっきまで感じていた暑さとはどこか違うような……知らん! 勝手にしろ! こんなことまでいちいち説明してたら何だ、羞恥プレイ極まれりだろ!
「怒らないでくださーい」
 遠くから、きつね。
「わかってるよ……」
 きつねが戻ってきても、俺はまだ床にべたーとしていた。
 そんな夏の話。
1/7ページ
    スキ